「ハロウィン」(2007米)
ジャンルホラー
(あらすじ) 孤独な少年マイケル・マイヤーズは、学校ではイジメられ、家でも家族から冷たくされ鬱屈した日々を送っていた。10月31日のハロウィンの夜、マイケルはかわいがっていた幼い妹をひとりを残し、ついに一家惨殺の凶行に及ぶ。厳重警備の精神病院に収容されたマイケルは、そこでルーミス医師の治療を受け始めるのだが…。
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(レビュー) ジョン・カーペンターが監督したホラー映画「ハロウィン」(1978米)を鬼才ロブ・ゾンビがリブートした作品。
孤独な少年がいかにして連続殺人鬼に変貌したのか。その過程を過激なバイオレンス描写を交えて描いた作品である。オリジナル版を観てなくても楽しめる内容になっているが、できれば観たうえで鑑賞したほうがベターであろう。劇中にはオリジナル版へのオマージュが散りばめられているので、よりいっそう楽しめると思う。
本作で面白いと思ったのは、オリジナル版では描かれなかったマイケルの幼少時代を描いている点だ。この「ハロウィン」という作品は人気を博しシリーズ化され、更には近年、約40年ぶりに続編も製作された人気作である。「13日の金曜日」シリーズと並ぶ長寿シリーズで、稀代の殺人鬼マイケル・マイヤーズはホラー映画界の一つのアイコンとなっている。そんなマイケルの生い立ちに迫った所は面白い。
マイケルの幼少時代は実に悲惨である。ここまで救いがなければ人間不審に陥り、世界から背を向けてしまうのも無理からぬ話であろう。仮面をかぶることで凶悪な殺人鬼を”演じる”ことは、彼の唯一の”逃げ場”だったのかもしれない。一筋の光も見えない暗い幼少時代を見ていると何となく同情心も芽生えてしまった。
本作は映画の約半分を使って、マイケルが殺人鬼になるまでの経過をじっくり描いている。シリーズのレギュラーでマイケルの宿敵となるルーミス医師との邂逅なども描かれており、興味深く観ることが出来た。
そして、後半に入ると物語は一気に15年後に飛んで展開される。成人したマイケルがハロウィンの夜に次々と町の人々を襲う、いわゆるオリジナル版「ハロウィン」の展開に突入する。
個人的にはその空白の期間も観てみたかったのだが、残念ながらそこはスルーされ、原作を再現する形で進行する。
正直、オリジナル版を観ているので後半パートは少々退屈してしまった。多少アレンジされているとはいえ、先の展開を知ってしまっているので緊張感も感じられない。
ただ唯一、前半で生き残った幼い妹の存在は物語の隠し味として面白く観れた。全編ドライな物語に幾ばくかのセンチメンタリズムを持ち込み、マイケル・マイヤーズのモンスターに哀愁を忍ばせることに成功している。
キャスト陣では、ルーミス医師役のM・マクダウェルが中々の存在感を見せつけている。他にダニー・トレホやウド・キアといったこの手のジャンル映画の名バイプレイヤーが脇を固め、更には「ゾンビ」(1978米)でお馴染みケン・フォーリーもチョイ役で登場してくる。ホラー映画ファンには楽しめるキャストが揃えられている。
尚、本作の後に同じロブ・ゾンビ監督、脚本で続編が製作されている。機会があればそちらも観てみたい。
「ゴーストランドの惨劇」(2018仏カナダ)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) シングルマザーのポリーンは叔母の家を相続し、2人の娘ヴェラとベスを連れてそこに引っ越した。しかしその直後、一家は2人組の暴漢に襲われてしまう。それから16年後、小説家として成功したベスは独立し、幸せな家庭に恵まれて充実した暮らしを送っていた。ある日、ヴェラからただならぬ電話がかかってくる。心配したベスは彼女の元に駆け付けるのだが…。
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(レビュー) 過去の惨劇に捕らわれた一家の恐怖をトリッキーな構成で描いたサスペンス・ホラー。
序盤は余りのめり込むことができなかったが、中盤で予想外の展開が待ち受けていて、それ以降は面白く観れた。
この物語のキーは妄想癖がある作家ベスの設定にあると思う。最初はベスの夢落ちの連続で辟易するのだが、中盤でそれが思わぬ効果を出し始める。どこまでがベスの妄想なのか。どこまでが現実なのか。観る方としては色々と想像しながら観て行くことになるのだ。敢えて惑わすような演出も効果的で、良く考えられた構成だと思う。
監督、脚本は
「マーターズ」(2007仏カナダ)のパスカル・ロジェ。フレンチ・ホラーの新鋭として登場し、昨今のホラーマニアの間で評判になっている作家である。「マーターズ」同様、今回もストーリーテリングと演出の妙に光るものがあり、改めてその力量が再認識される。
もっとも、クライマックスにかけて、いわゆる「悪魔のいけにえ」(1974米)的な展開に終始してしまったのは、それまでの期待値からすると、いささか凡庸な感が否めない。しかも、「マーターズ」ほどのパワフルな演出もなく、この系統の作品は数多あるため他との差別化ができていない所が苦しい。結局、サイコパスな暴漢に追われる恐怖というホラー映画の定域を抜け出せなかったのは残念だ。
また、ホラーとコメディは紙一重ということも本作を観て思い知らされた。映画で描かれる暴漢はサイコパスになればなるほど常人には理解しがたい異物となり、その結果、画面上で繰り広げられる凄惨なシチュエーションは”痛み”としてのリアリティからかけ離れてしまう。それをカバーするのは監督の演出になるのだが、本作はそこがうまくいっていないと感じてしまった。
キャスト陣は奮闘している。ヴェラ役とベス約は少女時代と成人時代で別のキャストが用意されているが、特に成人時代を演じた二人の女優の体を張った熱演は見応えがあった。
特殊メイクもリアリティがあって良かったと思う。
「マーターズ」(2007仏カナダ)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 1970年初頭のフランス。行方不明になっていた少女リュシーが監禁場所から命からがら脱出して保護される。養護施設に収容されたリュシーは、同じ年頃の少女アンナの献身的な支えによって少しずつ心身の傷を癒していった。それから15年後、リュシーは過去の復讐を果たすために、ある平穏な一家の元を訪ねる。
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(レビュー) 監禁虐待のトラウマを抱える少女の復讐劇を壮絶な暴力描写を交えて描いたサイコホラー。
序盤のリュシーの凶行に圧倒されてしまうが、物語は中盤で思いもよらぬ展開に突入し、最後まで面白く観ることが出来た。単なるホラー物と思っていると足元をすくわれる快作である。
ただ、正直なところ前半のリュシーが見る”幻覚”にそれほど驚きはなかった。ホラー映画では、よくある仕掛けて余り新味は感じられない。
ところが、本作は中盤で物語の視座の転換が起こり、意外な展開に突入していくのだ。ここから薄気味悪い社会派スリラーのようになっていき、ある種
「ホステル」(2005米)のような見世物小屋的なきな臭さも加わり、ますます緊張感が増していくようになる。
更に、ラストでは驚愕の結末が待ち受けている。果たしてアンナの最後の言葉は噓だったのかどうか?そして、その言葉の受けた老女は何を思ってああいう行動に出たのか?単純にスッキリとしない終わり方に、色々と想像してしまいたくなる。
監督、脚本は新鋭のパスカル・ロジェ。ジャンル映画を主に撮っている作家だが、今作を見る限り単純にそうとは思えない資質を感じさせる。
演出は非常に粘着的で、特に後半の拷問シーンにおける容赦のなさは筆舌に尽くしがたいものがる。直接的な表現は案外控えめで、それなのにここまで人間の残酷性を引き出せるというのは、やはり監督の力量なのだろう。ここまでくると、ある種の性癖を穿ってしまうのだが、それもまたこの監督の作家性なのかもしれない。
リュシーとアンナを演じた女優たちの熱演も本作の大きな見どころの一つである。体当たりの演技とは正にこういうことを言うのではないだろうか。
尚、エンドクレジットでダリオ・アルジェントに捧ぐと出てくるのだが、その意味についてはまったく分からなかった。特にアルジェント作品との共通性は感じられないのだが…。
「ザ・スイッチ」(2020米)
ジャンルホラー・ジャンルコメディ
(あらすじ) 地味で冴えない女子高生ミリーは、凶悪な殺人鬼“ブッチャー”に襲われる。一命をとりとめるも、翌朝目が覚めると心が入れ替わっていた。ブッチャーの体になった自分を見て驚くミリー。一方でミリーの体に入ったブッチャーは、学園に侵入して次なる獲物を狙う。
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(レビュー) 殺人鬼と心が入れ替わってしまった女子高生の奔走をスピーディーな展開で描いたコメディ・ホラー。
「君の名は。」(2016日)や「転校生」(1982日)等、これまでも心と肉体が入れ替わる男女逆転の映画は色々とあったが、本作もそれらと同じ系譜に入る作品である。
そもそもこの手の入れ替わりコメディは古くからあるプロットで、それこそシェイクスピアの時代から存在する。SFやファンタジーの要素を用いることで、昨今このひな形は更に華やかさを増してきているが、基本的にこの手のプロットは今でも全然通用する魅力的なものである。
本作では、曰く付きの呪われし短剣によってミリーとブッチャーの心が入れ替わってしまう。入れ替わる当事者のギャップが大きければ大きいほどこの手のストーリーは面白くなるのだが、そこを今回は地味で平凡な女子高生と凶悪な連続殺人鬼にすることで面白く見せている。
監督、脚本を務めたクリストファー・ランドンの演出も冴えわたっている。一部ゴア表現もあるので観る人を選ぶが、基本的には軽妙な作りに徹しており終始楽しく観ることができた。やっていることは
「ハッピー・デス・デイ」(2017米)と
「ハッピー・デス・デイ2U」(2019米)と同じ殺人鬼との鬼ごっこで余り変わり映えはしないのだが、安定した面白さを堪能できる。
そんな中、ミリーの心を持ったブッチャーと彼女の母親が試着室で語らうシーンは印象に残った。試着室なので当然お互いの姿は見えない。声だけで会話をするのだが、母親は相手がミリーとは知らず、一方のミリーは相手が母親だと知っている。ここでミリーふんするブッチャーとミリーの母親がイイ感じになって笑ってしまうのだが、一方で亡き夫との思い出、ミリーに対する愛などが語られ幾ばくかセンチメンタルに演出されている。シチュエーションの巧みさも相まって中々の名シーンになっているのではないだろうか。
また、昨今何かと話題のジェンダー問題をさりげない形で忍ばせているのも中々周到である。男女の性差、体力差という如何ともしがたい現実がミリーとブッチャーの戦いの中で表現されている。
もう一つ、本作の貢献者として挙げたいのが、ブッチャーを演じたヴィンス・ヴォーンである。彼の好演なくして本作は成り立たなかっただろう。見た目は凶悪な殺人鬼の大男、中身は女子高生。この複雑なキャラクターを実に楽しそうに演じている。乙女走りがツボにはまって何度も笑ってしまった。
本作で惜しいと思ったのは二点ある。
一点目はミリーの姉の扱いである。内気で落ちこぼれなミリーと違って彼女は優秀でクールな警官である。その対比自体は良いのだが、これが物語の中で上手く活かされておらず勿体なく感じた。警官という設定も今一つ機能していない。
もう一つは、そもそも事の発端となった”曰く付きの短剣”の扱いである。劇中ではそれらしく説明されていたが、なんだかアッサリと片付けられてしまった印象である。この辺りをサスペンスフルに物語に絡められたら、本作は更に面白くなったように思う。
「ハッピー・デス・デイ 2U」(2019米)
ジャンルホラー
(あらすじ) ようやく恐怖のループから抜け出すことができたツリーだったが、今度はカーターのルームメイト、ライアンが死のタイムループに巻き込まれてしまう。そこにはライアンが研究している謎の実験装置が関係していた。ツリーとカーターはライアンを救出しようとするのだが…。
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(レビュー) 全米でスマッシュヒットを飛ばしたホラー映画
「ハッピー・デス・デイ」(2017米)の続編。
監督・脚本は第1作と同じクリストファー・ランドンが務めている。
今度はヒロインの恋人カーターのルームメイト、ライアンが死のタイムループに巻き込まれてしまう。ただ、前作と全く同じでは芸がないと思ったのか、今度はそこにパラレルワールドの要素を持ち込み、二転三転する物語を組み立てている。
もっとも、パラレルワールドのアイディア自体は隠し味的な使用に終始し、最終的には前作同様、ベビー・マスクの殺人鬼との追いかけっこで盛り上げられておりマンネリ感は否めない。どうせやるのであれば、D・ヴィルヌーヴ監督の
「複製された男」(2013カナダスペイン)くらい徹底してくれればよかったが、あそこまで複雑になってしまうと観る方も頭が混乱してしまうか。
前作ではタイムループの原因に釈然としないものを感じたが、今回はそこを明らかにしている点は良かったと思う。とはいっても、かなり安易な気がして面白みに欠けるのが難点だが…。
この手のお気楽エンタメ作品にSF的な考証など求めてはいないが、ラストで再び言及されているので、せめて何らかの”それらしい”説明は欲しかった気がする。
全体的には二番煎じな感がしてしまうのはアイディアの枯渇と言って良いだろう。そもそも一発ネタ的な所があるので、それも致し方なし。
ただ、前作にはない面白みは確実にある作品だと思う。
その一つは、ツリーの葛藤である。今の世界に留まるか、別の世界へ行くのか?あちらを取ればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず、というジレンマに彼女は思い悩まされる。前作にないウェット感も感じられ、この葛藤には見応えを感じた。
尚、今回のオチを見る限り、ひょっとしたら製作サイドは第3作の構想でもあるのかもしれない。
ツリーやカーター、ライアンといったメンバーの息の合ったチームプレイが楽しく描けていたので、第3弾があればぜひそのあたりのドタバタ劇を見てみたいものである。