「爆裂都市 BURST CITY」(1982日)
ジャンルSF・ジャンル音楽・ジャンルアクション
(あらすじ) 荒廃した近未来。ロックバンド、バトル・ロッカーズとマッド・スターリンはライブ会場を巡って対立を繰り返していた。その一方で暴力団菊川ファミリーは地元政界による原子力発電所建設計画の利権に食い込もうとしていた。
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(レビュー) 世紀末の街を舞台に、ロックバンドと暴力団、政治家と警察が入り乱れる大喧騒をエネルギッシュに活写したSFアクション作品。
鬼才・石井聰亙が
「狂い咲きサンダロード」(1980日)の次に撮った作品である。前作同様、パンキッシュで活きのいい演出が横溢する痛快エンタメ作となっている。
登場人物が多いせいでストーリーがシンプルなわりに今一つ整理しきれていない印象だが、アクションとロック音楽に特化したアヴァンギャルドな作りは大変魅力的である。
疾走感溢れるオープニングシーンからして格好良いのだが、続くライブシーンもかなりアツくてテンションが高い。
コマーシャリズムでMTV的な映像演出は大変ユーモラスで、オープニングタイトル後のミュージカルシーンなどにはどこか愛嬌も感じさせる。粗削りと一蹴するのは簡単かもしれないが、楽しんで作っている感がひしひしと伝わってくるあたりは、メジャー映画では中々味わえない悦びだろう。
世紀末感漂う世界観も魅力的で、低予算のインディペンデントのわりに美術関係も意外に頑張っているのが驚きだ。言ってしまえば、照明とカメラアングルで粗が目立たないようにしているだけなのだが、それがかえって怪しい雰囲気を創出している。
また、奇妙でシュールなスラム街のキャラクターは、まるで「マッドマックス」シリーズのようなアクの強さで、ビジュアル的にも観てて楽しい。昭和の特撮番組「超電子バイオマン」でストロング金剛が演じていたモンスターのようなキャラがいたり、白塗りの日本兵がいたり、理屈無視の奇妙なクリーチャーたちが画面狭しと暴れまわる。
キャストも今観ると豪華である。
ザ・ロッカーズの陣内孝則、ザ・ルースターズの大江慎也といったミュージシャンを始め、怪優・麿赤児、コント赤信号や上田馬之助、平口広美(怪演!)といったタレント勢も奮闘している。
特筆すべきは、ヤクザのヒモを演じた泉谷しげるである。これほど胡散臭い役を上手く演じきれるのは、この人を置いて他にはいないだろう。彼は石井と共に企画段階から携わっており、本作にかける思いも相当強かったことと思う。
クライマックスにの大暴動は過激さが売りだったパンクバンド、ザ・スターリンも加わり、爆竹や豚の頭を観客に放り投げ、「狂い咲きサンダーロード」のクライマックス同様、しっちゃかめっちゃかの喧嘩祭り状態となる。荒々しくブレまくる手持ちカメラは、もはや映画というよりもライヴを見ているかのような感覚になる。wikiによればエキストラ300人、のべ3日間の撮影と書かれていたが、よく3日間で撮れたなと思うほどの熱量とカット数である。
尚、編集と美術で阪本順治監督のの名前がクレジットされている。
また、フリークスのデザイン担当は手塚眞監督が担当している。
石井監督は次作
「逆噴射家族」(1984日)で本格的にメジャーデビューするが、やはり作品のパワーと勢いが最も高かったのはこの頃だと思う。
「サン・ラーのスペース・イン・ザ・プレイス」(1974米)
ジャンルSF・ジャンルコメディ・ジャンル音楽
(あらすじ) 土星から宇宙音楽王サン・ラーが地球にやって来る。彼は平和な惑星に黒人たちを移送する壮大な計画を実行すると宣言した。一方、NASAはその神秘的な技術を狙って彼の居場所を突き止めようとするのだが…。
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(レビュー) フリージャズを中心に活動した音楽家サン・ラーが自ら主演、脚本、音楽を務めて製作したSF作品。
自分はサン・ラーについてまったくの無知で本作を鑑賞した。正直、映画としての出来は余り芳しいものではない。チープな演出と脈絡なく展開される物語に途中で退屈してしまった。
一番意味不明だったのは、1943年のクラブでサン・ラー扮するピアニストと客がカードゲームをするのだが、それが時空を超えて1970年代の物語とリンクする所である。こうしたシュールレアリスム的な作りは決して嫌いではないのだが、どうにも決まりきった展開のオンパレードでアイディア不足に感じられてしまった。
ただ、ブラックスプロイテーション映画として観ればテーマ自体には溜飲が下がるし、サン・ラーが演奏するフリー・スタイルな音楽も独特な魅力で面白かった。
また、映画を観終わってサン・ラーについて興味が出たので調べてみたが、この音楽家がいかに時代を先取りしたアーティストだったかが分かり、本作に対する見方も変わってくる。
センセーショナルなキャラクターを演じることで独自の世界観を築き上げたところは、後のデヴィッド・ボウイのジギー・スターダストを連想させる。しかし、デヴィッド・ボウイと違うのは、彼はこのキャラを音楽活動の中で一貫させたことである。商業的な狙いではなく、一人のアーティストとして最後までキャラクターを”演じきった”ことは凄いことではないだろうか。こうした彼の音楽的な功績や特異な人生を知っている人が見れば、本作の評価はまた変わってくるのかもしれない。
個人的には、彼自身を描いたドキュメンタリーを観てみたい気がした。
「カンニバル!THE MUSICAL」(1993米)
ジャンルコメディ・ジャンル音楽
(あらすじ) 19世紀後半のアメリカ西部。ゴールドラッシュに沸くコロラドを目指して旅をするパッカーとその一行は、無謀にも真冬のロッキー越えを計画する。ところが、その道中でパッカーが盗賊一味に愛馬を盗まれてしまう。それを取り戻そうと追跡を開始するが、冬山の厳しさは想像を絶するもので…。
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(レビュー) 「サウスパーク」で有名なトレイ・パーカーが学生時代に撮った実写ミュージカル映画。オープニングにB級ゲテモノ映画専門のトロマ社の名前がクレジットされており、いわゆるその筋の人に受けそうな内容である。
尚、今作は実話を元にしているということである。wikiを読む限り、カニバル(人食)というセンセーショナルさもあり凄惨な事件として知られているようだ。しかし、そうは言っても本作はミュージカルな上にブラック・ジョークがふんだんに飛び出てくるので、実際の事件とはかけ離れた内容となっている。
物語は殺人罪で逮捕されたパッカーの回想で展開されていく。実話が元になっているという前振りはあるが、一体どこまで信用していいのか分からないホラ話のようなテイストが面白い。
まず、冒頭で「残酷な描写をカットしてます」というテロップが出てくるが、その直後にいきなりゴアシーンが炸裂するという不意打ちである。
しかも、パッカーの愛馬に対する執着心がほとんど異常で、まるで恋人の尻を追いかける未練タラタラ男のようで笑える。
更に、旅の途中で出会うインディアンは日本語を喋る東洋人で、空手の修業をしたり日本刀を振り回すという考証無視のデタラメさ。
揚げ句に、死刑執行当日を描くクライマックスの投げ槍とも思える”いい加減”な収集の仕方など、どこからどう見ても実際の凄惨な事件の再現性など鼻からする気など無い徹底したエンタメ趣向な作りになっている。
肝心のミュージカルシーンもチープではあるが、音楽が中々に良く耳に心地よく入って来た。雪だるまの歌とパッカーの愛馬に捧ぐ歌がバカバカしく笑えた。
また、個人的に最も傑作だったのは、パッカーが歌おうとすると死んだと思っていた仲間が何度も蘇ってそれを邪魔をするシーンである。ほとんどドリフのようなノリだが爆笑してしまった。
このようにカニバルという際どいネタを、あっけらかんとした笑いと音楽、下ネタやブラックジョークで包み込んでおり、改めてトレイ・パーカーが只者ではないということが良く分かる作品である。
「デビルズ・メタル」(2015ニュージーランド)
ジャンルホラー・ジャンルコメディ・ジャンル音楽
(あらすじ) 実家を離れて叔父の家に引っ越したブロディは陰キャでメタル好きなせいで、学校ではいじめられ、目当ての女子生徒にも見向きもされなかった。ある日、レコード店でメタル好きのザックと出会い、虐められっ子たちとバンドを結成する。そして、ザックの提案でメタルの大御所リッキーが住む家に忍び込むのだが、そこには悪魔の楽譜があった。
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(レビュー) メタルサウンドに乗って悪魔に取りつかれた人間をバッタバッタと倒していくコメディ・ホラー。
監督、脚本が
「ガンズ・アキンポ」(2019英独ニュージーランド)のジェイソン・レイ・ハウデンということで鑑賞した。
低予算のインディペンデント映画の割には、勢いのあるゴアシーンや、下ネタ満載なブラック・ジョークなど上々の出来栄えで結構楽しめる。特に、大人の玩具を武器にして戦うアイディアは秀逸で、こういうきわどいネタはインディペンデントならではだろう。
ただ、シナリオはかなり日和見で決して出来が良いとは言えない。
まず、個性的なバンドメンバーのキャラを今一つ活かしきれておらず、実に勿体ない扱われ方をしている。そもそもキーマンであるザックの立ち回りがドラマを掻き回しているようで、実は大して面白みが感じられないというのが致命的である。本来であれば、ブロディとの間に育まれる友情をもっとフィーチャーすべきであろう。そうすればもっとドラマは盛り上がっただろうが、そこを曖昧にしたまま進行してしまったのが惜しまれる。
悪魔が宿った楽譜というアイディア自体も決して悪くはないのだが、それを巡って繰り広げられるサスペンスが中途半端で盛り上がらないのも残念だ。楽譜を狙う適役が登場するのだが、結局これが後半のパニックシーンで埋もれてしまうという勿体なさ。
ヒロインがブロディに惹かれる理由も説得力に欠けるし、エンドロール後のオマケも理解不能。
正直、話はどうでもよく、ゴア描写と下ネタと勢いだけで突っ走っていったという感じの作品である。
個人的には、ブロディがヒロインとベンチに座って一緒にアイスを食べるシーンが今作一番の笑いのポイントだった。何とも言えないとぼけた笑いを誘う。
尚、先頃続編の製作が決定したということである。スタッフ、キャストは同じということなのでテイストは一緒になると思うが、勢いや表現がマイルドにならなければいいのだが。
「音楽」(2019日)
ジャンルアニメ・ジャンル音楽・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 悪名高い不良高校生研二は、不良仲間である太田・朝倉と共に目的もない日々を送っていた。ある日、ひったくり犯を追いかけるバンドマンから預かったベースを勝手に持ち帰った事がきっかけで、太田と朝倉とバンドを始めることにするのだが…。
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(レビュー) 不良高校生のバンド活動をユーモラスに描いた音楽青春映画。伝説的なカルトマンガ「音楽と漫画」(未読)のアニメ化である。
原作は未読だが、昨今の描き込まれた美麗なマンガと比べると驚くほど淡泊な絵柄でクセも強い。今回のアニメもそのあたりを踏襲している。
ただ、クライマックスのライブシーンになると、それまでの淡泊さが一変し徐々に熱気を帯び始め、実に興奮させられた。このライブシーンは実際に映画のために撮影が敢行され、それをロトスコープで再現したということである。その甲斐あって臨場感溢れるシーンとなっている。アニメで音楽の演奏シーンを再現するのは、音と動きをシンクロさせる難しさもあり、かなりハードルが高い。しかし、それが見事に再現出来ていて感心させられた。おそらくこのライブシーンだけで相当の時間と労力がかかったと思われる。
監督、脚本、作画、美術、編集を務めたのはアニメーション作家、岩井澤健治。本作を観るまで彼のことをまったく知らなかったが、元々は石井輝男監督の下で録音技師等の仕事をしていたそうである。石井監督が急逝した後は本格的にアニメーションの世界に入り、これまでに短編アニメを数本製作している。それらはyoutubeでも観れるので、興味のある方は観てみるといいだろう。独特の世界観が構築されていて、その素養は今作にも受け継がれているように思った。
そして、特筆すべきは、本作も含めすべての作品が自主制作という点である。今回は約4万枚という膨大な作画枚数を少人数のスタッフで約7年もの歳月をかけて描き上げたということである。正にこれは一個人から始まった壮大なプロジェクトと言える。これほどの熱意をもって作品を創り上げる作家が、この日本にどれほどいるだろうか?世界を見渡してもそういない。
「君の名は。」(2016日)や
「天気の子」(2019日)の新海誠監督もかつて「ほしのこえ」(2002日)をほぼ一人で作り上げ、それをきっかけに本格的に世に知れ渡ることになった。世の中には、そうした情熱を持った人がいるのである。インディペンデントから現れる新たな才能。それをこの「音楽」からも感じられた。
物語は予定調和な感じも受けたが、シンプルにまとめられている。クライマックスへの一点集中な作りが潔い。約70分の中編ということを考えれば、欲張ってあれこれ詰め込むより、このくらいに収めるのが丁度いいだろう。研二たちの音楽にかける情熱にスポットを当てたことでテーマはより際立つことになった。
そんな中、研二たちのバンド”古武術”の盟友となるバンド”古美術”のリーダー森田の活躍は目覚ましいものがあった。サブキャラでありながらその存在感は圧倒的で、彼の意外な活躍なくしてこのクライマックスの盛り上がりはなかっただろう。自分は完全に裏をかかれてしまった。
オフビートな演出も作品に独特の空気感を与えていて面白かった。基本的に研二はほとんど表情を変えない仏頂面キャラクターである。しかも劇中で太田が語っているように、かなりの気分屋で、バンド活動も特に理由があって始めたわけではない。要するに行動が読めないキャラなのである。それがこのキャラクターの魅力の一つとなっているのだが、そんな彼と周囲のギクシャクしたやり取りが一々クスリとさせて可笑しかった。特に、研二のクラスメイトであるヒロイン亜矢との交流は微笑ましく観れた。
キャストはメイン所を含め、いわゆるプロの声優を起用していない。研二役はロックバンド、ゆらゆら帝国の元ボーカルということである。他のキャストも俳優で固められている。元々セリフが少ないうえにオフビートな作風なせいもあり、それほど違和感なく聴けた。