「リサと悪魔」(1973伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) 観光に来ていたリサは、古い建物に描かれた死体を担ぐ悪魔の壁画を見た後、その絵にそっくりの男と遭遇する。路地に迷い込んでしまった彼女は、偶然通りかかった旅行者夫婦に助けられ、宿を求めて古い屋敷に泊まる。そこにはどこか怪しい母子と、街で見かけたあの男が召使として住んでいた。
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(レビュー) 悪魔の絵にそっくりな男に出会ったことで、複雑怪奇な事件に巻き込まれていく女性の恐怖を、ゴシック・ムード満点に描いたホラー作品。
目くるめく迷宮世界に主人公リサ同様、観る者も誘われてしまう幻想奇談である。
リサが辿り着いた古い屋敷には”ある秘密”があり、そのカギを握るのが屋敷の子息マックスである。実は、彼は過去に愛した女性がいたのだが、ある理由でその愛は終わりを告げてしまう。それでも彼女に対する愛は未だ冷めやらず、病的なほどの未練に戦慄すると同時に、彼の境遇を考えるとどこか哀愁も覚えた。人間の悲しき情愛が透けて見えくる所に、単なるホラー映画とは一線を画した味わいが感じられる。
監督、共同脚本はマリオ・パーヴァ。独特の様式美を今回も如何なく発揮しているが、今回は割と物語を追いかけることに専念しており、見せ場となる恐怖シーンは終盤に集中している。そのせいか他の作品と比べると地味な印象は拭えないが、終盤の盛り上がりは中々のものである。
例えば、死んだはずの登場人物たちがテーブルに勢ぞろいする光景は何とも言えないシュールさがあるし、彼らにそっくりなマネキン人形が無造作に転がる絵面も不気味で印象に残る。極めつけは、ラストのどんでん返しである。このインパクトは衝撃的で忘れがたい。
また、今回は珍しくソフト・フォーカスな映像が要所でロマンチックな雰囲気を醸しており、いつものパーヴァ作品にはないテイストが伺える。少し面食らってしまったが、このチャレンジングな表現は面白い試み思えた。
キャストでは、リサを演じたエルケ・ソマーの熱演が印象に残る。彼女は本作で一人二役を演じており、そこがこの物語の幻想性に一役買っている。
悪魔役のテリー・サバラスは、持ち前の造形で嬉々とした怪演を披露。飴をなめるという愛嬌のある役作りが、キャラクターにユーモアを与えていて面白かった。
「血みどろの入江」(1971伊)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 海辺の屋敷に住む老婦人が何者かに殺される。その直後、彼も何者かに殺された。近くには昆虫研究家と女占い師の夫婦、タコ釣りの男が住んでいた。そして、そんな彼らを監視する男女がいた。数日後、殺害現場の屋敷を空き家だと思って若者たちがやって来る。バカンスを楽しむ彼らだったが、次々と何者かによって惨殺され…。
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(レビュー) 海辺の屋敷を舞台にしたスラッシャー映画。
登場人物が次々と殺されていく後半の展開は中々魅せるが、いかんせん物語は散漫である。屋敷に入り込む若者たちや怪しい昆虫研究家と女占い師といったキャラを物語の中で有効的に使い切れておらず、シナリオは残念ながら上手く出来ているとは言い難い。
また、犯人探しのミステリとして見た場合も、肝心の謎解きの過程が安易に処理されてしまっており余り面白みが感じられなかった。
ただ、映画の結末は意外なもので、これには度肝を抜かされた。果たしてどこまで計算したことなのか。余りにも能天気な終わり方に良くも悪くも苦笑してしまうしかなかった。
しかも本作は劇伴の使い方が非常に面白く、このラストにかかる陽気な曲調や、殺害シーンにかかるメロウな旋律などがシーンをより印象深いものとしている。音楽は甘美なメロディを得意とするステルヴィオ・チプリアーニが務めている。
また、この手の作品の見所である殺害シーンもかなり奮闘していて、質量ともに十分に満腹感が味わえた。
若者たちがベッドでいちゃついている所を串刺しにするシーンは、後の「13日の金曜日」(1980米)のケヴィン・ベーコン演じる青年の殺害シーンに影響を与えているのではないだろうか。他にも、斧で顔を割られたり、死体の顔にタコが張り付いたり等、ビジュアル的なショック度、気色悪さはかなりのものである。
監督、共同脚本、撮影はマリオ・パーヴァ。この辺りの露悪的な残酷描写は流石としか言いようがない。
ただ、今回は自ら撮影監督を務めているものの、独特な映像美は控えめである。他の作品に比べると映像演出は今一つ精彩に欠く内容である。
「呪いの館」(1966伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) イタリアの片田舎で女性の変死体が発見される。連絡を受けて駆け付けたクルーガー警部だったが、村人たちは事件について口を紡ぐばかり。彼は検死官のポールを呼び寄せて本格的に調べようとするのだが…。
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(レビュー) シンプルな亡霊物だが、随分と登場人物が入り乱れ、とっ散らかった印象を持った。物語自体がまとまりに欠け、シナリオも余り上手く作られているとは思えなかった。
ただ、監督、脚本マリオ・パーヴァの映像演出が素晴らしく、城のプロダクションデザインも含め、画面作りに関しては実にクオリティが高い。
例によって、強烈な照明効果で城の外観や内装を異空間のごとき特異な舞台に見せた演出は、いかにもパーヴァらしいセンスで、このあたりは後のダリオ・アルジェント監督の「サスペリア」(1977伊)や「インフェルノ」(1980伊米)に継承されているような気がした。
他に、長いらせん階段を効果的に使った演出も見事であるし、まるで迷路のような城の地下のセットも素晴らしい。
恐怖演出としては、メリッサの霊が窓の外から覗いてるカットがインパクト大である。ゾッとするような不気味さがある。また、人形の中にこっそりとメリッサの霊が混ざっていたり、悪夢から目覚めると夢に出てき人形が足元にいたり等、シンプルなアイディアながら工夫を凝らした演出が冴え渡っている。
物語は後半にかけて、一連の殺人事件に関与していたメリッサの霊の秘密が解き明かされていく。しかし、事件の真相を関係者に全て喋らせてしまった所に安易さを覚える。
また、ヒロインであるモニカも今回の一連の事件とは無関係ではなかったということが分かってくるのだが、ここはもう少し余韻を持たせて抒情的に盛り上げても良かったような気がした。ラストもアッサリと終わってしまい、少し物足りなく感じた。
余談だが、ポールが出くわすドッペルゲンガーには驚かされた。結局、その正体については最後まで不明なままで、観終わっても悶々としてしまった。
「ブラックサバス /恐怖!3つの顔」(1963伊)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 3本のオムニバス・ホラー作品。
脅迫電話に悩まされる女性を描いた第1話「電話」。吸血鬼の恐怖を描いた第2話「ウルダラク」。悪霊が宿った指輪の恐怖を描いた第3話「一滴の水」。
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(レビュー) イタリアン・ホラーの父マリオ・パーヴァ監督によるオムニバス作品。
第1話はジャッロ風、第2話はゴシック・ホラー、第3話はオカルト物といった具合に、夫々に違った楽しみ方ができるバラエティに富んだ内容である。
オムニバスなので、全体的にはあっさりとした味付けになっているが、要所にパーヴァらしい作家性が散見でき、彼のファンであれば十分に楽しめる作品ではないかと思う。それにしても、これだけ多彩なテイストを一本の作品にまとめ上げてしまうパーヴァの器用さには恐れ入る。
夫々に好みはあろうが、個人的には第3話に最も見応えを感じた。緑色の照明を大胆に使用した映像に超然とした不気味さが感じられる。パーヴァらしい独特のセンスが炸裂した好編と言って良いだろう。
また、悪霊に取りつかれた老婆の造形の不気味さもインパクト大で、一度観たら悪夢に出てきそうなほどの怖さであった。
第1話は1シチュエーションで展開される短編的な作品で、ラストにアッと驚く展開が用意されている。軽いジャブから入ったという感じで、映画の導入としてはまずまずの出来栄えである。
第2話は、今作でもっと長い作品で、恐ろしいだけではなく、吸血鬼を巡る一家の悲哀に焦点を当てた結末に味わいが感じられた。
キャストでは、映画の冒頭とエンディングで、フランケンシュタインの怪物役などで有名な名優ボリス・カーロフがホスト役として登場してくる。彼は第2話にも主演している。
尚、ロックバンドの”ブラックサバス”は本作から名前を取ったということである。
「血ぬられた墓標」(1960伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) 17世紀、バルカン地方の王女アーサは魔女とみなされ火炙りの刑にされてしまう。200年後、医師のクルヴァヤンと助手ゴロベックは医学会に出席するために馬車を走らせていた。途中で車輪が外れて止む無く近くの古びた館に入る。そこには石棺に入った、今にも生き返りそうな美女が横たわっていた。
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(レビュー) 200年前に火刑に処された王女の復讐を、シャープなモノクロ映像で描いたホラー作品。
物語自体は、この手のジャンル映画でそれほど斬新というわけではないが、何と言ってもイタリアン・ホラーの元祖マリオ・パーヴァ監督の映像に対するこだわりが随所に感じられ、今観ても十分に楽しめる作品となっている。
パーヴァと言えば、元々はロベルト・ロッセリーニの短編等で撮影監督を務めていたこともあり、その映像センスは確かなものがある。特に、ここぞという場面における陰影を駆使した不気味なトーンは、いかにもゴシックホラー的な趣を感じさせ、もはや風格さえも感じさせる。
一方で、イタリア映画らしいい残酷描写も抜かりはなく、特にオープニングシーンは脳裏に焼き付くほどのインパクトで、その衝撃たるや凄まじい。棘がついた仮面をアーサの顔にかぶせて槌を打ちふるうという”えげつなさ”は、時代を超えて尚、今観ても目を背けたくなるほどのショッキングさである。
他にも、顔に無数の穴が空いたアーサの亡骸や、暖炉の火で体が溶けていく過程をねちっこく見せる演出、アーサに精気を吸い取られてみるみるうちに顔がしわだらけになっていく特殊効果等、見応えのあるシーンが随所に登場してくる。ある種露悪的なサービス精神はいかにもイタリアン・ホラーここにありといった感じで楽しめる。
ゴシック調で格調高さを伺わせるモノクロ映像と人体破壊のグロテスクな残酷シーン。この二つが1本の作品の中で見事に同居するという点において、本作は古びない作品となっている。
キャストでは、アーサと彼女の曾孫カティアを、一人二役で演じたバーバラ・スティールの存在感が印象に残った。バーバラは本作をきっかけに数多くのホラー作品に出演し、元祖スクリーミング・クイーンとしての地位を確立していった。そういう意味では、彼女にとっても本作はブレイクのきっかけとなった貴重な作品である。