イーストウッドが監督した異色の西部劇。ちょっと怖い…。
「荒野のストレンジャー」(1972米)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ある町に流れ者のガンマンがやって来る。彼は因縁をつけたチンピラを撃ち殺し、娼婦を犯すと、我が物顔で町に住み着くようになった。この町の人々は大きな不安に襲われていた。鉱山会社の金塊強奪の冤罪で投獄されたステイシーとカーリン兄弟が、近々この町に復讐しに舞い戻ってくるからだった。人々はこの流れ者のガンマンに用心棒役を頼むのだが‥。
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(レビュー) 流れ者のガンマンの復讐をミステリアスに綴った異色の西部劇。
監督・主演はC・イーストウッド。本作は彼の監督第2作目になる。前作「恐怖のメロディ」(1971米)で師匠D・シーゲルの指南を受けながら卓越したスリラー演出を見せたイーストウッドだが、本作にも所々に目を見張るようなタッチが見られる。一見するとただの西部劇に思えるが、実は○○○だったというところが実に面白い。ちょっと変わった西部劇を見たい‥と言う人には、うってつけの作品だろう。
特に、灼熱地獄と化すクライマックスが印象に残った。その後のオチも強烈である。こういうのは一発ネタであり本来は邪道なのだが、西部劇というジャンルだけにかなり衝撃的である。不条理劇と言えば良いだろうか‥。何とも形容し難いスタイルに作品のテイストをガラリと変容させていく所に、作劇の計算高さが感じられた。見ている最中ずっと、風呂場の銃撃シーンが不自然で仕方がなかったのだが、見終われば「あぁ、なるほど‥」と合点がいった。全てがこのオチで納得させられてしまう。
イーストウッドは、S・レオーネのマカロニ・ウェスタンによって用心棒というキャラに自らの役者として礎を築いたわけであるが、本作は正にその上に乗っかったような作品だと言える。但し、そう単純にいかない所が今作の面白い所である。観客は彼が早撃ちで悪人達をバッタバッタと撃ち殺していく様を見たいと思う。しかし、実際にはそのようにはならないのだ。自らに求められるものとは正反対のものを見せることで、見る側をアッと驚かせる。これも彼一流の遊び心だろう。
前作「恐怖のメロディ」にも共通して言えることだが、この頃の彼は他の監督たちによって着色された自分の役者としてのイメージ、タフでマッチョなヒーロー像を覆そうと、自らの作品で正反対のイメージを形作していったような気がする。おそらくは固定されたイメージに縛られたくないために、自分を貶めたり、朧たる存在にしながら、既存のキャラクターからの脱却をはかったのだろう。後年、ストレートな西部劇を撮ることになるイーストウッドだが、実は初期時代はかなり捻った作品を撮っていることが、処女作「恐怖のメロディ」とこの作品から伺い知ることが出来る。
映像派作家が創り出す世界観にドップリと浸れる。
「パコと魔法の絵本」(2008日)
ジャンルファンタジー・ジャンルコメディ
(あらすじ) 山の奥深くに佇む病院。そこには少し変わった患者たちが入院していた。傲慢で皆から嫌われている会社役員の老人大貫を初め、自殺願望癖のある元有名子役、オカマやヤクザといったワケあり患者達がいた。ある日、大貫は庭で「ガマ王子とザリガニ魔人」という絵本を読んでいる少女パコと出会う。懐いてくる彼女を初めは邪険にするが、その交友によって大貫の心は次第に癒されていくようになる。
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(レビュー) 後藤ひろひとの舞台劇「MIDSUMMER CAROL ~ガマ王子VSザリガニ魔人~」を、鬼才中島哲也が監督した作品。変わった患者達が入院している病院を舞台に、老人と少女の心の触れ合いをファンタジックに描いている。
ただ、ハートウォーミングなストーリーであることは確かだが、ギャグや映像演出の中には一部毒々しいキッチュさが含まれている。このあたりは見る人を選ぶかもしれない。
ドラマ自体は「美女と野獣」にちょっと手を加えて焼き直したようなものであり、取り立てて目新しさはない。ウェルメイドゆえに広く受け入れられそうな感じはするが、逆に言うとよくあるおとぎ話、押しの弱さも若干感じられる。
まず、ドラマのポイントとなる大貫の改心。ここが性急、且つ説明セリフに頼ってしまうのがいただけなかった。ここは改心に踏み切る何らかの事件、きっかけが最低1回は必要だったように思う。どうしても唐突に映ってしまい、テーマのインパクトが弱まってしまう。また、何故サマー・クリスマスに演劇をやらなければならないのか?そこについても説得力のある根拠が欲しかった。見ている方としては、どうしてもそこに意味を求めたくなってしまう。
逆に、良かったのは中島監督の感性がいかんなく発揮されていた映像とキャラクター達である。
物語は劇中劇の構成を取っており、語り部が話して聞かせる絵本の中の御伽話‥という構造になっている。とは言っても、決して夢見がちなメルヘンチックな世界というわけではなく冒頭で述べたようにサイケデリックでブラックな映像も横溢し、いかにも中島的世界が繰り広げられている。俺などは大人が読む童話‥といった感じで面白く見れた。クライマックスには3DCGアニメも登場してきて大変賑々しくはじけている。このあたりはアトラクション・ムービー的な楽しみ方も出来よう。
また、一癖も二癖もあるサブキャラ達も良い味を出していた。ヤクザとオカマのバックストーリーは魅力的であるし、ドクターとナースのイカレっぷりもテンションが高くて面白かった。
ただ、ややもすれば自演的な騒動に写り兼ねないので、個々の登場キャラにきちんと存在意義を持たせ、この騒動に何の意味があるのか、観客に明確に提示しておく必要はあったかもしれない。人物関係をコンパクトに収める必要はあっただろう。
キャストでは、パコを演じたアヤカ・ウィルソンの愛らしさが印象に残った。カナダ人と日本人のハーフという事で、ファンタジーの世界観に上手くマッチしていたように思う。
タイトで食い足りないが、ラストは鮮烈なインパクトを残す!
「青い春」(2001日)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 朝日高校の三年生・九條は、不良グループに代々伝わるベランダ・ゲームに勝利し番長の座につく。彼の周囲には幼馴染青木、暴走族の雪男等がいた。ある日、雪男が事件を起して逮捕される。これをきっかけに九條達の日常も徐々に暗転していく。
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(レビュー) 不良少年達の刹那的な生き様を綴った青春映画。松本大洋の同名コミックを俊英・豊田利晃が映像化した作品。
ドラマの舞台はほぼ学内に限定されており、閉塞的な青春を送る九條たちの悶々とした感情が緊密に描かれている。約80分というタイトな時間のせいもあり、各人物のバックストーリーには一切触れられていない。そのせいでキャラクターのリアリティーは排除されているが、逆に言うと<学校>を<社会>にみなした“寓話”のようにも読み取れ、彼らの鬱屈した感情はいつの世にも存在し続ける普遍的なもののように思えた。
原作(未読)は7本の短編集からなっている。今回はそれを1本にまとて映画化している。それぞれ完全に独立したエピソードというわけではなく夫々にクロスオーバーしている。若干散漫な印象を受けたが、物語の視座が主要キャラに集中しているので混乱するほどではない。また、劇中で描かれていない所については、様々な想像をめぐらしながら見ることも出来、そういう意味では一定の味わいを持った作品とも言える。
一番印象に残ったのは、屋上の手すりから手を放して何回手をたたけるかを競い合う“ベランダ・ゲーム”という物だった。このゲームを起点として描かれる九條と青木の友情が、本作のメイン・エピソードとなる。
二人の関係は中々スリリングで面白く追いかけることが出来た。九條はクールな番長で青木はいつも彼の後をついて回る、言わば子分のような存在である。二人は陽と陰の関係であり、それが逆転していく‥という所にこのエピソードの面白さがある。
一応、主人公は九條の方であるが、真の主役は青木の方にあると思った。というのも、青木の陰から陽の豹変によって、九條の葛藤が盛り上げられていくからだ。彼がドラマのキーを握る存在であり、彼なくしてこのドラマは成り立たない。そういう意味では彼こそ真の主役であろう。最も印象に残ったキャラだった。
青木を演じるのは新井浩文。本作が彼の映画初出演作である。元々がヤンキー顔だけに尖った言動も様になっているし、九條の陰として生きる惨めさ、ハンパさも実にハマッていると思った。圧巻はクライマックス直前のシーンだろう。夕方から朝方にかけての撮影は肉体的にも精神的にもかなりきついものがあっただろう。CGではなくアナログに固執した豊田監督の演出は正に鬼畜の所業と言われても仕方がないが、その結果、一度見たら忘れられないような名シーンになっている。
他に、今をときめく若手俳優たちが多数出演している。九條を演じた松田龍平を筆頭に、塚本高史、まだローマ字名義だった頃のEITAといった若手が登場してくる。ただし、新井浩文については文句なく好演と思うが、他のキャストについてはキャリアの浅さが演技を不安定にしてしまっている。
豊田利晃の映像はシャープ且つスタイリッシュで、本来マンネリ化してもおかしくない繰り返しの学園生活を異様なスピード感と劇画チックなセンスで切り取っていて終始飽きさせなかった。劇中にかかる音楽がミッシェル・ガン・エレファントということもあり、時折PV風な映像になってしまうのはご愛嬌といったところか‥。しかし、基本的にはオフビートな演出が横溢し、少年達の乾いた心を生々しく捉えることには成功している。
ただ、これは原作が漫画ということからなのか、やや過剰とも取れる演出も散見できた。例えば、雪男がトイレで起す事件などは本当はシリアスなのに、B級ホラー・コメディのように見えてしまい萎えてしまった。
ちなみに、彼の演出で最も印象に残っているのは千原弟が主演した「PORNOSTARポルノスター」(1998日)での一場面、空からナイフの雨が降ってくるシーンである。主人公の心象を鮮烈に表象しており未だに脳裏に焼きついて離れない。
マツケンは良かったが、内容にもう少しパンチが欲しい。
「デトロイト・メタル・シティ」(2008日)
ジャンルコメディ・ジャンル青春ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) おしゃれなポップ・ミュージシャンになることを夢見て上京した根岸は、ひょんな事からデスメタルバンド“デトロイト・メタル・シティ”のギターヴォーカル“ヨハネ・クラウザーⅡ世”としてデビューすることになる。デビューシングルが爆発的にヒットしたある日、大学時代の初恋の女性相川に再会する。渋谷系が好きな彼女の前で、根岸はクラウザーである事を隠し通すのだが‥。
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(レビュー) 同名の人気コミックを実写映画化した作品。
本来やりたかった渋谷系とは全く違うデスメタル・バンドをやらされることになった青年のジレンマを、パワフルなライブシーンと笑いで綴ったコメディ映画。
原作はかなり過激な表現が出てきて、そこが一つの面白さだったりするのだが、いかんせん本作ではそこが尽く封印されてしまっている。原作ファンからすれば物足りないという意見が出てくるような気がする。
また、元々が理不尽な原作を、この映画は至極真っ当に料理しようとしている向きがある。根岸が夢と現実の狭間でもがき苦しむ姿を、相川とのロマンスを絡めつつ描いているのだが、これが少し生真面目過ぎる。
特に、原作の理不尽さを描こうとするなら、このクライマックスのロー・テンションな演出はいただけない。もっとハチャメチャやるべきだっただろう。もっとも、仮に原作のテイストをそのまま再現したら確実に引く人はいそうだが‥。しかし、それを無視したら原作の真の面白さを引き出すことは出来ない。
キャストは概ね良かった。根岸を演じた松山ケンイチの頑張りが目につく。メイクの出来栄えもほぼ完璧で、ステージでのパフォーマンスも熱が篭っていて、こんな馬鹿馬鹿しいキャラクターをよくぞ再現してくれたと感心してしまった。サブキャラも忠実に再現されていて好感が持てた。ただ、ジャックを演じたジーン・シモンズはいつの間にかメタボ体型になっていて、ちょっと悲しかった‥。
冷戦を風刺した戦争コメディ。
「アメリカ上陸作戦」(1966米)
ジャンル戦争・ジャンルコメディ
(あらすじ) アメリカ北東部の沖合いでソ連軍の潜水艦が座礁する。潜水艦を引き上げるボートを探すために、9人の乗務員達が小島に上陸した。一行は浜辺に立つ別荘に踏み込んで車を頂戴しようと考える。そこには売れない作家ウォルトと妻と幼い二人の子供が住んでいた。突然現れたソ連兵に驚く家族。一行は新兵コルチンを見張り役に残して、車に乗ってボートを探しに町に出た。その後、残されたウォルトと家族は隙を見てコルチンから銃を奪い窮地を脱する。一方、町ではソ連が攻めて来たという噂が流れて大騒動になり‥。
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(レビュー) 間抜けなソ連兵と噂に振り回されて大混乱に陥るアメリカ人の姿を、スラップスティックに描いた戦争コメディ。
東西イデオロギーの対立を“笑い”で包みこみながら痛烈に皮肉った所に本作の妙味がある。
アメリカ映画だから一方的にソ連軍を悪役として描いていると思ったが、そんなことはなかった。ソ連兵はまともに銃も撃てないヘタレ揃いで、何となく可愛く見えてしまう。本作の朴訥としたテイストは、一にも二にも敵である彼らが、どうしようもないドジの集まりだからである。実にコメディらしい作りになっている。
一方で、アメリカ人サイドの方にタカ派的な思想を持った人物を配しているのは面白い。町の老人とウォルトの長男はとにかく好戦的で、ソ連兵よりもこちらの方がまるで悪役のようにも見えてしまった。自国に毒づくこの姿勢こそアメリカ映画の懐の深さだろう。
特に、ウォルトの長男はまだ幼い子供であり、その外見とは裏腹に過激な発言を連発する。<赤>=<敵>という当時の社会的洗脳が子供にまで及んでいるというところにブラックな風刺が感じられた。
映画は後半に行くにつれてドタバタ騒動劇が大きくなっていくのだが、ドラマ自体は途中から硬直してしまうのが残念だった。ここはもう少し抑揚をつけた展開が欲しかった。また、ギャグのネタ切れ感も認められ、後半から少しだけ退屈になってしまうのが惜しい。
クライマックスは一転、緊迫した場面で再び盛り上げられている。オチも上手く考えられていると思った。ただ、一つ苦言を呈すれば、ソ連兵の行動にはもう少しタメが欲しかった。これでは安易な友愛の押し付け、奇麗事に見えなくも無い。ここに観客に考えさせるような何かしらの問題提起をしのばせる事が出来ていれば、更に風刺劇としての深みも生まれただろう。
尚、一番笑えたのは老夫婦が営む郵便局のシーンだった。ちょっと歪な日常風景を、それこそブラックに切り取っている。この老婦人はバイクでソ連兵の襲来を町中に触れ回ったり、年に似合わずかなりパワフルで笑わせてくれる。
また、コルチンとアリソンの初々しいロマンスには安堵をおぼえた。いわゆる、この手の戦争物では定石の禁断のロマンスである。普通は悲劇的なものが考えられるが、この映画ではクライマックスの友愛精神同様、逆境を逆手に取りながら前向きに描いている。二人のその後を色々と想像してみたくなるような味わいが感じられた。
ドキッ!男だらけの爆発大会!!
「特攻大作戦」(1967米)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 第二次世界大戦の最中、ライズマン少佐はアメリカ軍の中では無頼漢として有名だった。そんな彼に特別任務が下される。それは12人の囚人を率いてドイツ軍の高官が集まる建物を奇襲せよという命令だった。早速、選ばれた12名を訓練するライズマンだったが、いずれ劣らぬ荒くれ者ばかりである。中々一筋縄ではいかなかった。しかし、彼のカリスマ的な指導力によって部隊は徐々に一つにまとまっていく。最初は期待していなかった上層部もライズマンの働きに一目置くようになる。それを面白く思わなかったのが、彼と犬猿の仲にあるブリード大佐だった。二人は自分達の部隊を模擬演習で戦わせることになる。
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(レビュー) 元囚人達によって組織された特殊部隊の戦いを、シニカルなユーモアと豪快な戦闘シーンで綴った戦争映画。
監督は“漢”の映画を撮らせたら右に出るものがいないR・アルドリッチ。正に彼の面目躍如と言った感じの娯楽作に仕上がっている。難しい事を考えず、ひたすら剛直な演出に酔いしれながら見るべき作品だ。
キャストも豪華で見応えがある。ライズマンを演じるL・マーヴィンを筆頭に、A・ボーグナイン、C・ブロンソン、J・カサヴェテス、D・サザーランド、T・サヴァラス、J・ケネディ等、癖のある個性派俳優達が揃っている。中でも、J・カサヴェテス演じる反抗的なチンピラ軍人フランコ、T・サヴァラス演じるサイコパスな教条主義者マゴットは面白いキャラクターだった。いずれも要所で重要な働きを見せている。
一癖も二癖もあるワケあり連中を一つにまとめるL・マーヴィンの男臭さも実に良い。映画前半は、鬼教官よろしく彼がいかにしてこの荒くれ者たちを手なずけていくか‥そこが描かれている。殴り合いの喧嘩あり、緊迫した睨み合いあり。男の意地とプライドの衝突が画面に浩々と繰り広げられ、まるで学園ドラマにおける教師と生徒の師弟ドラマのようだ。
また、手に汗握る緊張感で描かれるクライマックスシーンも面白く見れた。彼らは最初から生きて帰れる保証が無いことを承知でこの作戦に参加している。刑務所にいても死刑になる身‥。ならば、最後に大きな花火を打ち上げようじゃないか!そんな戦う男のダンディズムがコッテリと再現されている。
普通ここまで絶望の淵に立たされたらひたすら暗い話になりそうだが、本作には全く悲愴感が感じられない。随所に笑いが演出され、全体的にコメディライクな作りになっている。戦争をゲームのように軽く見せてしまっている所に多少引っ掛かるが、そこはやはりアルドリッチ‥ということで、純粋にアクションシーンのハッタリを楽しむべきだろう。
難は約2時間半に及ぶ長さだろうか。ストーリーは大雑把に3つのパートに分ける事が出来る。
まず、Aパートは訓練シーン。Bパートは宿敵ブリードとの対立。Cパートが作戦シーンとなる。このうちBパートはドラマ的に余り意味がないように思えた。ライズマン対ブリードの確執の中に、反エリート主義、愚連隊の雑草魂を描くというのは、いかにもアルドリッチらしくて良いと思うのだが、これがあることで展開に躓くのも事実だ。見所となるCパートに全てのテンションを集中させた方が、むしろ構成的にはスッキリしたのではないだろうか。しかも、ここでの模擬演習が後の実戦にフィードバックされるわけでもない。そのため余り意味のないものに見えてしまった。仮に対ブリードのドラマを描くのであれば、ライズマンとの1対1の勝負を描いてくれた方が、余程このパートの存在意義は明確になるし、コンパクトにまとまる事でクライマックスへの繋ぎも流麗になったと思う。この辺りの構成には難ありと感じた。
オリジナル版の良い所を残しながら上手く物語をボリュームアップしている。
「3時10分、決断のとき」(2007米)
ジャンルアクション・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) ダンは干ばつによって牧場を失いかけていた。更に、近隣に鉄道が通る予定で、地主からは立ち退きを要求されていた。ある日、地主が差し向けた荒くれ者たちによって、大切な牛を奪われてしまう。それを取り戻そうとダンは息子達と荒野に出た。彼らはその途中でウェイド率いる強盗団に遭遇する。強盗団は駅馬車を襲撃していた。彼らは金品を強奪するとダンの馬を奪って逃走し、その先で小さな町を占拠した。一方、ダンは馬を取り戻す道すがら、ウェイドに追い出された保安官に出会う。ダンは保安官に頼まれてウェイドを逮捕するために町へ行く。そして、まんまと逮捕することに成功した。その後、ダンは報奨金に目がくらみ、ウェイドを刑務所まで護送する仕事を買って出る。
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(レビュー) 1957年に製作された
「決断の3時10分」(1957米)のリメイク作。
物語の大筋は一緒だが、色々とアレンジが加えられている。そこが今回の見所である。
一番の大きな違いは、ダンの長男ウィリアムをドラマに絡めたことである。オリジナル版はどちらかと言うとダンと妻の夫婦愛に軸足を置いて展開されていたが、今回は妻のポジションにウィリアムが取って代わっている。つまり、オリジナル版の夫婦愛が父子愛のドラマに置き換えられているのだ。
前作も今作もテーマは、ダンの良心萌芽という点で共通している。今回は息子から見た父の強さ、正義感がフィーチャーされており、夫婦愛に軸足を置いたオリジナル版に比べて、ダンのヒロイックさがよりストレートに発せられているような気がした。それによって、ダンの良心萌芽というテーマもより明確になっている。
そして、本作にはもう一つ大きな改変がある。それは敵役ウェイドの造形だ。オリジナル版は大胆不敵で頭の切れる人望者というキャラだった。今回のウェイドにも同様のキャラクター性は伺えるが、オリジナル版よりも遥かに冷酷残忍な男になっている。悪の側面を強調してしまったことでオリジナル版にあった複雑なキャラクター性が失われてしまったのは残念だった。ただ、その一方でダンの造形がバックストーリーを含め、前面に出やすくなった。おそらくだが、ダンの正義感を描きたいがために、敵役であるウェイドを分かりやすい悪役として造形したのだろう。これもテーマを強調する上では成功しているように思った。
尚、ウェイドをオリジナル版よりも冷酷残忍な悪人として造形したために、今回の結末はかなり違うものとなっている。彼のキャラクターアークを用いてドラマにケリをつけている。確かにこれはこれでドラマにカタルシスをもたらす上では、実に合点のいくエンディングに思えた。ウェイドの造形変更にきちんと意味を見出せるエンディングで、個人的には満足のいく結末だった。
他にも、幾つか改変が見られる。
ウェイド一味のサブリーダ、チャーリーを特別な存在に仕立てたのはオリジナル版には無かった演出である。これは大いに評価したい。彼はウェイドの片腕として最も信頼されている部下である。その関係は、穿ってみれば擬似父子的な関係と捉えることも可能で、これはダンとウィリアムの関係に呼応する物という見方も出来る。善と悪の両面をダンとウェイド、二人の"父親”の中に投影する事で、ドラマに奥行きが生まれている。
また、地主の暴威やウェイド捕縛の一件など、細かなところで変更が見られるが、これらも物語の屋台骨としてしっかりと機能していた。
今回の改変は概ね良い方向に出ているように思った。
ただ、反面、色々と細かな事件を入れ込んだせいで、シンプルだったオリジナル版に比べて展開に躓くような感じも受けた。例えば、トンネルのシーンは必然性が余り感じられなかった。先住民の存在もかえってドラマを散漫にしてしまった感がある。このあたりは整理した方がベターだったのではないかと思う。
いずれにせよ、今回のリメイクはオリジナル版の肝となる部分を踏襲しながら、上手くドラマのボリュームアップ化が図られている。大概リメイクはオリジナルを超えられないという定説があるが、本作に限って言えばそういうことはない。
心理サスペンス的な面白さを持った異色の西部劇。
「決断の3時10分」(1957米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) アリゾナで牧場を経営するダンは、ベン・ウェイド率いる強盗団が駅馬車を襲撃する所を目撃する。臆病な彼は何も出来ず、ただ黙って見ていることしか出来なかった。その後、ベン一味は近場の町に立ち寄り、保安官をそそのかして町を牛耳った。一方、ダンは放牧した牛をかき集める道すがら、駅馬車の経営者と町を追い出された保安官に遭遇する。彼等からベン逮捕の協力を求められたダンはそれに仕方なく応じた。その後、難なくベンを逮捕することが出来た。しかし、今度は彼をユタの刑務所まで護送しなければならなくなる。ダンは多額の報酬と引き換えにその仕事を請け負うことになり‥。
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(レビュー) 凶悪強盗犯を護送することになった牧場主の旅を、緊迫感溢れるタッチで描いた異色の西部劇。
ダンは干ばつに陥った牧場を立ち直らせるべく、報酬目当てに強盗団のリーダー、ベンの護送を引き受ける。しかし、いつどこでベンの仲間が襲ってくるか分からない。刑務所行きの列車が来るのは3時10分。それまでに無事に辿り着く事が出来るのか‥というのが本作の見所である。切迫したダンの状況をスリリングに描いており最後まで面白く見ることができた。
このスリリングな演出の肝要を成すのは、ダンとベンのやり取りである。夫々に複雑なキャラクター性を持った魅力的な人物として造形されている。
ダンは決して正義感が強い男というわけではない。愛する家族と牧場を守るため‥という極めて個人的な理由から、この仕事を買って出る。ヒーロー然としていないところに、ある種の親近感をおぼえる。いかにも小市民的なキャラと言えよう。
一方のベンは、悪名高き強盗団のボスである。部下達の人望が厚く、頭も切れる。また、仕事以外ではいたって普通の男で、一見して悪人とは見えない。女子供に対しては優しさを見せることもあり、単純に悪者と割り切る事が出来ない複雑キャラクターになっている。
映画の中盤から、ほぼこの二人のやり取りを中心にして描かれていく。狡猾なベンはダンの弱みに付け込んで、報酬以上の金をやるから自分を解放するよう求めてくる。ダンの心は揺らぐが、天下の極悪人に手を貸したとあってはさすがに良心が痛む。ダンが平凡な男だけに、このあたりの葛藤は実にリアルに見れた。
後半は終始この調子で、二人の心理サスペンス劇になっている。派手な銃撃戦はないが、異色の西部劇といった感じで面白く見れた。
尚、最終的にダンは“ある二つの出来事”でこの迷いを払拭する。これも当然そうなるだろう‥という風に見れた。この決断には実に共感をおぼえた。
ただ、クライマックスのアクション・シーンについては、お世辞にも上手く撮られているとは言い難い。派手さで見せる映画ではないとは言っても、アクション的には唯一の見所となるだけにこの辺りはもう少し頑張って欲しかった。
また、ダンの妻のある行動にも、今ひとつ説得力が感じられなかった。行動に到る動機付けに無頓着すぎる。全編通して1時間半程度の作品なので、非常にコンパクトな作りになっている。メインのドラマには力を入れているが、背景の作りこみまで十分手が回らなかったという印象で、このあたりは実に惜しいという気がした。
爽やかな青春スポーツドラマ。
「がんばっていきまっしょい」(1998日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルスポーツ
(あらすじ) 今から20年前。四国・松山の港町に住む女子高生悦子は、女子ボート部を立ち上げる。周囲の友人を巻き込んでいきなり新人戦に出場するが、結果は惨敗に終わった。これに奮起した部員達は、本腰を入れて練習をするようになる。そこに新コーチがやって来て‥。
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(レビュー) ボート部にかける少女達の熱い思いを爽やかに綴った青春映画。
本作は何と言っても、映画初出演、初主演となる田中麗奈の魅力に尽きるだろう。元々ボーイッシュな雰囲気を醸す女優だが、少女でも女でもない微妙な年頃を演じるには正に敵役という感じがした。幼馴染ブーに対する複雑な乙女心や、愚直に勝利を追い求める負けず嫌いな性格、不器用な真っ直ぐさが彼女の演技から感じ取れる。映画初主演にして見事な好演だと思った。
ただ、彼女を含めここに登場する同年代の他のキャストの演技は、まだまだ固いという印象を受けた。活き活きとした表情を見せるシーンもあるのだが、いずれも演技経験が浅いということもあり、やはりどこかギクシャクしたやり取りに映ってしまう。若くてもそこそこの演技経験のある者が何人か入っていれば、また違ってきたかもしれないが、見ていてどうしても危なっかしく映った。
この手のクラブ活動系の青春映画は、最近では「スウィングガールズ」(2004日)や「ウォーターボーイズ」(2001日)といったヒット作が思い出される。両作品と比べると今作の主要キャストの演技力は目に見えて劣るという気がした。特に、ブーの棒読みは全体を壊すほどに酷すぎて、ここはどうにかして欲しかった。
5人の少女たちは夫々に個性的に造形されている。おっとり系、お笑い系、クール系といったコンストレイションをはかりながら、メンバー同士の衝突と友情がドラマを上手く転がしている。田中麗奈以外では、真野きりなも中々の存在感を見せている。長身のモデル体型で一際目を引く。クライマックスの彼女には中々魅せるものがあった。
欲を言えば、個々のバックストーリーをセリフの端々や行動の中に、ちょっとでもいいから見せて欲しかったか‥。それによって夫々の魅力は更に増し、衝突と融和、そこから派生するチームとしての連帯感が、複数の目線で追いかける事が出来たかもしれない。ドラマを味わい深いものにするためのちょっとした工夫。それが欲しかった。
基本的に演出はオフビートなものが多いが、その一方でリリカルなトーンも随所に散りばめられている。そもそも本作は回想形式で綴られる懐古のドラマなので、演出的な狙いとしてはこういうやり方で合っているような気がした。
しかし、反面、この演出によってぼんやりとしてしまった部分もある。例えば、新コーチの心境変化はドラマの中で明確にトレースされておらず、終始つかみきれないままであった。そのため全員が一丸となってのぞむクライマックスの大会シーンにも今ひとつ乗り切れなかった。また、途中から登場する新入生の扱いが終盤にかけて御座なりになってしまったのもいただけなかった。
カメラは非常に美しく捉えられている。物語の舞台は神社や木造の家屋が建ち並ぶ懐かしい町並みで、郷愁を語るには格好の舞台だと思った。海辺の部室というロケーションも、映像的には申し分ない設定である。
余談であるが、少女達はほとんどブルマ姿で登場している。今となってはお目にかかれなくなった古き遺産に郷愁を馳せたい‥という別の目的で見ても本作は満足を得られるかもしれない(汗)
孤独な男女のロードムービー。しみじみとさせられる。
「風花」(2000日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 桜の木の下で、エリート官僚・廉司と風俗嬢のゆり子が寝転がっていた。二人は夜通し飲んで酔い潰れてしまったのである。ゆり子は今の暮らしが嫌になり、北海道にいる娘に会いたがっていた。不祥事で休職になった廉司は、その願いを叶えるべく旅に付き合うことにする。
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(レビュー) 孤独なエリート官僚とシングルマザーの触れ合いをしみじみと描いたロード・ムービー。
映画は桜の木の下で二人が寝転んでいるシーンから始まる。二人は何者なのか?どうしてこうなったのか?それが過去のフラッシュバックと二人の会話から明らかにされていく。中々ミステリアスな幕開けで引き込まれる。良い映画はやはりオープニングから意外性に富んでいて面白い。
廉司は失職したばかりの官僚である。ゆり子は風俗嬢をしている。二人は数奇な運命によって出会い、ゆり子の娘に会うために旅を始めることになる。二人の関係は恋人というよりも友情に近く、更に言えば母子関係のようにも見えてくる。
廉司は普段はパリッとしたスーツで口ごもった喋り方をするのだが、酔うとだらしなくなり自分の思っている事を赤裸々に喋りだす。その口から出てくるのは、失恋、インポ、失業といったネガティブな言葉ばかりだ。どうでもいい酔っ払いの愚痴に過ぎないが、一方でまるで駄々っ子の泣き言のようにも聞こえてくる。彼は酔った時に本性を、つまりの幼稚性を表わすのだ。
一方のゆり子は、亡き夫が作った借金を抱えながら、離れて暮らす子供のために裸一貫で頑張っている女性である。苦労を苦労と見せない明るい振舞いに彼女の気丈さ、母親としての強さが伺えるが、今に到って心労が極まり故郷の北海道へ戻ろうとしている。
廉司は大人になりきれない未熟な男、ゆり子は苦労を背負うシングルマザー、二人の関係は疑似的な母子関係のように見えてくるのが面白い。現に、ゆり子は酔った廉司をまるで子供をあやすようにからかうし、廉司もそれに怒りながらついつい甘えてしまう。何の事はないバカップルの馴れ合いと言えば確かにそうなのだが、これが不思議と嫌じゃなく、終始微笑ましく見れた。
しかし、たとえ二人の関係が母子関係に近いものだとしても、やはり肉体的には成人した男と女である。一緒に旅をしていれば、当然性的衝動も湧きおこる。その衝動を最も正面から描いたのが後半の旅館のシーンだろう。ここは面白く見れた。男にとっての理想の女性が往々にして母親に近いところに落ち着く‥というマザコン男の習性が垣間見れるからだ。擬似近親相姦的なブラックなユーモアと決して成就することのない悲恋の切なさ。それが合わさることで何とも感動的である。
また、二人の関係の優劣が最終的に逆転してしまう所も面白い。先の擬似母子関係になぞらえて考えれば、ゆり子が保護者で、廉司がその保護を受ける被保護者というふうに捉えられる。しかし、この保護と被保護の立場がクライマックスでは逆転する。廉司がゆり子を支える“子”たらんとすることで、相互補助の関係が築かれ二人は完成された擬似母子の関係に到達するのだ。ここにも感動させられた。
そして、この完全に確立された擬似親子愛は、ラストのゆり子の娘への真性の親子愛へと継承されていく。ここまでしたたかにして見事な幕引きをされると感極まってしまう。実にロジカルに組み立てられた脚本だと感心させられた。
監督は相米慎二。本作は彼の遺作となる。氏の持ち味であるロングテイクは健在で、特に冒頭のシーンの美しさは特筆すべきものがある。また、ロード・ムービーらしいロケーションを活かした撮影も、内省的なドラマを暗くならないように上手く料理していると思った。
クローズアップの少なさも氏の演出の特徴である。例えば、ゆり子の財布に入った子供の写真をクローズアップで捉えなかったのは、明らかに狙いであろう。それによってどんな写真なのか色々と想像を掻き立てられ、その後の展開も期待させる。また、写真とリンクさせながら締めくくられるラストにも深い味わいがもたらされる。描くべきところと描かないところを弁えた所に、ベテランならではの手練が感じられた。
廉司を演じるのは浅野忠信。ゆり子を演じるのは小泉今日子。夫々好演していると思った。
浅野の演技力はもはや未知数という感じだが、独特の雰囲気を持った個性派俳優である事は間違いない。特に、こうした煮え切らない男をやらせると実によくはまる。
小泉今日子については、クライマックスの不思議な体操(笑)を除けば概ね◎。不幸の身を飄々と演じているところに好感が持てた。