ニートの青年が閑静な住宅街にある豪華マンションの一室を訪れる。そこは男2万円、女千円で参加できる乱交パーティの会場だった。彼の他に集まってきたのは平凡なサラリーマン、フリーター、童貞青年、地味なメガネの女子大生、OL、保母、週5日間ここに通っている常連女の総勢8名だった。バスタオル1枚姿で部屋に集まった彼らは、夫々にぎこちない会話を始めていく…。
(レビュー) 童貞青年の痛々しい恋愛を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2009日)で監督デビューを果たした三浦大輔監督によるシニカルな艶笑劇。自身が率いる劇団ユニット“ポツドール”で上演した舞台劇を自ら映像化した作品である。
三浦監督作品は「ボーイズ~」しか見ていないが、独特のオフビートな感覚が結構ツボである。今回もそのテイストは健在で、物語の舞台設定が閉ざされた乱交パーティー会場というユニークさもあって、終始面白く観ることが出来た。
例えば、8人の男女が恐る恐る会話を始める序盤のシーケンスは、ダイエットの話題などのたわいもない世間話からスタートする。本当であれば皆セックスするためにここに来たのだから正直にそう言えばいいものを、どこかで照れを感じ表面を取り繕うのである。このあたりは、いかにも日本人らしいなぁ‥と笑ってしまった。
本作にはこうした笑える部分が多々ある。
ただ、ドラマそのものを見ていくと実はそう簡単に”喜劇”として割り切れない部分もあり、主人公青年の喪失感、絶望感がひしひしと伝わってくるラストなどは色々と考えさせられた。そういう意味では、ビターな青春映画‥という形容も可能である。
本作の主人公は名もなきニート青年である。彼はなけなしの金を手にこの秘密クラブにやって来た。しかし、今まで女性と付き合った経験が余り無いのだろう。続々とカップルが決まる中、奥手な彼は最後まで残ってしまう。そして、同じく最後まで残った地味なメガネの女子大生に勇気を出して声をかけて晴れてカップルになる。
ところが、この女子大生。大人しそうに見えて実はかなり大胆な女性で、セックスの最中に大声で喘ぐのだ。これにはニート青年もタジタジ(笑)。このシーンは大いに笑える。
ところが、ある瞬間、女子大生は突然「先輩~!」と叫ぶのだ。おそらく彼女が密かに恋焦がれている相手だろう。彼女はその先輩に失恋したのか。はたまた、思いを伝えることが出来なかったのか。それは分からないが、ともかくも彼女はその失恋を忘れようとしてこのパーティに参加したのである。
主人公の青年からしてみれば、嘘でもいいから一時の恋人気分に浸りたい‥そう願ったのに、その期待は脆くも打ち砕かれてしまう。
これは実に滑稽とも言えるが、同時に青年の気持ちからしてみれば何とも惨めな気分にさせられるシーンである。
本作には彼らの他にも様々な個性的な人物が登場してくる。サラリーマンやOL、保母、フリーター等、夫々に表向きは普通の人々だが、一皮むけばフリーセックスを楽しもうとやって来たスケベ共である。仕事や結婚生活のストレス等、夫々に理由はあろうが、彼らは性欲のはけ口を求めてこのパーティーに参加している。
但し、そんな中、唯一場違いな青年がいて、これがストーリーに良いアクセントをもたらしていて印象に残った。それはこのパーティーで脱童貞をしようとうする、見るからに非モテ系な太った青年である。女性と付き合ったこともないだろう彼は、ここでなら相手をしてもらえるという淡い期待を抱いてやって来た。当然周囲からはバカにされる。しかし、何と彼はここで週5日間通う常連女とカップルになるのだ。このエピソードは微笑ましかった。しかも、ついさっきまで童貞だった彼が、様々な手ほどきを受けてどんどん逞しくなっていく所が面白い。ちなみに、この常連女の方もかなりアクが強くて面白いキャラだった。
このように本作には8人の男女が登場してくるが、夫々にドラマがあり、夫々に葛藤があり、中々濃密なドラマが繰り広げられている。個性的な面々が揃っているので、果たして自分はどのタイプかな?と考えながら見ていくのも面白かろう。ある種群像劇的な楽しみ方も出来る作品である。
また、8人は夫々にパートナーを次々と変えていくのだが、これもストーリーにパワーゲーム的なを魅力をもたらしていて◎。侮蔑や嫉妬といった負の感情が”場”を凍り付かせたり、盛り上げたりながら、個々の関係性をスリリングに見せており、シナリオ自体はよく書けていると思った。さすがに元が舞台劇だけのことはある。
そして迎えるラスト。ここは実に辛辣に見れた。主人公青年の一時の恋は”一炊の夢”に終わり、観終わった後には何とも言えぬ気持ちにさせられた。
結局は男の純情を女の”したたかさ”が振った‥ということになるのだが、主人公は極めて厳しい現実を思い知ったに違いない。そう意味では実に不憫に思った。
ただ、その一方で自分は彼のこれまでの姿を見て、こうも思った。これが当然の結果なのではないか‥と。
主人公青年は、周囲がカップルになっていく間、ずっと部屋の隅でうつむいて座っていただけだった。誰ともコミュニケーションを取ろうとせず、最後の一人になるまで待ち続けた。しかし、それではダメなのである。オーバーな言い方になってしまうが、相手を蹴落としてでも手柄を横取りしてやろうという気概がなければ厳しい社会を生きていくことは出来ない。
そんなウジウジとした半人前の男であるからして、本作の顛末は当然と言えば当然という気がした。気の毒とは思うが、こういう結果になってしまったのは仕方のないことである。
尚、本作はこのまま終わっていれば非常に後味が悪くなっていただろうが、その後にちょっとしたエピローグが用意されている。これが思わずクスリとさせるようなエピソードで心が少しだけ和んだ。床に落ちたコンドームと携帯の写真の対比が面白い。
キャストは夫々に好演していると思った。本作は内容が内容だけに、かなり際どいセックスシーンが連発するが、皆臆せず体当たりの演技を披露している。特に、ヒロインである女子大生役を演じた門脇麦の熱演は圧巻だった。
一方、本作で唯一残念に思ったのは、頻繁に反復される美しい旋律のBGMである。淫靡さとの対比を狙ったのだろうが、こういうのは1本の作品に1回だからこそ効果があるのであって、何回も繰り返されるとしつこく感じてしまう。