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タクシデルミア ある剥製師の遺言

魅惑的な映像、ぶっ飛んだストーリー。異才が放つ怪作!
タクシデルミア~ある剥製師の遺言~(通常版) [DVD]タクシデルミア~ある剥製師の遺言~(通常版) [DVD]
(2008/11/05)
ツェネ・チャバトローチャーニ・ゲルゲイ

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「タクシデルミア ある剥製師の遺言」(2006ハンガリー仏オーストリア)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 第二次大戦中、ハンガリー軍の兵士モロジュゴバーニは閉塞感漂う寒村で無為な日々を送っていた。彼の唯一の楽しみは自慰行為だけだった。その性欲は欲求不満が溜まった上官の妻へと向けられる。それから10数年後、二人の間に生まれた子供カールーマーンは大食い大会の選手になる。オリンピック出場を夢見て日々食欲の権化と化していくが‥。それから数十年後の現代、カールーマーンの息子ラヨシュは剥製師になって店を構える。
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(レビュー)
 三世代にわたる父子の数奇なドラマ。

 物語は3つのパートに分かれている。ハンガリーの時代背景を踏まえながら見ると中々面白い。
 人間の三大欲望といえば、性欲、食欲、睡眠欲である。祖父と父のパートは、このうちの性欲と食欲を描く物語になっている。そして、ここにはハンガリーの歴史と社会状況が大きく関係している。

 祖父モロジュゴバーニと父カールーマーンは、抑圧された社会の中で現実から逃避するように、それぞれ性欲と食欲に溺れていく。カールーマーンに到っては冷戦の真っ只中、国威発揚のプロパガンダにまで利用され国政の犠牲者になっていく。この二人のパートは、共産主義時代の中で欲望に忠実に生きた男たちのドラマとなっている。

 一方、ラヨシュのドラマは、冷戦時代後のドラマになる。この頃のハンガリーは共産主義が崩壊し、徐々に市場経済が参入し、人々は享楽の売買を当然のように受け入れながら生活を送るようになっている。そんな中、ラヨシュは外界と断絶して、アトリエに篭ってひたすら剥製作りに専念している。孤独な引き篭もり青年の姿を淡々と綴っていくのがこのパートだ。祖父と父のドラマは性欲と食欲をテーマにした物語だった。では、このパートのテーマは何だろうか?それは彼の私生活から読み解ける。

 ラヨシュは毎日、同じスーパーの同じレジで買い物をする。そして、お気に入りのレジの女性店員に視線を投げかける。しかし、相手は一向に気付いてくれない。当然である。彼女にとってみればラヨシュは只の客でしかないからだ。何と惨めな片恋慕であろう。

 ルーティン・ワークに流される彼の日常風景は無機的、つまり人間関係の希薄さ、人間性の喪失を表していると思う。レジの女性に気付いてもらえないという寂しさ、対人関係に何の期待も持てないという諦めから、彼は黙々と剥製の世界に没頭しているのだ。ラヨシュは前の二人の主人公に比べると、明らかに禁欲的に生きている。そもそも、生よりも剥製(死)の世界にのめりこんでいることからして、何とも覇気がない。

 かつて祖父と父は抑圧された共産社会で欲望に忠実に生きていた。それはある意味で人間の自然な生き方だったのかもしれない。しかし、ラヨシュは自由が許される現代において、敢えて欲望を押し殺して禁欲的に生きている。この対比から現代人の生き方の実像が見えてくる。つまり、現代人の非人間性、孤独性をこの映画は暗に風刺していると捉えられるのだ。

 映像はキッチュで幻惑的でかなりクセがある。アブノーマルな性描写や下ネタも登場してくるので苦手な人は覚悟して見たほうがいいだろう。また、ラヨシュの剥製作りにはグロ描写も登場してくるのでこれも注意した方が良い。しかし、醜いもの、汚らしいものは人間が本来持っている欲望の表れとも言える。人間の欲望をテーマにした本作において、それを直視させる作り手側の意図は当然といえば当然という気もした。
 逆に、飛び出す絵本のようなポップな演出も見られる。様々なトーンを使い分けるこの監督の映像センスには目を見張るものがあった。今後どういう作品を撮るのか?ハンガリーの新しい才能として注目したい。

 尚、本作は2004年サンダンス映画祭でNHK国際映像作家賞を受賞している。スポンサーであるNHKのバックアップを受け、通例ならTV放映されるはずだったがそれは出来なかった。映像描写に難色を示したのだろう。R指定でなければ放映できないと思う。
[ 2010/09/22 22:05 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(2)

はじめまして。
私も観ました。しかも、映画館で・・・・。
いろんな意味で灰汁があり、印象が強かったです。
けど含みと皮肉を込めた様は、後からジワジワときました。
[ 2010/10/09 00:37 ] [ 編集 ]

はじめまして。
映画館では見れず、今回DVDでの鑑賞でした。
この映画は外観がかなり特異なので、見終わった後に映像が残りますね。クセのある物語も読み込んでいくと、色々と考えさせられるものがあります。そういう意味では、おっしゃるとおり後に引くタイプの映画だと思います。
[ 2010/10/10 01:17 ] [ 編集 ]

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