「マッドゴッド」(2021米)
ジャンルアニメ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 孤高の戦士アサシンはある目的を持って荒廃した地下世界に潜りこんだ。そこは不気味なクリーチャーたちが蠢く地獄のような世界だった。アサシンは様々な光景を目撃しながら地底奥深くへと進んでいくのだが…。
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(レビュー) 「スター・ウォーズ」シリーズや「ロボコップ」シリーズ、「スターシップ・トゥルーパーズ」シリーズのストップモーションアニメを手掛けたフィル・ティペットによるダーク・ファンタジー。
めくるめく悪夢的世界に圧倒されてしまった。
物語はあってないようなもので、ある目的を持った一人のアサシンが地下世界に潜り込んでグロテスクな光景を目撃していく…という体で進行する。何の脈絡もなくシュールで意味不明な光景が次々と出てくるので、苦手に思う人は多いだろう。
また、セリフが全くないため、この世界観を把握できないまま観ていくことになり、途中で「ワケ分からん」と放り出してしまう人がいても不思議ではない。自分も早々にストーリーを追いかけることを諦め、この独特な世界観に身を委ねながら、邪悪な映像の数々を「体感する」ことにした。
実際、ここまでぶっ飛んだ世界観というのも中々見たことがない。テイストは全く異なるが「ファンタスティック・プラネット」(1973チェコ仏)以来の衝撃的体験である。
地下に生息するグロテスクな生き物たちの醜悪さや、至る所に死臭と汚物感が漂う光景は、正直見ててキツいものがある。ただ、これがフィル・ティペットの脳内で生成された世界だと言われれば、その圧倒的物量と情報量には素直に首を垂れるしかない。ここまで画面に浩々と己の世界観を再現したこと自体、他の誰にも真似できないのではないだろうか。
本作の製作は元々は30年前に始まったそうである。ところがCG全盛の時代になり、ティペットの創作意欲も意気消沈。それから20年後に、彼のスタジオのクリエイターたちを中心に再び製作が再開されたということだ。実に苦節30年。正に執念の作品と言うことが出来よう。
アニメーションとしてのクオリティも申し分ない。一部でCGや実写映像を使っている個所もあるが、約90分間。ストップモーションアニメらしい面白さが詰まっている。
最も印象に残ったのは、アサシンの解剖シーンだった。腹の中から取り出されたあのクリーチャーは一体何だったのか?デヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」(1993米)を思い出してしまった。しかも、あのような顛末が待ちうけていようとは…。時計の針が再び動き出すという展開に「2001年宇宙の旅」(1968米英)のオマージュも感じられた。
尚、アサシンを地下世界に送り出したマッドサイエンティスト役を映画監督のアレックス・コックスが演じている。これまでフィル・ティペットとの繋がりは、少なくとも作品上では無かったので、意外であった。
「クー!キン・ザ・ザ」(2013ロシア)
ジャンルアニメ・ジャンルSF・ジャンルコメディ
(あらすじ) 世界的に著名なチェリストのウラジーミルとDJ志望の青年トリクは、モスクワの街角で異星人と遭遇する。トリクが異星人の持っていた空間移動装置を迂闊にいじってしまい、2人はキン・ザ・ザ星雲の惑星プリュクにワープしてしまう。そこには「クー!」と奇妙な挨拶をする異星人が住んでいた。2人は、そんなプリュク星人に翻弄されながら地球に戻るべく旅を始めるのだが…。
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(レビュー) 1986年に製作されたSF映画
「不思議惑星キン・ザ・ザ」(1986ソ連)の監督ゲオルギー・ダネリアが自らリメイクしたアニメ作品。
オリジナル版は独特なオフビートなタッチとシュールな世界観が唯一無二の魅力を醸し出しており、カルト的な人気を誇っている作品である。また、当時の社会事情などを併せ考えると冷戦時代の風刺として捉えることも可能で、ジャンル映画という枠組みを超えた奥深さを持った作品としていまだに語り継がれている。
それを改めてリメイクしたというからには、おそらくダネリア監督の中に何か狙いがあるのだろうと思った。ただ、一部設定が変更になっていることを除けば、物語自体はオリジナル版をほぼ踏襲しており、時代の変化とともに何か別のメッセージが発せられているわけではない。どうせリメイクするのであれば、今の時代ならではの新解釈を見せて欲しい気もしたが、最初からそういうつもりはなかったのだろう。
ただ、オリジナル版が持つ普遍的なメッセージは現代でも十分に通用する力強さを持っている。プリュク星の貧富の格差は現代の格差社会を照らし合わせて見ることもできるし、砂漠と化した惑星に地球温暖化の問題を見ることもできよう。
また、アニメーションとして表現されたSFガジェットの数々は、イマジネーション豊かに再現されており、オリジナル版よりも先鋭化されている。プリュク星の住人も大変奇抜な造形にリニューアルされており、このあたりはアニメならではの表現力と感じた。
オリジナル版は大分前に観たので、ストーリー自体は所々忘れていたのだが、今作を観ることで色々なシーンがよみがえり懐かしい思いにもさせられた。
尚、ダネリア監督にとってはこれが遺作となってしまった。実は、本国では大変人気の高い映画監督であるが、残念ながら日本では「不思議惑星キン・ザ・ザ」の他に数本しか紹介されていない。いつの日か日本でも再評価される日が来て欲しいものである。
「ムタフカズ」(2017日仏)
ジャンルアニメ・ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) ボロアパートに暮らす若者リノはガイコツ頭の同居人ヴィンスと臆病な友だちのウィリーと無為な日々を送っていた。ある日、道ですれ違った美少女ルナに一目惚れしたリノは、その直後に交通事故に遭ってしまう。それ以来、リノは他人に奇怪な影を見るようになってしまう。
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(レビュー) スラム街に住む冴えない青年が巨大な陰謀に戦いを挑んでいく日仏合作のバイオレンスSFアニメ。
アニメーション制作を「マインド・ゲーム」(2004日)や「鉄コン筋クリート」(2006日)等で知られるスタジオ4℃が手掛けているとあって、エッジの利いた映像が横溢し大変面白く観ることが出来た。
独特なタッチのキャラクターは好みが分かれる所かもしれないが、スピード感あふれるアクション・シーンはカタルシス満点でアーティスティックな感性もそこかしこに見られ、目で見て楽しむというアニメーション本来の魅力が味わえた。
特に、中盤のカーチェイスは、音楽と映像が一体となった痛快無比なシーンに仕上がっており興奮させられた。リノが運転するアイスキャンディーの車から流れる音楽をアクションシーンの中に取り入れたアイディアとセンスが抜群である。
また、リノたちが暮らす”DMC”は一昔前の荒れたロサンゼルスよろしく、銃を携帯したギャングが横行する腐敗した街である。犯罪の匂いが漂う雑多な感じが中々面白い。しかも、そこに住む住人はヒスパニック系、アジア系、アフリカ系といった有色人種が多く、SFファンタジーでありながら、どこか現実世界を意識したユニークな世界観になっている。
もっともリノは真っ黒な姿だし、ヴィンスはガイコツで、ウィリーは犬に似た容姿ということで、主要キャラ3人についてはファンタジックな造形になっている。
一方、物語はリノが背負う宿命を巡る壮大な陰謀のドラマとなっている。しかし、この陰謀自体が尻切れトンボというのはいただけなかった。リノとルナのロマンスも中途半端なまま放出されたままで完全に消化しきれていないのも残念だった。
本作には原作(未読)のバンド・デシネがあるようだが、もしかしたら今回は途中までの映画化だったのかもしれない。
尚、本作の監督は、日本人の西見祥示郎と原作者のギョーム・”RUN”・ルナールという人である。西見氏はスタジオ4℃の作品に携わっているほか、「下妻物語」(2004日)のアニメーションパートも手がているベテランアニメーターである。
ギョーム氏は原作のほかに本作の元となったフラッシュアニメを自主製作しており、中々多才な人物である。映画の序盤でボロアパートを舞台にしたアクションシーンが登場するが、それをパイロット版のような形で作成している。youtubeなどで見れるので興味のある方はmutafukazで検索してみるといいだろう。
「THE FIRST SLAM DUNK」(2022日)
ジャンルアニメ・ジャンルスポーツ・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 湘北高校バスケ部はインターハイで強豪・山王工業とぶつかる。湘北のポイントガード宮城リョータにとって、この試合は幼い頃から思い描いていた因縁の対戦であった。試合は白熱した展開を見せながら進んでいくのだが…。
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(レビュー) 1990年代に少年ジャンプで連載されたバスケマンガ「SLAM DUNK」の劇場用アニメ。連載当時はテレビアニメ化もされ一世を風靡した人気作である。今回は原作者である井上雄彦氏が自ら監督、脚本を務めて製作した作品である。
自分は原作とテレビアニメを見ていたこともあり、作品に対する思い入れはそれなりに強い。だからこそ、なぜ今になって劇場用アニメ化?畑違いの井上雄彦にアニメ映画の監督が務まるのか?そうした心配があった。
しかし、結論から言うと、原作でもテレビアニメでもない、新しい「SLAM DUNK」を見せてくれたという意味で大変満足することが出来た。もちろん原作もテレビアニメ版も好きなのであるが、それとは違う新鮮な面白さが感じられた。リメイクとは懐古主義に堕してしまってはダメだと思う。今の観客に向けて作るという所に大きな意義があり、おそらく井上雄彦自身もそういう意図で本作の製作に臨んだのではないだろうか。
物語は、原作でも大きな見せ場となった山王戦をメインに展開される。その中で湘北のメンバーそれぞれに焦点を当てたドラマが語られていく。この構成は試合の緊張感やスピード感が度々寸断されるというデメリットはあるが、個々のキャラを紹介する前段のドラマを手際よく処理できるというメリットもある。功罪あると思うが、この構成自体は上手いやり方だと思った。原作を知っている人にとっては様々な思い出が蘇るし、そうでない「SLAM DUNK」初見の人でも退屈することなくダイレクトに作品に入り込めると思う。
その中でメインとなるのが宮城リョータのドラマである。原作では桜木花道が主役なので、リョータをメインに据えたことに正直なところ驚きがあった。しかし、また違った角度からこの世界観を楽しむことが出来たことは新鮮であったし、何よりリョータが辿ってきた過去が大変ドラマチックなもので、メインのドラマたるに十分の魅力が詰まっている。後で知ったが、彼に関する読み切りマンガがあったらしく、それをベースに敷いているということだ。
さて、公開前に短い予告スポットを小出しにしていた本作であるが、それを見た時点で映像が明らかに3Dアニメと丸分かりで、テレビアニメ版に慣れ親しんだ自分にとっては正直かなりの不安を感じていた。最も違和感を覚えたのは背景のモブなのだが、しかし大画面で見るとそこまでの不自然さは感じなかった。
また、原作マンガを再現したかのような2D的な肌触りは、3D特有の無機質さを打ち消し、なんならマンガの絵に近い感じすらして感動を覚えた。声や音楽、演出の功績も大きい。これらが井上雄彦の”絵”に加わることで、見事にアニメーションならではの躍動感が生まれている。
キャスト陣は、テレビアニメ版から一新されているが、同じ世界観でも別角度から捉えた本作にあっては、それもまた良し。むしろ同じではテレビアニメ版から離れられなくなってしまうので、これで正解だったように思う。
少し気になったのはエピローグだろうか。おそらくここに持って行くために途中で山王のエピソードを入れたのだろう。ファンサービスとしてはいいかもしれないが、個人的には少し戸惑いを覚えた。もっとすっきりとした構成、終わり方でも良かったような気がする。
「すずめの戸締まり」(2022日)
ジャンルアニメ・ジャンルアクション・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 震災の被害で母を失った17歳の女子高校生すずめは、今は叔母と平穏な暮らしを送っている。ある日、すずめは扉を探しているという青年・草太と出会う。彼は廃墟の中にある災いの扉を閉めて鍵をかける“閉じ師”だった。すずめはそうとは知らず、災いの扉で取り返しのつかない事態を引き起こしてしまう。
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(レビュー) 震災で母を失った少女と、災いを封じ込める”閉じ師”の青年の旅を、美麗な映像で綴ったファンタジーアニメ。
大ヒットし社会現象まで巻き起こしたアニメ
「君の名は。」(2016日)、
「天気の子」(2109日)の新海誠の新作ということで誰もが注目するところであるが、今回も安定のキャッチ―さ、ポップさでエンタテインメントとしてそつなく作られており、改めてその手腕に唸らされた。
ただ、今回は3.11というデリケートな問題を取り上げており、そこはこれまでにない挑戦に思えた。
結論から言うと、すずめのトラウマ克服というテーマは、かなりしっかりと語られていたように思う。災いをもたらす扉がいかにして廃墟に現れるのか?そのあたりの説明がなおざりだったので腑に落ちなかったが、扉の向こう側に見る過去の震災の記憶に正面から向き合うことで未来へ歩み出す、すずめの姿に素直に感動することが出来た。
ちなみに、同じテーマを描いた作品で、諏訪敦彦監督の
「風の電話」(2020日)という映画を思い出した。あれも震災で家族を失ったヒロインが叔母の元で暮らしているという設定で、本作のすずめとよく似ている。故郷を目指す旅の中で震災のトラウマを払拭していくというドラマも一緒である。
さて、本作にはもう一つ見所がある。それは、すずめが草太に淡い恋心を抱くというロマンスだ。草太は途中からある事情ですずめの思い出の品、椅子の姿に変えられてしまうため、過去の新海作品と比べるとコメディ・ライクな仕上がりになっている。ただ、すずめのトラウマ克服というドラマと併走させてしまった結果、こちらは今一つ弱く映ってしまった感が否めない。
また、物語は災いの扉を守ってきた”要石”を追いかけるロードムービーになっていくが、その道中ですずめたちは様々な人たちの優しさに触れていく。これらのエピソードも楽しく観ることができたが、惜しいかな。ドラマ上、余り有意義なものとなっていないのは残念であった。
例えば、母親代わりになって育ててくれた叔母の苦労を知るとか、草太への思いを改めて強くするなど、すずめの成長を促し前に進む”きっかけ”になってくれていれば更に良かっただろうと思う。
そして、終盤に行くにつれて、こちらの理解が追い付かない状況が次々と起こり、個人的には今一つノリきれなかった。
例えば、もう一つの”要石”が如何にして出てきたのか?そして、叔母になぜ憑依したのか?そのあたりのことがよく分からない。考察する材料があればまだいいのだが、そうしものが劇中では余り見つからなかった。結局、作り手側だけで自己完結してしまっているのような気がしてならない。
映像はスケール感のあるアクションシーンを含め、十分に楽しむことが出来た。今回は前作までのビスタサイズから横長のシネスコに変わっている。そのためより一層の迫力が感じられた。序盤の廃墟の中に佇む扉の映像も大変神秘的で印象に残る。
キャスト陣は、皆それぞれ好演していたように思う。旅の途中で出会う個性的なサブキャラも活き活きと表現されていて良かった。
尚、本作には魅力的な女性キャラが多く登城するが、逆に男性キャラは少ない。すずめが旅の途中で出会うのは、旅館を切り盛りする女将とその娘、神戸ではスナックを営むシングルマザー。そして、すずめの父親についての言及はほとんどなされていない。もちろん草太や彼の友人・稔など、男性キャラがいないわけではない。しかし、圧倒的に父性不在のドラマになっており、そこは何か意図してのことなのかどうか?観終わった後に少し気になった。