「ヘル・レイザー」(1987米)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) フランクは究極の性的官能を体験できるという謎のパズルボックスを手に入れる。早速、彼はそのパズルを解くことに成功するが、その瞬間、彼の肉体は消失してしまった。数年後、フランクの弟ラリーが妻子を連れてフランクの家に越して来た。ある日、ラリーの妻ジュリアは屋根裏に不可解な物体を目撃する。それは死んだはずのフランクの変わり果てた姿だった。
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(レビュー) ホラー作家クライヴ・バーカーが自らの原作を映像化した作品。
物語はパズルボックスを手にしたフランクの体がバラバラになるというショッキングなシーンから始まる。その後、フランクの弟夫婦がやって来て、パズルボックスの謎を巡るサスペンスへと移行する。ジュリアとフランクがかつて愛し合う仲だったという過去が、この物語を面白く見せている。
後半に入ってくると、ラリーの娘カースティーがパズルボックスを手にしてしまい、魔界の魔導士たちに狙われるという展開になっていく。但し、前半と後半で若干物語の繋がりが悪い感じがしてしまった。もう少し前半でカースティーの存在をフィーチャーすることで自然に移行できたのではないかと思う。
クライヴ・バーカーの演出は、見世物映画としてのツボをしっかりと抑えており、特殊効果もかなり健闘している。とりわけ冒頭のフランク粉砕シーンと、彼の肉体が徐々に再生されていくシーンは見応えがあった。また、クライマックスシーンも夢に出てきそうな強烈さで、今見ても全く古さを感じさせない。CGでは味わえないアナログ時代の特殊メイクは、今となっては新鮮に観れるのではないだろうか。
また、魔導士たちのおぞましい姿も強烈で、一度観たら忘れられないインパクトである。顔中にピンが刺さったスキンヘッドの魔導士は、今や作品を飛び出して様々な場面で引用され、もはやホラー映画における一つのアイコンとなった感じがする。
本作は全米でヒットを飛ばしてシリーズ化されたが、このキャラクターは以後も作品の顔となっていく。他にも様々なユニークな造形をした魔導士が登場してくる。ビジュアルだけでも一見の価値がある作品であることは間違いない。
「CURED キュアード」(2017アイルランド仏)
ジャンルSF・ジャンルホラー
(あらすじ) 人を凶暴化させるウイルスが蔓延した近未来。治療法がようやく見つかり、感染者は“回復者”と認定されて少しずつ社会復帰を果たしていた。セナンもその一人である。彼は亡き兄の妻アビーのもとに身を寄せていた。アビーは幼い息子キリアンを抱えながら、セナンとの交流に癒しを覚えていった。そんなある日、回復者に対する差別が市民の中で激化し始める。
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(レビュー) ゾンビ映画の一種であるが、感染者と回復者、感染しなかった人間という三つ巴の対立が、偏見と差別に満ちた現代社会の痛烈な風刺となっている所が面白い。
そもそもゾンビ映画にはどこか風刺性が入っているものだが、描き方次第ではこうした硬派な社会派作品のような映画にもできる…という所に新味を覚えた。エンタメとして見てしまうと、やや物足りなさを感じてしまうが、作り手側の狙いが明確に伝わってくる分、下手なゾンビ物よりも真摯に観れる。この手のジャンルもやりようによってはまだまだ新機軸を打ち出せるという好例である。
演出は非常に淡々としていて、観る人によっては退屈に感じるかもしれない。特に、前半は状況説明が続くため、観る方としても根気が試される。
中盤以降は、差別を受ける回復者たちが結成した”回復者同盟”なる組織が登場して、一般市民との対立が激化していく。組織の中には穏健派と過激派がいて、その中で主人公セナンの葛藤がクローズアップされていく。彼自身、差別を受けながら、社会復帰の道を模索していくのだが、組織に都合よく利用されまいか…と心配になってしまった。それくらいセナンは純粋な青年である。
本作のもう一つの見所は、セナンと義姉アビーの関係である。セナンには”ある秘密”があり、それが明かされることで、この関係には大きな溝が生まれてしまう。ゾンビ映画ではよくある展開と言えばそれまでだが、やはりこういう話には何とも言えない悲しみが沸き起こる。
悲しいと言えば、感染者の治療法を確立しようとする女性医師のエピソードも印象に残った。実は感染者の中には治療が成功して回復する者とそうでない者がいる。セナンのように運よく回復した者は社会復帰を果たせるが、回復できなかった者は拘束され監禁されてしまう。やがて政府は感染者の安楽死を決定するのだが、そんな中で彼女は未だ回復していない感染者の命を救うために研究に勤しんでいる。そこには彼女の人には言えぬプライベートな”ある思い”が隠されているのだが、それがクライマックスで明かされて実に切なくさせれた。
監督、脚本は本作が長編初作品の新鋭ということだ。ジャンル映画というスタイルを借りながら、実社会を鋭く投影した所に新人らしからぬ大胆さを覚える。
キャストではアビーを演じたエレン・ペイジの熱演が素晴らしかった。童顔の彼女も母親役をやるようになったのかと思うと、時の流れを感じてしまう。
「JUNO/ジュノ」(2007米)で10代の母親を演じた頃がついこの間のようである。
「リサと悪魔」(1973伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) 観光に来ていたリサは、古い建物に描かれた死体を担ぐ悪魔の壁画を見た後、その絵にそっくりの男と遭遇する。路地に迷い込んでしまった彼女は、偶然通りかかった旅行者夫婦に助けられ、宿を求めて古い屋敷に泊まる。そこにはどこか怪しい母子と、街で見かけたあの男が召使として住んでいた。
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(レビュー) 悪魔の絵にそっくりな男に出会ったことで、複雑怪奇な事件に巻き込まれていく女性の恐怖を、ゴシック・ムード満点に描いたホラー作品。
目くるめく迷宮世界に主人公リサ同様、観る者も誘われてしまう幻想奇談である。
リサが辿り着いた古い屋敷には”ある秘密”があり、そのカギを握るのが屋敷の子息マックスである。実は、彼は過去に愛した女性がいたのだが、ある理由でその愛は終わりを告げてしまう。それでも彼女に対する愛は未だ冷めやらず、病的なほどの未練に戦慄すると同時に、彼の境遇を考えるとどこか哀愁も覚えた。人間の悲しき情愛が透けて見えくる所に、単なるホラー映画とは一線を画した味わいが感じられる。
監督、共同脚本はマリオ・パーヴァ。独特の様式美を今回も如何なく発揮しているが、今回は割と物語を追いかけることに専念しており、見せ場となる恐怖シーンは終盤に集中している。そのせいか他の作品と比べると地味な印象は拭えないが、終盤の盛り上がりは中々のものである。
例えば、死んだはずの登場人物たちがテーブルに勢ぞろいする光景は何とも言えないシュールさがあるし、彼らにそっくりなマネキン人形が無造作に転がる絵面も不気味で印象に残る。極めつけは、ラストのどんでん返しである。このインパクトは衝撃的で忘れがたい。
また、今回は珍しくソフト・フォーカスな映像が要所でロマンチックな雰囲気を醸しており、いつものパーヴァ作品にはないテイストが伺える。少し面食らってしまったが、このチャレンジングな表現は面白い試み思えた。
キャストでは、リサを演じたエルケ・ソマーの熱演が印象に残る。彼女は本作で一人二役を演じており、そこがこの物語の幻想性に一役買っている。
悪魔役のテリー・サバラスは、持ち前の造形で嬉々とした怪演を披露。飴をなめるという愛嬌のある役作りが、キャラクターにユーモアを与えていて面白かった。
「血みどろの入江」(1971伊)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 海辺の屋敷に住む老婦人が何者かに殺される。その直後、彼も何者かに殺された。近くには昆虫研究家と女占い師の夫婦、タコ釣りの男が住んでいた。そして、そんな彼らを監視する男女がいた。数日後、殺害現場の屋敷を空き家だと思って若者たちがやって来る。バカンスを楽しむ彼らだったが、次々と何者かによって惨殺され…。
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(レビュー) 海辺の屋敷を舞台にしたスラッシャー映画。
登場人物が次々と殺されていく後半の展開は中々魅せるが、いかんせん物語は散漫である。屋敷に入り込む若者たちや怪しい昆虫研究家と女占い師といったキャラを物語の中で有効的に使い切れておらず、シナリオは残念ながら上手く出来ているとは言い難い。
また、犯人探しのミステリとして見た場合も、肝心の謎解きの過程が安易に処理されてしまっており余り面白みが感じられなかった。
ただ、映画の結末は意外なもので、これには度肝を抜かされた。果たしてどこまで計算したことなのか。余りにも能天気な終わり方に良くも悪くも苦笑してしまうしかなかった。
しかも本作は劇伴の使い方が非常に面白く、このラストにかかる陽気な曲調や、殺害シーンにかかるメロウな旋律などがシーンをより印象深いものとしている。音楽は甘美なメロディを得意とするステルヴィオ・チプリアーニが務めている。
また、この手の作品の見所である殺害シーンもかなり奮闘していて、質量ともに十分に満腹感が味わえた。
若者たちがベッドでいちゃついている所を串刺しにするシーンは、後の「13日の金曜日」(1980米)のケヴィン・ベーコン演じる青年の殺害シーンに影響を与えているのではないだろうか。他にも、斧で顔を割られたり、死体の顔にタコが張り付いたり等、ビジュアル的なショック度、気色悪さはかなりのものである。
監督、共同脚本、撮影はマリオ・パーヴァ。この辺りの露悪的な残酷描写は流石としか言いようがない。
ただ、今回は自ら撮影監督を務めているものの、独特な映像美は控えめである。他の作品に比べると映像演出は今一つ精彩に欠く内容である。
「呪いの館」(1966伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) イタリアの片田舎で女性の変死体が発見される。連絡を受けて駆け付けたクルーガー警部だったが、村人たちは事件について口を紡ぐばかり。彼は検死官のポールを呼び寄せて本格的に調べようとするのだが…。
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(レビュー) シンプルな亡霊物だが、随分と登場人物が入り乱れ、とっ散らかった印象を持った。物語自体がまとまりに欠け、シナリオも余り上手く作られているとは思えなかった。
ただ、監督、脚本マリオ・パーヴァの映像演出が素晴らしく、城のプロダクションデザインも含め、画面作りに関しては実にクオリティが高い。
例によって、強烈な照明効果で城の外観や内装を異空間のごとき特異な舞台に見せた演出は、いかにもパーヴァらしいセンスで、このあたりは後のダリオ・アルジェント監督の「サスペリア」(1977伊)や「インフェルノ」(1980伊米)に継承されているような気がした。
他に、長いらせん階段を効果的に使った演出も見事であるし、まるで迷路のような城の地下のセットも素晴らしい。
恐怖演出としては、メリッサの霊が窓の外から覗いてるカットがインパクト大である。ゾッとするような不気味さがある。また、人形の中にこっそりとメリッサの霊が混ざっていたり、悪夢から目覚めると夢に出てき人形が足元にいたり等、シンプルなアイディアながら工夫を凝らした演出が冴え渡っている。
物語は後半にかけて、一連の殺人事件に関与していたメリッサの霊の秘密が解き明かされていく。しかし、事件の真相を関係者に全て喋らせてしまった所に安易さを覚える。
また、ヒロインであるモニカも今回の一連の事件とは無関係ではなかったということが分かってくるのだが、ここはもう少し余韻を持たせて抒情的に盛り上げても良かったような気がした。ラストもアッサリと終わってしまい、少し物足りなく感じた。
余談だが、ポールが出くわすドッペルゲンガーには驚かされた。結局、その正体については最後まで不明なままで、観終わっても悶々としてしまった。