「アウトポスト」(2020米)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 2009年10月、アフガニスタンに展開する米軍の重要拠点とされるキーティング前哨基地。そこは四方を山に囲まれた谷底にあり、タリバン兵からの攻撃にあまりにも無力な場所だった。度重なる波状攻撃に徐々に精神的に追い詰められていく兵士たち。やがて敵の総攻撃が始まる。
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(レビュー) 実話をベースにしており、いわゆる”砦モノ”の映画としてスリリングに楽しめたが、現地の民間人の描き方やラストの締めくくり方等にアメリカ側に偏り過ぎている印象を持った。
もちろん、兵士の目線を重視することで、戦場のリアリティを出そうという意図は分かる。実際に窮地に追い込まれていくアメリカ軍の状況を手に汗握りながら観ることが出来た。そういう意味では演出意図は成功しているのだろう。
しかし、襲ってくるタリバン兵は完全にゾンビのような群衆に単純化され、主人公であるアメリカ兵ロメシャ軍曹やカーター特技兵はひたすらヒロイックで少し興が削がれてしまうのも事実だ。
このあたりはリドリー・スコット監督の「ブラックホーク・ダウン」(2001米)でも似た印象を持った。
反戦的なメッセージも感じ取れなくもないが、基本的にはエンタメ性の強いアクション作品という割り切りの上で楽しめる作品である。
物語はこれといったドラマ性はなく、徹底したドキュメンタリー志向の攻防戦となっている。登場人物が多いためすべてを把握するのは難しいが、主要キャラさえ分かっていれば物語はほぼ理解できるようになっている。
ロメシャ軍曹を演じるのはクリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッド。父親譲りのニヒルな佇まいが印象的で、本作では勇猛果敢な活躍を見せている。
カーター特技兵を演じるのはケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。先日観た
「ニトラム NITRAM」(2021豪)でも強烈な印象を発揮していた個性派俳優である。今回も周囲から少し浮いた存在というキャラ付けをされており、そんな彼がクライマックスで仲間の兵士を救出するために奔走する姿は、本作で最もエモーショナルに観れた。
他にオーランド・ブルームが基地の責任者という立場で登場してくる。ところが、前半で早々に退場してしまい少し勿体なく思った。本来であれば主役級の俳優なので消化不良感が拭えない。
それにしても、今作はカメラワークが素晴らしい。
特に、敵の総攻撃を描くクライマックスシーンは白眉だ。手持ちカメラによる長回しが戦場の臨場感を上手く表現しており、終始画面から目が離せなかった。
また、橋の上の爆発のシーンも意外性のあるカメラワークで印象残った。おそらくドローンを使って撮影しているのだろうが、そうとは思わせないところが上手い。
「ベルファスト71」(2014英)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 1971年、北アイルランドのベルファスト。そこではアイルランドの統一を目指すカトリック系住民と、英国との連合維持を望むプロテスタント系住民の間で争いが繰り広げられていた。英国軍の新兵ゲイリーは、治安維持を目的に混沌のベルファストへ送り込まれるのだが…。
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(レビュー) 先頃見たケネス・ブラナー監督の自伝的作品
「ベルファスト」(2021英)でも描かれていた騒乱。いわゆる北アイルランド紛争を舞台にした映画である。
この騒乱は領土問題や宗教対立など大変根深い問題をはらんでおり、様々な組織が入り乱れた内乱だった。そうした知識をある程度、頭に入れてから本作を観た方が良いだろう。「ベルファスト」ではカトリック系組織とプロテスタント系組織の対立という描かれ方をしていたが、本作を観るとそんなに単純な争いでもないということが分かる。カトリック系のIRAの中にも穏健派と過激派がいて、夫々に主義主張が微妙に異なるということが分かる。
映画は、紛争の地と化したベルファストに送り込まれた英国軍兵士ゲイリーの視座で進行する。
治安維持の任務に就いた彼は、市民の襲撃を受けた仲間を助けようとしてIRAのゲリラに命を狙われるようになる。果たしてゲイリーは無事にベルファストを脱出することが出来るどうか…というのが物語の大筋である。
サスペンスとアクションでグイグイと惹きつける剛直な演出が冴えわたり、中々に見応えの感じられる作品だった。負傷したゲイリーを介抱する医師の登場など、物語に一定の抒情性をもたらすエピソードにも好感を持てた。
ただ、様々な人物が入り乱れるベルファストの状況は多少分かりづらい面があり、史実を知らないまま鑑賞すると訳が分からないということになってしまう。IRA内には裏切者やスパイもいて、敵か味方か判然としない者たちもいる。そのあたりをもう少し分かりやすく描いてくれると、本作はもっと入り込みやすい作品になったかもしれない。
演出は全体的にドキュメンタリー・タッチでまとめられており、逃走するゲイリーの切迫感を上手く表現していると思った。とりわけ、序盤の市民の暴動シーンは、現場の混乱ぶりをスリリングに描いており白眉の出来栄えである。
また、大人顔負けの生意気な少年兵の登場など、ユーモラスな演出も冴えている。時限爆弾を巡って繰り広げられる一件にもブラック・ユーモアを感じる。
一方、細かいところで少し気になる箇所もあって、例えば序盤の市民暴動後のゲイリーの逃走シーンはラフなカメラワークが大変見づらかった。敢えて臨場感を出そうとしているのだろうが、はっきり言ってアマチュアレベルの撮影である。また、ゲイリーを介抱する医師とその娘の登場の仕方は、もう一工夫欲しい所である。戒厳令が出てもおかしくない夜の街にフラリと現れるというのは、どう考えても不自然過ぎる。
キャストではゲイリーを演じたジャック・オコンネルの熱演が印象に残った。
また、近年
「エターナルズ」(2021米)や
「ダンケルク」(2017米)といった大作で目覚ましい活躍を見せている若手俳優ビリー・コーガンがIRAの青年兵役として登場してくる。独特なナイーブな佇まいがこの役所に説得力をもたらしており、その顛末も含め印象に残った。
「スナイパー・ストリート バグダッド狙撃指令」(2019イラクカタール)
ジャンル戦争・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 米軍占領下のイラク・バグダッド。ハイファ通りはアルカイダの残党による無差別な銃撃で荒廃していた。アーメッドは刑務所の拷問を密かに録画したビデオを持って、恋人をアメリカに連れて行こうとしていた。ところが彼女の家の前で狙撃兵サラームに銃撃されてしまう。
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(レビュー) 邦題だけを見るとアクション映画と勘違いされそうだが、実際には大変地味な作品である。
しかも、狙撃兵サラームの心情を解き明かすシナリオはやや舌っ足らずで、彼の目的や置かれている状況、周囲の人間関係が不明瞭なため大変難解な映画になってしまっている。ある程度、当時のバグダッドの状況を頭に入れてから観ることをお勧めする。最低限、アメリカ軍が介入したイラク紛争についての予備知識くらいは知っておいた方がいいだろう。
そんな地味で難解な映画であるが、演出自体は結構しっかりしていて見応えを感じた。
狙撃物の映画と言えば色々と思いつく。最近ではクリント・イーストウッド監督の
「アメリカン・スナイパー」(2015米)やトム・ベレンジャー主演の人気シリーズ「山猫は眠らない」、第2次世界大戦の独ソ戦を舞台にした「スターリングラード」(2000米独英アイルランド)等が思い浮かぶ。この手の作品は、緊張感みなぎるシチュエーション作りと監督の演出力。これが作品の出来を大きく左右すると言っても過言ではない。そういう意味では、本作は中々健闘していると言える。
顔にたかる蠅をまったく気にすることなく照準を定めるサラームのアップや、照準器越しにターゲット見据える一人称視点のカット、時折挿入されるヘリや銃撃戦といった臨場感をもたらす音の演出等。中々の緊張感を創り出している。
また、彼に銃撃をやめるように説得にやって来る女性キャラも、物語にアクセントをもたらすという意味では中々効果的である。一人は彼が恋焦がれている若い女性、もう一人は彼の組織のリーダーの妻と思しき女性である。彼女たちのやり取りは物語をうまく盛り上げていた。
更に、サラームが幻視する少年の姿は、全体のリアリズムを考えると少し浮いたトーンではあるものの、彼の哀愁を感じさせるという意味では実に上手い演出だと思った。おそらくその少年は彼の幼少時代の幻なのだろう。そこに彼の悲しき過去が色々と想像できる。
このようにスナイパー物としての緊張感は十分に堪能できるし、戦争の悲劇というのも真摯に発せられており、中々骨を持った作品となっている。
ただ、繰り返しになるが、サラームの心情や彼の置かれてる状況が分かりにくい面が多々あり、果たしてどれほどの観客がこの物語を完全に理解し得るだろうか…という疑問は残る。そこがもう少しクリアになれば中々の好編になっていたのではないかと惜しまれる。
「MONOS 猿と呼ばれし者たち」(2019コロンビアアルゼンチンオランダ独スウェーデンウルグアイスイスデンマーク)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 南米の山岳地帯で、ゲリラ組織に所属する「モノス(コードネーム猿)」と呼ばれる少年少女兵が訓練をしていた。そこにアメリカ人女性が人質としてやってくる。彼らは彼女の身柄を監視することになるのだが…。
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(レビュー) 少年少女兵士の過酷な運命を異様な雰囲気で綴った寓話的作品。
学生運動の崩壊を描いた数々の作品。例えば、若松孝二監督の
「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2007日)や、見世物趣味的な怪作とも言える熊切和嘉監督の大学時代の卒業作品
「鬼畜大宴会」(1997日)、学生運動を俯瞰的視点で描いた高橋伴明監督の
「光る雨」(2001日)といった作品を本作を観て連想した。
当時の学生たちが信念に基づいた戦いをしていたことは確かだろう。しかし、中には自らの意志とは裏腹に単なるブームに流されてしまった者たちがいたことも確かだと思う。一見して統率がとれているように見えた組織も、些細なきっかけで内部分裂を起こし、やがて運動そのものが空中崩壊してしまったことは歴史が証明している。
ここで描かれる「モノス(猿)」と呼ばれる少年少女の兵士たちも、正にそのような運命を辿っていったような気がした。
観てて非常に辛い映画である。彼らがどういう経緯でゲリラ組織に入ったのか分からないが、おそらく物語の舞台となっているであろうコロンビアという土地を考えた場合、何となく想像ができる。
コロンビアでは半世紀以上内戦状態が続き、その結果幾つものマフィアが誕生し、麻薬と暴力の世界が蔓延した。安全な市民生活は脅かされ、そんな環境で育った子供たちがどうなるか?大体は察しが付くだろう。おそらくここで描かれる「モノス」のようなゲリラ兵になり果ててしまう。
そんな殺伐とした「モノス」の若者たちであるが、時折年相応の少年少女の顔を見せることがある。無邪気にじゃれ合ったり、ゲームに興じたり、恋愛や嫉妬もする。過酷な戦場で育まれる彼らのやり取りは微笑ましいものに感じられた。
ただ、そういったシーンは極わずかで、基本的には厳しい訓練風景や仲間内で起きる軋轢、命がけのサバイバルが大半を占める。
物語は、序盤から”ある事件”が起こり若者たちは窮地に立たされてしまう。すでにこの時点でかなりスリリングなのだが、後半から舞台を山岳地帯からジャングルへと移し、更に「モノス」のメンバーと人質となったアメリカ人女性の運命が文字通り”泥臭く”描かれていく。
何と言っても印象に残るのは、前半の山岳地帯のロケーションである。これがこの物語をどこかこの世の物とは思えないモノに見せている。特に一番驚いたのが高山にそびえたつ巨大な建造物である。非常に神秘的なオブジェで素晴らしい。
音楽はかなりアバンギャルドとも言えるが、作品全体に緊張感をもたらすという意味では効果的で、これも印象的だった。
監督・原案・共同脚本はアレハンドロ・ランデス。初見の監督だが、フィルモグラフォーによると本作が長編監督2作目ということである。元々はドキュメンタリーを撮っていた人らしく、本作を観るとその作家的資質も良く出ていると思った。
とにかくガチンコ勝負の映像が多く、きっとこの監督はCGやフェイクでごまかしたりするのがあまり好きではないのだろう。どのシーンも生々しさと活力に溢れていて、かなりシビアな演出をしているように見えた。
その一方で、雄大な自然を捉えた映像、祝祭感に満ちた色彩等にはアーティスティックな感性も伺わせ、実にユニークな才能に溢れた監督だと思った。
物語も最後まで先が読めない展開で面白かった。基本的に本作には主人公と呼べる者はおらず、「モノス」というチームそのものが主役となっている。それでもメンバーそれぞれの個性が描かれているので、決して退屈することなく最後までスリリングに観ることができた。
ラストの締めくくり方も余韻を残した終わり方で印象深い。果たして誰が生き残り、誰が死んだのか?そして生き残った者たちのその後はどうなったのか?そうした事柄を全て放り出した結末は賛否あるかもしれないが、そこを想像するのも映画の楽しみ方である。映画を観終わって色々と考えさせられた。
「アイダよ、何処へ?」(2020ボスニアヘルツェゴビナオーストリアルーマニアオランダ独仏ノルウェートルコ)
ジャンル戦争・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ボスニア紛争末期の1995年7月、ムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力が、国連が安全地帯に指定していたスレブレニツァへの侵攻を開始した。街を脱出した2万人の市民が国連施設に殺到する中、国連保護軍の通訳として働くアイダは夫と2人の息子を施設に避難させるために奔走する。
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(レビュー) ボスニア紛争で起こった”スレプレニツァ虐殺事件”を描いた実録戦争映画。
恥ずかしながらこの映画を観るまで今回の事件のことをまったく知らなかった。無論ボスニア紛争自体は色々な映画を観て知っていたが、その中でこうした蛮行が行われていたことを初めて知った。
ボスニア紛争はこれまでも何本か映画の題材になっている。ダニス・ダノヴィッチ監督作「ノーマンズ・ランド」(2001仏伊ベルギー英スロヴェニア)、マイケル・ウィンターボトム監督作「ウェルカム・トゥ・サラエボ」(1997英)。そして、本作の監督ヤスミラ・ジュバニッチの長編処女作
「サラエボの花」(2006ボスニアヘルツェゴビナオーストリア独クロアチア)。いずれもこの内戦の理不尽さと悲惨さを訴えかけた問題意識の高い傑作だった。中でも、やはり「サラエボの花」は同じ監督という事でどうしても比較してしまいたくなる。
「サラエボの花」は紛争後における戦災者たちの日常を哀切極まる、ある種人情話的なタッチで描いた佳作だった。戦場そのものを描かずに十分にその悲劇が伝わってくる作りは見事というほかなかったが、今回は戦場そのものに目を向けてこの紛争の実態に迫ろうとしている。
街を追われた市民の必死のサバイバル、彼らを守ろうとする国連保護軍の立ち回り、傍若無人に振る舞うセルビア軍の侵攻。そういったものが現場目線で生々しく描かれている。「サラエボの花」とは違ったアプローチでこの紛争を描こうというシュバニッチ監督の意欲が画面からひしひしと伝わってきた。映画序盤から緊迫感溢れるタッチが持続し、最後まで息を呑む展開が続くので、観割った後には疲労感に襲われた。
特に、ムラディッチ将軍率いるセルビア軍が国連施設に押し寄せてくる後半以降の展開は白眉である。窮地に立たされたアイダと家族たちの悲惨な姿に目が離せなかった。
個人的にはルワンダの大量虐殺事件を描いた「ホテル・ルワンダ」(2004英伊南アフリカ)や
「ルワンダの涙」(2005英独)を連想させられた。あの絶望感、切迫感に似た印象を持っ。
ラストもズシリと心に響く幕引きとなっている。事件を生き延びた当事者の笑顔にホッと安堵する一方で、ふと伏せ目がちになる人々もいる。やはり心のどこかであの事件を忘れられずにいるのだろう。歴史は決して消すことができないと実感される。
自分を含めこの虐殺事件を知らなかった人は多いと思う。遠く離れた国の出来事ゆえ、マスコミもそれほど大きく取り上げなかったので仕方がないことだと思う。しかし、本作を観て少しでも関心を寄せられたら、それはそれで本作が作られた意義もあろう。
オスマン帝国によるアルメニア人虐殺を描いたアトム・エゴヤン監督作「アララトの聖母」(2002カナダ)、インドネシアにおける共産党員虐殺事件を追ったドキュメンタリー
「アクト・オブ・キリング」(2012デンマークインドネシア英ノルウェー)等、知られざる戦災は世界中にまだまだ存在する。それを世に知らしめたという意味でも、本作は価値ある1本だと思う。
一方、少し気になる点もあったので少し書き記しておきたい。
映画のテーマそのものに直結するようなことはないのだが、幾つかの描写について若干の物足りなさを覚えた。
まず、国連保護軍の描き方である。先に挙げた「ホテル・ルワンダ」や「ノーマンズ・ランド」然り。ここでも国連軍が余りにも情けない描かれ方をしている。こうしたことは今に始まったことではないのだが、ドラマとして見た場合、現場を監督する責任者である大佐に関してはもう少し人としての情けや葛藤があっても良かったのではないだろうか。確かに彼の苦しい胸の内は分かるが、サラリーマン的な対応に追われるばかりでキャラクター的な面白みが不足しているように感じた。
もう一つはアイダの夫の描き方である。アイダが子供たちを守るために獅子奮迅の奔走を試みている間、彼は何一つ父親としての責を全うしようとしていない。確かに臆病な男だと自認しているくらいだから、この混乱した状況では何もできなかったのかもしれない。であるならば、父親としての情けなさを表すような内面描写は欲しい所である。彼に関するドラマが描写不足に思えてならなかったのは残念である。