内田けんじの新作は期待を裏切らぬ内容。またしてもやられた‥という感じ。
「アフタースクール」(2008日)
ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 大企業に勤める木村は身重の妻を置いて別の女と消息を絶ってしまった。その女はどうやらワケありらしい。木村の親友で中学教師をしている神野の元に、私立探偵を名乗る北沢が訪ねてきた。木村と女の捜索に協力することになる神野。彼はその先で思いもよらぬ事件に巻き込まれていく‥。
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(レビュー) トリッキーなシナリオで観客を心酔させた「運命じゃない人」(2004日)から4年。監督脚本の内田けんじは、またしても「騙し」の映画を作った。
デビュー作である「WEEKEND BLUES」(2001日)から、この監督の作風は一貫している。
コンプレックスを持った男達の滑稽な姿を笑いに転嫁させ、時制を前後させることでスラップスティックな騒動を語る。「またか‥」という反面、やはり彼が観客に対して仕掛ける騙しのテクニックは一級品であるということが改めて再確認できた。
中盤で大きなストーリーの転換を迎えるのだが、これをきっかけとしてこの映画は前半で張り巡らした伏線を次々と解いていく。見る側としては「あぁ、なるほど‥」と思う。それが良い意味で予想を裏切る結果になっていて、ほとほと感心させられる。
”友情”というペーソスを入れてきたのも、いかにも内田けんじの映画らしい。
今回面白いと思ったのは北沢というアウトローを登場させたことである。これまでの内田作品は木村と神野のような幼馴染の関係を軸にした物語であった。今回はそこに北沢という第三者を入れることで、複雑な人間模様が描かれている。「WEEKEND BLUES」から続く”幼馴染の物語”というマンネリズムからの脱却を図ったのだろう。実際、ドラマ中盤までは北沢が軸になって牽引している。これによって物語が少しだけボリュームアップしている。
ラスト、北沢を含めた3人の男達の友情にはしみじみとさせられた。
「もし‥」という言葉は余り好きではないが、もし北沢が木村と神野と中学時代に出会っていたなら、彼の人生はまったく違っていたかもしれない。きっともっと幸せな人生を歩んでいただろう。このラストには、その「もし‥」という淡い希望が感じられる。そこにしみじみとさせられた。
また、ここで神野が北沢にかけた言葉は、神野=教師という設定が効果的に活かされていたように思う。北沢にとっては、愛ある叱咤に聞こえたのではないだろうか。いい年した大人が怒られる姿は滑稽であると同時に俺には愛しく映った。
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名匠市川崑の作品の中でもこれはDVD化されていない。
普通、主演吉永小百合とくれば速攻でソフト化されもいいはずなのだが‥。
もしかして、余り面白くはないから?そんな穿った見方をしてしまいほどの出来であった。
「おはん」(1984日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 大正時代、古物商の主人幸吉は芸者のおかよの旦那として気ままな暮らしを送っていた。ある日、7年振りに妻のおはんと再会する。当時はまだ赤ん坊だった息子も今じゃ大きくなったと言う。幸吉の中でふつふつと未練が蘇ってくる。こうして2人は逢瀬を重ねるようになった。そんな彼等を”ある不幸”が襲う。
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(レビュー) 別れた夫に対する愛を健気に貫き通す不幸な女の姿を、しみじみとしたタッチで描いた市川崑監督の作品。
今の女房おかよに完全に尻に敷かれながら、道楽である古物商を構えタダ飯を食わせてもらっている幸吉。彼は自分の意志などまったく無いダメ男である。どうして彼がこんなにもてるのか分からないが、きっとアッチの仕事が素晴らしいのだろう。しかし、これを石坂浩二が演じているのだが、ヘタレ具合は良く出ているものの、どうも男としての魅力が感じられないのが見ていて苦しい。
一方、女優陣はまずまずの好演を見せている。おはん役の吉永小百合、おかよ役の大原麗子、夫々にコントラストを効かせながらキャラクターを上手く掴んでいるように見えた。ただ、ドラマの展開上2人が対峙する場面が少なく、せっかくのキャスティングもこれでは勿体無い。また、大仰な演技で興ざめさせられる場面も少なからずあるのも残念だった。
もう一人、石坂浩二の隣人としてミヤコ蝶々が登場する。世話焼きで何かにつけて首を突っ込んでくる、いかにも関西風なオバハンなのだが、こういった役どころはさすがに慣れたもので正に適役。これも好演と言っていいだろう。
ストーリーは起伏に乏しく退屈させられた。当時のスローライフを反映させたもの‥といった感じで付き合うくらいが丁度良いかもしれない。
「ビルマの竪琴」(1956日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ) 1945年のビルマ。水島上等兵は敗走する井上小隊にいた。手製の竪琴を弾きながら現地人の振りをして斥候の任務を務めている。小さな村に辿り付いた小隊はそこで初めて日本が負けたことを知る。水島を残し小隊はイギリス軍捕虜収容所へ送られた。一方、水島は未だ敗戦を信じず篭城を続ける同胞を説得するために北へと向かった。しかし、彼等は徹底抗戦の姿勢を崩さず全滅。水島も負傷してしまう。
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(レビュー) 戦争の悲惨さを描いた名作で、85年にはリメイクもされている。監督は両方とも市川崑。リメイクするくらいだから監督はよほどこの作品に思い入れがあるのだろう。確かに本作のメッセージは崇高で普遍的なものを持っている。やや優等生的な物言いが鼻につくが、反戦を正面から説いた所に誠意を感じる。
戦時下という過酷な状況において音楽によって敵味方の関係を軽々と超越してしまう部分に少々戸惑いを覚えたが、それも最初だけ。水島が隊を離れて僧侶として生きる決心をする中盤あたりからは、ひたすら戦争の悲惨さ、無情さといったものが描かれ痛々しい限りである。それを目の当たりにすると、見る方としても自然と水島の感情に擦り寄ることが出来る。
水島は最後までビルマに残ったわけであるが、その理由を想像すと面白い。祈ることで平和が訪れるわけではないし、死んでいった者たちが生き返るわけでもない。しかし、彼はビルマに残った。何故か?それは戦死者に対するせめてもの手向け、喪の仕事をするためだからだったのだと思う。本当は彼だって日本に帰りたかったはずである。しかし、彼は帰れなかったのである。
自分は水島のこのジレンマに涙してしまった。と、同時にこのジレンマは問題提起にもなっており、果たして自分は水島になれるだろうか?と考えさせられた。突き詰めていけば、戦争は何故起こるのか?という根源的な問題にも遡れる。
水島の行動は、ある意味で究極のヒロイズムだと思う。そこがやや優等生的に思えてしまう部分なのだが、しかし決して過度に美談にしようとしているわけではなく、ギリギリのところで作為的なものが抑制されている。このあたりの作りは見事と感じた。
また、現地のロケーションも素晴らしく要所で作品にリアリズムを与えている。映像についても見応えが感じられた。
尚、主人公・水島以外で、強く印象に残ったサブキャラがいる。それは関西弁を起用に話す現地のおばちゃんである。こういう陽気なキャラがいると暗い物語も少しだけ和らぐ。まるで一服の清涼剤のような存在であった。
何だ?このタイトルは‥(^_^;
しかしまぁ、タイトルに騙されて見たとしてもそんなに損をした気分にはならない。
「ポリーmy love」(2004米)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 保険会社の調査員ルーベンは新婚旅行で妻に浮気され落ち込んでいた。親友に誘われて行ったパーティーで中学時代の同級生ポリーに再会する。ルーベンはかつて彼女にほのかな恋心を抱いていたこともあり早速デートに誘う。2人は親密になっていくが、そこに別れた妻が戻ってきて‥。
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(レビュー) 実にウェルメイドな作りで安心して見られるロマンチック・コメディ。
ルーベンは保険の調査員という仕事柄、几帳面で潔癖症でデータ優先主義者。対するポリーはウェイトレスをしながら自由気ままな暮らしを愉しんでいる奔放な女性。二人の価値観はまったく正反対。互いを理解しつつその溝をどう埋めていくかが、このラブコメの見所だ。
最終的にどちらかが折れなければならないのだが、その葛藤も嫌味なく描かれている。後味も爽やかだ。
ルーベン役は人気コメディ俳優B・スティラーが演じている。さすがにこういった役は実に手馴れている。彼の魅力は十分に出ている。
しかし、一番可笑しかったのは、何を隠そう彼の顧客であるリーランドだった。常識外れの自爆行為に出るキャラで、これにはルーベンも泣かされっぱなしで笑わせてもらった。
尚、TVシリーズ「HEROES/ヒーローズ」でブレイクしたマシ・オカがチョイ役で出演していた。P・S・ホフマンとの掛け合いでチラリと登場するのですぐに分かった。
一粒で二度美味しいとまではいかない。
過去編は良いのだが現代編が俗っぽくてダメ。
「抱擁」(2002米)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 19世紀の詩人ヘンリー・アッシュの研究をしているローランドは、偶然図書館で彼の直筆の詩篇を入手する。それは女性詩人ラモットへのラブレターだった。愛妻家で知られるアッシュの知られざる一面である。その過去を解き明かすべくローランドはラモットの研究をしているモード教授を訪ねる。モードはラモットの子孫で、彼女もこの事実に強い関心を寄せた。アッシュとラモットの禁断の愛を探るうちに二人の関係も次第に深まっていく。
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(レビュー) 19世紀を生きた二人の詩人の禁じられた愛。それを調査する研究者達の愛。過去と現代がまるで共鳴しあうように綴られていく恋愛ドラマ。
この映画は二つの時代のカットバックで進行していく。
まず、19世紀の方に関して言うと、これが非常に美しく撮られていて感心させられる。いかにも文芸ロマン的な様式美に溢れていて見事だ。セリフや手紙の文面も耽美的で、見ようによってはまるで少女マンガのような世界であるが、これがあの「ベティ・サイズモア」(2000米)の鬼才N・ラビュート監督の手によるものかと思うと意外だった。二人の辿る波乱に満ちた愛憎劇もドラマチックで見応えがある。
これに対して、現代編であるローランドとモードのロマンスは俗っぽいもので少々ガッカリさせられた。おそらくロマンチックな浮遊感を漂わせた過去編とのコントラストを効かせたつもりなのだろうが、リアリズムとは表しがたいものとなっている。さりとて、ラビュート本来の毒気も無く、アッシュとラモットの愛を物真似しているだけの平板な”恋愛ごっこ”にしか見えなかった。
更に、苦言を述べると、サスペンスの要素を持ち込むべく、ローランド達を追って”ある敵”が登場するのだが、これもドラマを盛り上げるまでの効果を果たしていない。危機的状況で愛を燃え上がらせる恋人同士‥なんていうのはお約束過ぎるかもしれないが、この映画ではそれすらも無いのである。ただ取ってつけたようにしか見えなかった。
過去編がかなり魅力的だっただけに、そこに絡める現代編がどうにも足を引っ張ったという感じで実に勿体無い。
豪華キャスト、スタッフも一流どころを揃えた一級の娯楽作品。
ただ、過剰にカタルシスを求めてしまうと肩透かしを食らうかも?
「コールドマウンテン」(2003米)
ジャンルロマンス・ジャンル戦争
(あらすじ) 南北戦争末期の1864年。ノースカロライナで大工をしていたインマンは出兵し瀕死の重傷を負う。その時、彼の脳裏に故郷に残してきた愛するエイダのことが思い浮かんだ。たった一度キスを交わしただけだったが、二人は固い絆で結ばれていたのだ。その頃、エイダは父の急死で苦境に立たされていた。孤独に苛まれる姿を見かねた隣人サリーは、流れ者の女ルビーを紹介する。ルビーのおかげでエイダは少しずつ元気を取り戻していくのだが‥。
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(レビュー) 戦争によって引き裂かれたロマンスを壮大なロケーションで綴ったドラマ。
戦地へ赴く男とそれを待つ女の恋愛自体、特段珍しいものではないが、展開は軽快であり、硬軟織り交ぜた柔軟なフレーバーのおかげで最後まで飽きなく見ることが出来た。
負傷したインマンの帰郷の旅はアドベンチャー要素が強く、道中で出会う人々もユニークな人達ばかりで面白い。
その中の一人、P・S・ホフマンは相変わらずの変態振りを披露し、笑わせてくれる。
一方で最も鮮烈な印象を残したのはN・ポートマン演じる未亡人だった。ほんの少ししか出番がないのだが、彼女の冷徹な行動は戦争の何たるかを衝撃的に物語っている。女の非情さ、母の強さといったものをまざまざと見せ付けている。
そして、彼の旅と並行して、本作はエイダの自立の物語も語られている。
彼女はルビーという身分も価値観も違うメイドと暮らすことで、世間知らずのお嬢様から強い女性へと脱皮していく。ここでは、とにかくルビーの魅力が際立っていた。
彼女はエイダとは正反対で、極貧で父の愛を受けずに生きてきた”影”の女である。しかし、そんなバックストーリーを吹き飛ばすくらいに明朗な性格をしていて、そこが健気で魅力的だ。演じるL・ゼルウィガーのコメディエンヌ振りが一層キャラの魅力を引き立てている。
今作の主となるテーマはもちろんインマンとエイダのロマンスになるが、その背景にある戦争というところに目を向けてみると、もう一つ大切なメッセージが見えてくるように思う。
随所に登場する殺戮は戦争の惨さについて考えさせられるが、そこから一つの教示も伝わってくる。それは”裁かれるべきは悪”ということだ。
現に、今作は全体を通してこうした宗教色がちらつく。
例えば、インマンが旅で出会う人々は皆、因果応報の裁きを受けている。そして、彼の旅の顛末もまた因果応報の教示と言えよう。”裁かれるべきは悪”という言葉のの意味を考えて見ると今作はズシリとした重みが感じられる。
また、穿ってみれば、このメッセージはそのまま現代アメリカに対するリテラシーにも繋がってくるような気がする。本作を見て今のアメリカが抱えている戦争を想起する者も多いのではないだろうか。
表向きはロマンス映画であるが、深読みすれば中々歯ごたえが感じられる作品だと思う。
ケイティ・ホームズ主演の学園サスペンス作品。
こじんまりとした内容に少々がっかり‥。
「ケイティ」(2002米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 女子大生ケイティは恋人エンブリーの失踪で傷心の淵にいた。卒業を間近に控え心身ともにストレス状態に陥っている。そこにエンブリー捜索を担当するウェイド刑事が現れる。彼はエンブリーが殺害されたのではないかと睨んでいる。頼るべき存在を無くしたケイティは次第に彼に熱い信頼を寄せていくようになる。その時、ケイティの前になんと失踪したはずのエンブリーが現われ‥。
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(レビュー) 学園を舞台にしたサスペンスミステリー。
監督はS・ギャガン。傑作「トラフィック」(2000米)の脚本家である。本作は彼の監督デビュー作となる。「トラフィック」が面白かったので期待したのだが、残念ながらその期待を大きく裏切る出来であった。
ラストにどんでん返しが用意されているが、これは早々に読めてしまい残念。更にもう一捻り逆転劇が欲しい。中盤から頭角を現すミスリードの存在も伏線として回収しきれておらずクオリティ面での不満が残る。
ただ、映像演出は所々にセンスの良さを感じさせる。
フィルタ使用による場面毎の色彩の差別化(これは「トラフィック」のソダーバーグ監督の影響もあるのかもしれないが)は緊迫感を生み、音楽と映像のタイミングの合わせ方も中々のもの。初演出のわりには手馴れたものである。
実際、彼は以後も監督業を続けている(未見だが)。続けることが出来るということはそれなに力量があるという証しだろう。
ケイティ役はケイティ・ホームズ。ウェイドに対する秘めた笑いや辛辣な皮肉混じりの主張は、中々つかみ所のないキャラクターとして大いに魅力的だった。しかし、精神疾患でカウンセリングを受けるあたりから、一つ一つにしぐさに見え透いたものを感じ取ってしまいその魅力も半減。序盤のミステリアスさのみが印象に残った。
S・スペイセクの演技が光る。吹き替えなしで歌も披露!
「歌え!ロレッタ愛のために」(1980米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) テキサスの炭鉱村。ロレッタは13歳の時に軍隊上がりの青年ドゥーと恋に落ちる。両親の反対を押し切って二人は結婚した。しかし、新婚初夜から二人は衝突する。ドゥーの奔放な女遊びが発覚し、彼は勤めていた炭鉱夫を辞めて村を出て行った。その時、残されたロレッタのお腹には赤ん坊がいた。後からそれを知ったドゥーは、ロレッタを呼び寄せる。6年後----ロレッタは4人の子供達に囲まれながら慎ましくも幸せな暮らしを送っていた。彼女は子供達に歌をよく聞かせていたが、その歌声はドゥーも好きだった。彼の勧めでロレッタはクラブ歌手としてデビューすることになる。
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(レビュー) 実在の歌手ロレッタ・リンの波乱に満ちた人生を描いた伝記映画。
ロレッタ役を演じるのはS・スペイセク。無垢な少女時代から栄光を手にする後年時代まで、幅広い年代を演じこの作品でみごとアカデミー賞主演女優賞を取っている。意外に歌が上手いので驚いた。
ドゥー役はまだ若かりし頃のトミー・L・ジョーンズ。現在日本でも放送されている某CMのせいで、どうしても違和感をおぼえてしまうのだが‥。
物語はいわゆるサクセス物の王道を行くものである。
ロレッタはトントン拍子でスター街道を駆け上がる。しかし、頂点に登り詰めた時、彼女の中で葛藤が生じる。サクセス物、とりわけショウビズを舞台にした映画ではよくある葛藤なのだが、これはスターに課された宿命みたいなものだ。そこを乗り越えることで人間的にもエンターテイナーとしても更に大きく成長することができるのだが、果たして彼女にそれを乗り越えることが出来るのか‥といったところが本作の最大の見所となる。
もっとも、この葛藤劇それ自体は、それほど深刻に描かれているわけではない。作品全体について言える事なのだが、展開は軽快で、ともすれば楽観的過ぎるきらいがある。プロポーズのシーンやラジオ局を回るシーン等、確かに場面場面では楽しく見れるのだが、いざそれらがクライマックスシーンに結実するかというとそうはならない。軽快な展開は作劇の散漫さに繋がり、結果クライマックを力のないものにしてしまっている。作り方の面で惜しまれた。
実在の人物を劇映画にする必要性ということを考えた時、それはやはりドキュメンタリー映画では表現できない物、例えば当人の内面、知られざる秘話等を語るということになると思う。単に半生の説明だけに終始するのなら何も劇映画にする必要性は無い。そもそも人間の半生を2時間という枠に収めること自体、相当無茶なことであり、ドラマの力点が余程明確にされていなければ散漫になってしまうのは当然である。そういう意味でも、本作にはドラマの力点を明確に設定して欲しかった。例えば、苦悩する後年や、ドゥーとの関係性など。そうすることによってこの映画は、よりドラマチックなものになっただろう。スペセクの演技は見応えがあったが、作り方に難ありである。
L・ウィザースプーンのためにあるような映画である。
男性より女性ファンが多い彼女だが、これを見ると何となくそれが分かってくる。
「キューティ・ブロンド」(2001米)
ジャンルコメディ・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 学校でファッションを専攻するブロンド美人エルは成績優秀で人気者。政治家を目指す恋人ワーナーに振られた彼女は、彼を追いかけてハーバード大学のロー・スクールに合格する。そこで待ち受けていたのはワーナーの婚約者を名乗るヴィヴィアンだった。彼女の意地悪も何のその。ワーナーを振り向かるべくエルの奮闘が始まる。
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(レビュー) ブロンドの髪にド派手なファッション。いかにも軽薄そうなエルが、その見せ掛けとは裏腹に努力と根性、気転を利かせた立ち回りで周囲を見返していく痛快サクセスコメディ。
辛辣な部分が一切なくノリが非常に軽快。いかにもウェルメイドなコメディで、こういうのに突っ込みを入れるのは野暮ったい。何も考えずにポップな画面やサクセス・ストーリーの痛快さを楽しむのが一番だ。
欲を言えば、もっとバカ映画に徹して欲しかった気もするが、何しろ観客の対象を女性と設定している以上、余り下品なことも出来ない。映画作りのスタンスとしてはこれくらいが丁度良いか。
一番面白かったのは、サロンでのダンスシーンだった。段々ミュージカルっぽくなっていくところが楽しい。
しかし、お気楽コメディとして侮ることも出来ない。この映画ではきちんと教訓も語られている。ルックスだけで人を判断することがいかに愚かなことか、という教訓である。
実は、これを見ている最中、ずっと俺は主演のL・ウィザースプーンの才女っぷりに違和感を拭えなかったのだが、それがいけないということなのか‥。
というわけで、自分に跳ね返ってくるような教訓を示してくれる作品であった。
伝記映画にも色々な作品があるが、これは波乱万丈に満ちていて中々面白かった。
「ポロック 2人だけのアトリエ」(2000米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 1941年のニューヨーク。新進画家ジャクソン・ポロックは、弟夫婦のアパートに住みながら売れない抽象絵画を描いていた。ある日、彼の絵に惹かれた女性画家リーが訪ねてくる。アルコール依存と精神不安定症に苦しむポロックは、彼女と愛を育むことによって徐々に立ち直っていった。その後、リーの働きかけで彼の絵はニューヨークのパトロンの目に止まる。徐々に仕事が増え、二人は静かな田舎町にアトリエを構えて暮らすようになるのだが‥。
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(レビュー) 実在の天才画家ジャクソン・ポロックの半生を綴った人間ドラマ。
監督・主演は名優E・ハリス。10年の構想を経て本作の映画化を実現したそうである。その熱意は彼の演技から存分に伝わってきた。特に、晩年の豹変振りには驚かされた。ここまで体重を増やすとは‥。デ・ニーロも真っ青のカメレオン俳優振りである。
抽象絵画は正直よく分からない。おそらく、見る人夫々が自分の感性でその作品世界に浸ればそれで良いのだと思う。ポロックの作品はかなり独特なことは分かるが、俺には今ひとつピンと来るものが無かった。時代が時代だけに、当時は斬新なものとして注目されたのだろう。
ドラマについては面白く見させてもらった。天才として世間にもてはやされた男の顛末は、予想通り悲劇的なものであるが中々ドラマチックである。
彼はアルコール依存と精神不安定で長い間家族から疎まれてきた。であるがゆえに、家庭の温もりに憧れる。しかし、リーは彼に「夫」であることよりも「芸術家」であることを求めた。夫婦でありながら、相手に求めるものが仕事上のパートナーとは‥。実に不幸な話だ。芸術家が孤独であることはベートーベンしかり、ゴッホしかり。ポロックも彼等と同様で、下手に才能があったために生涯孤独の身だったのだろう。
この映画で一つだけ残念に思った点がある。
それは、晩年のリーの心中に迫る描写が底が浅かったことである。彼女自身、自分の採った選択に後悔していたことは間違いないだろう。しかし、その心中をもう少しフォローしてくれれば、この結末は更にドラマチックになっていたと思う。どうにも描写の仕方が手落ちという気がしてしまった。
余談だが、エンディングロールに流れるトム・ウェイツのテーマソングが心に染みる。彼の歌はそれ単体で聞いてもあまり感動しないのだが、映像と合わさるとこの上なく心に響いてくるから不思議だ。例えば、マンハッタを舞台にした人情ドラマ「スモーク」(1995米日)のクライマックスシーンにかかる彼の歌などは大好きである。