「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」(2017米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルスポーツ
(あらすじ) トーニャ・ハーディングは幼い頃から、母ラヴォナの元でスケート選手になるべく毎日厳しい練習をさせられていた。やがてその才能が開花すると、瞬く間に世間の注目の的となっていく。そしてジェフという青年に出会い恋に落ちるのだが…。
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(レビュー) オリンピックにも出場したことがあるフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの半生を綴った伝記映画。
彼女は1994年のリレハンメル・オリンピックに出場する際、当時ライバルだったナンシー・ケリガンに対して妨害工作をしたという事で起訴され、世界的に大きなニュースになった。その真相に迫る内容は興味深く観れた。
また、それ以外に母親との確執、夫ジェフからのDV行為といったプライベートな問題も赤裸々に描かれている。誤解を恐れずに言うなら、ある種ゴシップネタ的な楽しみ方ができる作品だと思う。
ただ、一つ気になったのは、果たしてこの映画で描かれていることはどこまで真実なのだろうか?という点である。普通この手の伝記映画の場合、たいてい関係者の手記や原作小説が存在するものだが、本作にはそうした元となる素材がクレジットされていない。おそらくだが、関係者の証言などを元にストーリーを作っていったのだろうが、その検証はどこまで徹底されているのだろうか。ある程度娯楽としての面白さが上積みされているような気もしたが…。
実際、映画を観てみると予想以上にユーモラスな味付けが施されている。トーニャのバックストーリーは悲惨極まりなく、件の妨害工作も大変陰惨な事件だが、そうしたシリアスさを感じさせないくらいに周囲の関係者は能天気だ。
監督は
「ラースと、その彼女」(2007米)のクレイグ・ギルスピー。「ラースと~」はリアルドールを恋人だと思い込んだ青年をユーモラスに描いた作品だったが、本作でもそのタッチは継承されている。毒のあるドラマをコミカルに仕上げることで大変取っつきやすい作品に仕上げている。軽快な演出とポップな映像センスは「ラースと~」の頃に比べると随分と垢抜けた印象を持った。
また、モキュメンタリー風に登場キャラのインタビューシーンを挿入するのも中々凝った構成で面白かった。ただ、これも本人でない以上、どこまで信用して観ていいのかは判断しかねる所である。
キャストでは、トーニャを演じたマーゴット・ロビーの熱演が素晴らしかった。後から知ったが、彼女は元々アイスホッケーの経験があるらしく、本作でもその経験を活かして華麗なスケーティングを披露している。もちろんCGや吹替えでカバーしている部分もあろうが、それを差し引いても見事な身体能力の高さを発揮していて感心させられた。
中でも、オリンピックの大舞台に立つ直前、鏡の前で泣きながら無理やり笑顔を作るシーンは印象に残った。これまでの道のりを思い出して感極まったのか、それとも夢にまで見た舞台を前にして感情が高ぶったのか。その真意は色々と想像できるが、自分は何だかその笑顔を見てとても憐れに感じた。
「ファイティング・ファミリー」(2019米)
ジャンルスポーツ・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) イギリス北部の小さな町で暮らすナイト家は筋金入りのプロレス一家。18歳のサラヤもプロレスを心から愛し、いつかは世界で活躍する選手になりたいと夢みていた。そんなある日、彼女は兄のザックとともに憧れの世界的プロレス団体WWEのトライアウトに参加するチャンスを得る。
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(レビュー) WWEで活躍した実在の女子プロレスラー、ペイジの半生を描いた青春スポ根ドラマ。
自分は少し前にWWEを見ていた時期があったのだが、その時にはペイジは華々しい活躍を見せていた”ディーバ(女子レスラーのこと)”だった。いわゆるヒール(悪役)としての立ち位置を確立し、男性ばかりが目立つWWEにおいて女子部門の復権に一役買った選手だったように思う。
そのペイジの半生を描いたドキュメンタリー映画が2012年に「The Wrestlers: Fighting with My Family」というタイトルで製作された(未見)。本作はそれを元に作られたフィクション作品である。
”フィクション”ということからも分かる通り、本作には色々と事実と異なる点がある。例えばロック様とペイジの初対面はここで描かれている時期よりもずっと後であるし、そもそも彼女はWWEのトライアウトを一度落ちている。
このように事実の改ざんは確かにある。ただ、基本的には彼女の辿ってきた半生は概ね忠実に再現されており、個々の改ざんはドラマを面白くしようとするための工夫、演出という認識で、自分は特に気にならなかった。
物語はテンポよく展開されている。サラヤの葛藤もきちんとツボを押さえられており、全体的にはそつなく仕上げられていると思った。非常にオーソドックスなサクセスストーリーと言えよう。
個人的には、サラヤと一緒にプロレスをしてきた兄ザックの姿にしみじみとさせられた。彼はサラヤと一緒にWWEのトライアウトを受けるのだが、自分だけ落ちてしまう。WWEは選手にスター性やカリスマ性を求める団体であり、それがないとバッサリと切り捨てられてしまう。残念ながらザックにはその素養がないと判断されたのだろう。結局、彼は田舎に戻ってインディー団体で細々と活躍し続けることになる。サラヤに差を付けられたという悔しい思いは痛いほどよく分かる。そして、そんな彼が落ち込んで帰ってきたサラヤを勇気づける姿にはジーンと来てしまった。
このように本質的にはプロレス映画という体を取っているが、その中身は兄妹の愛憎を描いた良質なドラマになっている。只のスポ根映画とは違い、一定の味わいを持った好編で中々の見応えを感じた。
サラヤを演じるのはフローレンス・ビュー。
「ミッドサマー」(2019米)や「ストーリ・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」(2019米)、「ブラック・ウィドウ」(2020米)等、今や話題作に引っ張りだこの若手女優である。そんな彼女が、ここでは体を張って慣れないプロレスに挑戦しており、そこも大きな見どころである。
「フォックスキャッチャー」(2014米)
ジャンルスポーツ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1984年のロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手、マーク・シュルの元に大財閥デュポン家の御曹司ジョン・デュポンの連絡が入る。彼が結成したレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”への参加をオファーされた。メダリストとは言っても苦しい生活を強いられるマークにとってそれは願ってもないチャンスだった。マークはこの申し出を受け、早速、最先端トレーニング施設を有するデュポンの大邸宅を訪れるのだが…。
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(レビュー) レスリングのオリンピック金メダリストと彼を支えた大富豪の愛憎をシリアスに綴った人間ドラマ。実話の映画化である。
但し、実話とは言っても、この映画の中で描かれていることは必ずしも全てが真実とは言えない。そのあたりはこの記事に詳しく描かれているので参照されたし
(映画『フォックスキャッチャー』では描かれなかった17の真実!)。
監督は「カポーティ」(2005米)、
「マネーボール」(2011米)のベネット・ミラー。これまで撮ってきた映画はいずれも実話物であり、ジャーナリスティックな視線が感じられる問題作ばかりである。その彼が今回取り組んだのがスポーツ界の”闇”というのは当然と言えば当然かもしれない。この監督は徹底してドキュメンタル志向なのだろう。
とはいえ、先述したように実際の事件背景とはかなり違っている点もあり、このあたりは映画を観て戸惑いをおぼえる所である。しかも徹底したリアリズムで演出するから余計にたちが悪い。本作を観て全てを真実と受け取る人もいることを考えると、今回の創作姿勢は余り感心しない。
ただし、映画自体は困ったことに実に面白い。人間の欲望、嫉妬、虚栄、様々なエゴがドラマチックに描かれており、たとえ脚色されているとはいえ一時も目が離せないスリリングな作品になっている。
物語は、孤独な金メダリスト、マーク、彼をサポートするデュポン、更にはマークの兄で同じレスラーであるデイヴ。この三人の愛憎劇となっている。マークはデイヴに対するコンプレックスを抱いており、いつか兄を超えたいと思っている。そこにデュポンが現れて、お前をもっと強くしてやると指南していく。
普通のスポーツ映画であればここから一気に上昇志向のドラマに転換していくのだろうが、本作は違う。確かにマークは一時は栄光を掴みとるが、その座に満足し徐々に堕落していくようになっていく。デュポンはそんな彼を奮起させる理由から、ジムに新たにデイヴを招き入れて二人を切磋琢磨させようと画策する。ところが、これがかえってマークの心を傷つけることになってしまう。
三者三様、それぞれの思惑が濃密に描かれていて面白い。特にデュポンのキャラクターは秀逸である。
やはり彼もマーク同様コンプレックスの塊のような男で、そのコンプレックスの対象が母親にあるという点が出色だ。幼い頃から何不自由なく暮らしてきた御曹司だが、厳格な母との間には長年に渡って確執があり、その反発が今の彼を形成している。母に認められたいという自己顕示欲とも言える。例えば、トレーニング場に母親が見学しにやって来るシーンがあるが、ここで彼は得意気に彼女に自慢する。このように本作はデュポンの目線に立って観てみても面白い物語になっている。
一方でマークとデイヴの軋轢も濃密に描かれていて見応えがあった。こちらは主にマークに感情移入しながら観れるように構成されており、個人的にはモーツァルトとサリエリの愛憎を描いた傑作「アマデウス」(1984米)を連想した。
キャスト陣の好演も見逃せない。
デュポンを演じるのはスティーヴ・カレル。
「40歳の童貞男」(2005米)等、主にコメディ映画で活躍していたが、今回は徹頭徹尾シリアスな演技を貫いている。特殊メイクも奏功しているとはいえ、何を考えているのか分からない不気味さが加わり、ある種得体のしれないモンスター感を醸しキャリア最高の演技を披露していると言って良いだろう。
マークを演じるのはC・テイタム。
「マジック・マイク」(2012米)、
「21ジャンプストリート」(2012米)等、彼もどちらかと言うとコメディ作品を得意とする俳優だが、ここでは終始シリアスな演技に徹している。
そして、デイヴを演じるのはマーク・ラファロ。すでに数々の作品で芸達者ぶりを見せいている彼だが、本作は一見して彼と分からぬような禿げあがり方をしていて、これも特殊メイクの妙だろう。安定した功演を披露している。
「クリード 炎の宿敵」(2018米)
ジャンルスポーツ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 世界チャンピオンベルトを勝ち取ったアドニスは、恋人ビアンカとの結婚も決まり幸せの絶頂にいた。そんなアドニスに、過酷な環境から勝ち上がってきた男ヴィクターが挑戦状を叩きつけてくる。彼の父はアドニスの父アポロの命を奪った、あのイワン・ドラゴだった。かつてドラゴと激しい戦いを繰り広げたトレーナーのロッキーは、この対戦に否定的だったが、父の復讐に燃えるアドニスはその挑戦を受ける。
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(レビュー) 「ロッキー」シリーズの続編である
「クリード チャンプを継ぐ男」(2015米)の第2作。
今回のアドニスの敵は、「ロッキー4/炎の友情」(1985米)に登場したドラゴの息子ヴィクターである。アドニスの父アポロの命を奪った憎き宿敵の息子ということで、彼はこの戦いに復讐心を燃やしていく。ところが、ロッキーはこれに反対する。憎しみだけでは戦いに勝てない…と説得するのだ。
物語はアドニスの葛藤を軸に展開されているが、その傍らではロッキーの心情も丁寧に描写されており、自分はそちらの方に感情移入してしまった。盟友アポロを目の前で救えなかった贖罪に捉われ続けているロッキーは、また同じ過ちを犯すのではないか?という不安に駆られ今回の挑戦を受けるなとアドバイスする。その胸中を察すると、この物語はまた別の角度から楽しむことができると思う。
一方のドラゴ親子にもドラマは用意されている。国の威信をかけて米ソ代理戦争のようになった過去のロッキー戦に敗れ、彼はどん底のような人生を送っている。そして、自分が成し遂げなかった夢を息子ヴィクターに賭ける。ドラゴ親子の思いも痛いほどよく分かる。
この「クリード 炎の宿敵」はアポロとドラゴ、夫々の親子二世代に渡る因縁のドラマとなっている。
非常にストレートなドラマだが、そこにロッキーの心情が巧みに混入されており、全体的には良くできている作品となっている。
惜しむらくは、ドラゴ親子の心情にもう少し寄り添うようなシーンがあると更に良かったかもしれない。最後のアッサリとした退場も少し物足りなく感じられた。
監督はこれが長編映画2作目となるスティーヴン・ケイブル・Jr.。前作で監督・原案・脚本を務めたライアン・クーグラが今回は製作総指揮に回っている。監督は変わったが、本シリーズの肝となるS・スタローンが引き続き原案と脚本を書いていることもあり、シリーズ上の破綻はない。堅実にまとまっている。
尚、スティーヴン・ケイブル・Jr. の次作は「トランスフォーマー」シリーズの新作ということだ。
キャストでは、マイケル・B・ジョーダンの鍛え抜かれた肉体が相変わらず健在で、逞しきクリードの戦いを熱く再現している。
スタローンも相変わらずいい味を出している。
そして、ドラゴ役に復帰したドルフ・ラングレンの再登場も嬉しい。「ロッキー4」をきっかけにスタローンのパートナーとなったB・ニールセンがドラゴの妻役として再登場している。
「クリード チャンプを継ぐ男」(2015米)
ジャンルスポーツ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) かつてロッキーとライバル関係にありながら不遇の死を遂げたボクサー、アポロ・クリード。彼にはアドニスという隠し子がいた。荒んだ幼少期を過ごしたアドニスは、養護施設に入っていた所をアポロの妻に引き取られる。数年後、すっかり更生したアドニスだったが、父が命を賭けたボクシングに対する情熱を捨てきれず、家を出て単身フィラデルフィアへと渡った。そこで父のライバルだったロッキーに出会うのだが…。
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(レビュー) 不屈のボクサー、ロッキーの活躍を描いた「ロッキー」シリーズは
「ロッキー・ザ・ファイナル」(2006米)を最後に終了となった。しかし、主演したS・スタローンのシリーズへの情熱は消えることなく、ロッキーの宿敵アポロの息子を主役に据えてこうして新たなシリーズを出発させた。
本作の後に続編「クリード 炎の宿敵」(2018米)が作られている。
物語はストレートなスポ根物で全体的によくまとまっていると思った。
但し、序盤のアドニスの成長がやや性急に映った。果たしてアドニスは父をどう思っていたのか?そのあたりの所をもっと丁寧に拾い上げて欲しかった。少々物足りない。
物語が本格的に動き出すのは、アドニスがロッキーの元を訪ねてからである。ここから物語はジックリと腰を据えて展開されていくようになる。
アドニスはロッキーの元で様々な試練を受けながら徐々に強いボクサーへと成長していく。そして、父と同様に世界チャンピオンを目指していくようになる。
ロッキーとアドニスの関係を考えると、この物語は実に感慨深く観れる。ロッキーは目の前でアポロの死を止められなかったという後悔の念に捕らわれている。そんなロッキーにとってアドニスはいかなる存在だったのか?劇中でそこは明確に示されていないが、色々と想像すると興味が尽きない。
あるいは、ロッキーには実の息子がいる。このことは前作「ロッキー・ザ・ファイナル」で紹介されていたが、そのことを併せ考えるとアドニスとの関係は更に味わい深く観れる。というのも、息子はかつてボクサーを目指していたが、現在ではその夢をあきらめて普通のビジネスマンになり幸せな家庭を築いている。ある意味で、ロッキーにとってアドニスは、自分の夢を託せなかった息子の代わりという見方もできる。
このように本作は前作「ロッキー・ザ・ファイナル」はもちろん、記念すべき第1作とアポロが壮絶な死を遂げる第4作「ロッキー/ 炎の友情」(1985米)。この3本を観ていると一層味わい深く鑑賞できると思う。
原案・監督・共同脚本はライアン・クーグラー。初見であるが、演出はテンポがよく、全体的に上手くまとめられていると思った。
特に、クライマックスでアドニスは自らの戦う理由を探り当てていくのだが、ここなどは実にエモーショナルに演出されており、図らずもで涙が出そうになってしまった。実に熱い展開である。
また、過去作を観ている者からすると、墓参のシーンにもしみじみときた。
もう一つ。アドニスと恋人のラブシーンにさりげなくロッキーのペットの亀を配した演出も粋である。この亀は第1作でロッキーとエイドリアンのロマンスをユーモラスに盛り上げていた名脇役(?)だったので知っている人もいるだろう。
このようにライアン・クーグラーは「ロッキー」シリーズのことをよく分かっている監督…という印象である。実に好感が持てる。
正しい続編というと変な言い方だが、世の中に期待はずれな続編が色々とある中、本作は成功している方だと思う。次作も期待して観たい。