山中貞雄監督の人情劇。
「河内山宗俊」(1936日)
ジャンル古典・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 甘酒屋を切り盛りするお波は、たった一人の家族・弟の広太郎の非行に手を焼いていた。姉の苦労を気にせず盗みと博打に明け暮れる広太郎。ある日、彼は侍から小柄を盗みそれを質屋に売り払って河内山宗俊が開いている飲み屋に繰り出した。そこに心配したお波が訪ねてくる。広太郎は偽名を使っていたため宗俊は知らないと答えた。しかし、お波の心配する様子を見て不憫に思った彼は探すのを手伝うことにした。その後、お波に惚れている森田屋の用心棒・金子と一悶着あり、宗俊は彼と奇妙な友情で結ばれる。森田屋に多額の借金をしているお波を助けようと、二人はある画策をするのだが‥。
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(レビュー) 歌舞伎の演目でも有名な江戸時代に実在した河内山宗俊の波乱に満ちた物語を、ユーモアと人情味溢れるタッチで描いた作品。
監督・脚本は山中貞雄。現存しているソフトはたった3作品だが、他の2作品「人情紙風船」(1937日)と
「丹下左膳餘話 百萬兩の壺 」(1935日)が名作扱いされているとあって、本作はどうしてもその陰に隠れがちである。実際、他の2作品と比べてみると、若干演出の切れが見劣りする。例えば、クライマックス直前に降る雪は、どうにもケレンミを求めすぎな感じを受けた。また、音質が大変悪いため中々ドラマに没入しにくい。古い作品なのでこのあたりは仕方がないといった所か‥。
ただ、こうした不満はあるものの、お波の借金を巡るサスペンスを利用したキャラの立ち回りの上手さや、ユーモアを利かせた日常描写の積み重ね、それによって流麗に展開されるドラマ運びの手練には唸らされるものがあった。姉妹愛、悲恋、片恋慕、友情といった情緒も巧妙に織り込まれていて、人情派作家・山中貞雄のテイストが存分に味わえた。
中でも、河内山と金子の奇妙な友情が良い。二人とも最初はお波を巡って喧嘩になるのだが、すぐに意気投合し彼女のために一肌脱ぐことになる。ハッキリ言って、この二人はどこか似た者同士な所がある。切符の良い所、飲んだくれな所、女にはめっぽう弱い所等々。そういったキャラクター性がこの友情を愛おしく見せている。一度も刀を抜いたことがないのに堂々と用心棒稼業をしている金子の山師振りは傑作だった。
尚、お波役は当時15歳だった原節子が演じている。清楚な佇まいに、後の小津作品における〝麗しき娘”像の原型が見て取れる。
戦後日本の価値観の変転を描いた人情ドラマ。
「安城家の舞踏會」(1947日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 没落華族・安城家はこのたび屋敷を手放すことになり、父・忠彦はその売り先を決めかねていた。今や事業家として成功した元運転手の遠山、安城家とは因縁の関係にある興隆著しい新川。この二人で迷っていたのだ。次女・敦子はそんな父の姿を見て不憫に思う。そして、屋敷の最後の思い出に‥と舞踏会の開催を勧めた。こうして開かれた舞踏会だったが‥。
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(レビュー) 没落華族の最後の舞踏会を様々な人間模様を交えながら描いた人間ドラマ。
戦後間もない頃の作品で、当時の世相を反映しているという点で見応えがある。敗戦によって日本の財閥は解体され、それまでの華族、いわゆる金持ち一家は弱体化していったわけであるが、今作に登場する安城家も正にその煽りを受けた華族の一つである。安城一家の終末を描く本作は、戦前から連綿と続いた日本の社会の在り方そのものの終焉を表していると言える。
安城家には父親と成人した3人の子供たちがいる。映画は屋敷を失う父・忠彦の悲嘆を描きつつ、それまでの華やな暮らしと別れを告げなければならなくなった子供たちの葛藤を追っている。
長女・昭子は婚約を解消されたことで女としての自信を喪失してしまっている。次女・敦子は父を不憫に思い、屋敷の買い手を宿敵・新川ではなく、かつて屋敷に奉公していた善良な遠山にしようと画策する。長男・正彦は下女と肉体関係を持ちながら一連の状況を遠目に眺めている。
この中で主人公となるのは敦子であるが、個人的に一番面白く見れたのは正彦のドラマだった。彼は新川の娘の求愛を知りつつ、これを〝復讐″の手段に使おうと非情に徹する。森雅之が終始ニヤケ顔で演じているのだが、これが実にイヤらしくて良かった。新川の面に泥を塗ってやろうという反逆精神が痛快であるし、それがどうしようもない放蕩息子という所が皮肉めいていて面白い。
他のキャストでは敦子を演じた原節子の美しさが印象に残った。箱入り娘のお嬢様という役どころは正に適役で、父を支える献身ぶりも実に尊いものに写る。そして、何と言っても彼女の喋る日本語が実に美しい。「~あそばせ」「~ございますの」といった上品な言葉遣いは聞いてるだけで心地よい。また、単にお上品を決め込んでいるだけでなく、時に新川を憎々しげに睨みつけるなど、芯の強い女性像をさりげなく体現している。
ただ、それ以外のキャストとなると、全体的に大仰な演技が横溢し今一つである。当時の洋画の影響もあるのかもしれないが、多少バタ臭く映る者たちもいた。特に、遠山を演じた俳優は、本来あるべき深刻さを大仰な演技で軽く見せてしまっていただけない。また、映画の結末自体は決して悪くはないのだが、この時の忠彦の変化が何だか軽く映ってしまい釈然としない思いも残った。
子供たちの日常が微笑ましく見れる。
「風の中の子供」(1937日)
ジャンル古典・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 小学生の兄弟・善太と三平は、近所の友達と川遊びや木登りをしながらすくすくと育っていた。ある日、友達からお前の父ちゃんは会社をクビになり警察に連れて行かれる‥と言われる。心配した二人はそれが原因で喧嘩になった。その後、三平は母の頼みで父の会社に弁当を持って行った。そこで見たのは父の落ち込んだ表情だった。父は従業員と何かを巡って対立していて、デスクに座って沈んでいたのである。そして、友達の言うとおり本当に父は警察に連れて行かれてしまった。一家の大黒柱を失った家族は困窮することになる。
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(レビュー) 幼い兄弟の一夏の出来事を牧歌的なタッチで綴った作品。
父の不在によって離れ離れになった兄弟の絆と成長を丁寧に描いた秀作である。彼らが抱える不安と孤独は、様々なシーンで表現されているが、中でも善太のかくれんぼのシーンが胸にジワリときた。いつも一緒にいる弟・三平が叔父の家に行ってしまったことによる孤独感。それに切なくさせられた。
物語は幼い兄弟の目線で描かれており、大人たちの事情は終始ぼかされている。父は何故警察に連れていかれたのか?そのあたりの事情も一切明確にされず、子供目線で展開される児童映画のような作りになっている。父の逮捕という事件にサスペンス的な匂い持たせつつ、果たして自分たちはこれからどうなってしまうのか?という葛藤にも踏み込んでおり、中々良くできたドラマだと思った。
本作の最大の魅力は何と言っても、子供たちの生き生きとした表情。これに尽きるだろう。些細なことで始まる兄弟喧嘩、川遊び、木登り、何気ない日常風景が微笑ましく切り取られている。そこで繰り広げられる子供たちの演技は実にナチュラルで、例えば父の会社に弁当を持って行った三郎がフックにかかった父の帽子を取ろうとしてジャンプするしぐさなどは実に愛らしい。こうした自然な表情、演技は今作の大きな魅力となっている。
後半から物語は叔父さんの家に預けられた三平のストーリーを中心にして展開される。父の逮捕というサスペンスは一旦舞台袖に置かれ、ここから徐々に彼の成長葛藤に迫っていくようになる。ホームシックにかかったり、悪戯をして怒られたり、他愛もない日常が延々と綴られるのだが、その一つ一つが三平の孤独の静かな集積となっている。そして、これらのエピソードがあることでラストは見事に感動的に締めくくられている。作劇が周到に構成されていることに唸らされた。
監督は清水宏。子供をうまく使うことに定評のある作家である。彼は戦前から活躍した日本映画界の重鎮であり、その功績は近年再評価されている。彼のことは田中絹代の半生を描いた
「映画女優」(1987日)に登場していたので名前だけは知っていたのだが、今回初めて作品を拝見した。ユーモアに溢れた作風はもちろんこと、子供たちのナチュラルな演技が素晴らしく、児童映画の巨匠と呼ばれる理由が何となく分かった気がする。
尚、三平と友達になる曲馬団の少年役として突貫小僧が登場してくる。小津作品ではお馴染みの子役で「大人の見る絵本生まれてはみたけれど」(1932日)や「出来ごころ」(1933日)で見たころに比べると随分と成長していた。おそらく中学生くらいだろう。全然分からずクレジットを見て初めて知った次第である。
迫力のアクションシーンは◎。但し、散漫な作りになってしまっている‥。
「ターミネーター4」(2009米)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) 西暦2018年。人類は抵抗軍を組織して、スカイネット率いる機械軍と熾烈な戦闘を繰り広げていた。抵抗軍の戦士ジョン・コナーは総攻撃の作戦指揮を任される。一方、焼け野原となった戦場から奇跡の生還を果たしたマーカスは、放浪先でカイル・リースに出会う。カイルは未来を変える鍵を握る少年だった。二人は機械軍から執拗な攻撃を受ける。
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(レビュー) 大ヒットシリーズ「ターミネーター」の第4作。今回は西暦2018年の未来を舞台に、ジョンとカイルの数奇な運命が描かれている。
これまでのシリーズの顔だったシュワちゃんが降板したためどうしても盛り上がりに欠けるが、アクションシーンはまずまずの出来になっている。 監督が
「チャーリーズ・エンジェル」(2000米)のマック・Gということで、かなりスタイリッシュでコミックブック風なものを想像したのだが、割とオーソドックスに料理されていた。これまでのシリーズの流れをを考えれば、このくらい抑え目にしたのは正解だろう。そうでないとシリーズの世界観までぶち壊されてしまう。
一方、物語の方は残念ながら今一つ‥。これでは一体誰が主人公なのか分からない。最初は当然ジョンが主人公かと思って見ていたのだが、途中から彼の出番はなくなり、代わって謎の男マーカスの視点でドラマが綴られていく。どちらか一方の視点に比重を置いた構成にしないと見ている方としても感情移入がしずらい。
おそらく脚本家もこのヒットシリーズをどう料理するかで相当頭を悩ませたのだろう。前作のラストに納得のいかなかったファンは多いと思うが、それをどう立て直すかであれこれ考えたに違いない。今回はそうしたプレッシャーの中で脚本を必要以上にこねくり回した‥という印象を持った。未来からやって来たターミネーターが人間を襲うというこれまでのパターンを敢えて外してきた所にも、何か新味を‥という作り手たちの熟考のあとが見られる。しかし、出来は余り芳しくない。
本来、このドラマの主役はマーカスなのだと思う。彼は人間と機械の中間的な存在であり、そのアイデンティティーを迫っていけばラストはもっと引き締まったように思う。実際、ジョンもカイルはここでは完全に脇役的な扱いになっている。最初からマーカスを主役にストーリーラインが組立てられていれば、もう少しまとまった映画になったのではないだろうか。
尚、アクションシーンではスピード感溢れるバイク・アクションが一番見ごたえがあった。
また、1と2に対するオマージュが見られたのも良かった。これまで見てくれたファンへのサービスであり、こういうのはシリーズ物には大切なことだと思う。
金星ガニという呼称で有名なB級SFパニック作品。コーマン先生のユルユル演出がたまらない。
「金星人地球を征服」(1956米)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) 金星から謎の電波をキャッチしたアンダーソン博士は、金星人が地球を侵略することを察知する。しかし、周囲の人々は誰も彼の言うことを信用しなかった。落胆したアンダーソン博士は地球の重要な情報を金星人に提供する。そんな彼を親友のネルソン博士は批判するのだが‥。
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(レビュー) SF、モンスター映画を数多く作り出したAIP製作のB級SFパニック映画。製作・監督はR・コーマン。
いかにも低予算バレバレな金星人のロボット、通称“金星ガニ”の張りぼて感に始まり、どこからどう切ってもB級映画である。ドラマも地球侵略の危機というスケールの大きさの割に、小さな田舎町でしか繰り広げられない。また、展開も強引で行き当たりばったりである。何もかもが作品としての一定水準に達していない。
だが、これこそがB級映画としての醍醐味(?)なのだろう。皆さん大いに突っ込んでください‥という感じに作られている。
ただ、呑気な中にもシリアスな箇所はある。例えば、戦争の歴史を憂うセリフが度々登場しくてるが、当時の時代背景を考えると何気にこのメッセージは鋭い。冷戦真っただ中という時代性を考えると、金星人の侵略に共産主義の侵略をダブらせている節もありそうだ。
こうした真面目な作りは、こと本作のようなB級映画においては、背伸びしているようにしか映らないのだが、そこも含めてどうしても嫌いになれない作品である。ドヤ顔で語るラストのセリフは爆笑物だった。
尚、アンダーソン博士役は若きL・ヴァン・クリーフが演じている。彼はどちらかというと西部劇での印象が強いが、こうしたSF映画でもシャープな容姿がよくハマる。ファンならちょっとした拾い物という感じで見れるのではないだろうか。
ネルソン博士役は「スパイ大作戦」でもお馴染みP・グレイヴスが演じている。こちらもファンならちょっとしたお得感が味わえるだろう。
R・コーマン製作のB級映画。
「フランケンシュタイン/禁断の時空」(1990米)
ジャンルSF・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 近未来のニュー・ロサンゼルス。兵器開発を進める科学者ブキャナンは実験中に時空の扉を開いてしまい、19世紀のスイスへ飛ばされる。そこでフランケンシュタイン博士と遭遇し、彼が作ったモンスターとの戦いに巻き込まれていく。
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(レビュー) B級映画の帝王R・コーマン自らがメガホンを取ったSFサスペンス作品。
映画=娯楽を信条とする彼の創作姿勢がよく表れた1本で、まるでジュブナイル小説を読んでいるように楽しめた。
物語は実に単純明快である。200年前にタイムスリップした科学者ブキャナンの時空を超えた冒険が、怪奇・SF趣味なテイスト全開で描かれている。フランケンシュタイン博士に出会った彼はある陰謀に巻き込まれ、そこで科学の意義とは?という重要な問題に目覚めていく。
その一方で、映画は人造人間のアイデンティティーの追及にも迫っていく。原作者であるメアリー・シェリーが登場して物語に絡んでくるのだが、この虚実入り混じった展開は中々ユニークで面白いアイディアである。原作に対する新解釈の試みが見られる
ただし、メアリー・シェリーとブキャナンの関係はドラマの添え木的な役割しか持っておらず、今一つ盛り上がりに欠ける。最後に何かしらのケリをつけて欲しかった。やや消化不良な感じがした。
クライマックスは上手く盛り上げられていると思った。「バック・トゥ・ザ・フュチャー」のパロディ(?)と思しきシーンが出てくるが、このあたりはご愛嬌と言ったところか‥。また、ブキャナンはコンピューターが搭載されたスーパーカーと一緒に過去にタイムスリップするのだが、これはTVドラマ「ナイトライダー」を彷彿とさせる。こうした数々のオマージュも遊び心に溢れていて楽しめた。
魂揺さぶる音楽ドキュメンタリー。
「ウォー・ダンス/響け僕らの鼓動」(2007米)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル音楽
(あらすじ) ウガンダ北部の難民キャンプで暮らす子供たちが、全国音楽大会に出場するまでを追ったドキュメンタリー映画。
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(レビュー) ウガンダと言えばアミン大統領の独裁政治で有名なアフリカの国である。最近ではF・ウィテカーがアミン大統領を演じた「ラスト・キング・オブ・スコットランド」(2006米)という作品が評判を呼んだ。古くは「食人大統領アミン」(1981ケニア英)というキワモノ作品もあった。これらの作品のせいで、どうしてもウガンダと言うと貧困、暴虐の国といったイメージがある。
実際、ここに登場するウガンダ北部の農村地帯では今でも政府軍とゲリラ軍の戦いが激化しているようである。この内乱から逃れた人々は隔離された難民キャンプで肩を寄せ合いながら貧しい暮らしを送っている。本作の主人公はそこに住む3人の子供たちである。彼らは夫々に深い悲しみを背負っている。
その悲しみとは、両親を殺された過去、兄をゲリラ少年兵に奪われ過去等、実に凄惨なものだ。彼らの胸の内を察すると実にやるせない思いにさせられる。今この国で何が起こっているのか。それをカメラは赤裸々に捉えている。
一方で、映画はそんな彼らの‟夢”についても描いている。ウガンダでは年に1回、全国の学校が集まって音楽大会が開催されるのだが、3人の子供たちはそれに参加することになる。難民キャンプに赴任してきた二人の音楽教師の指導の下、優勝を目指して猛特訓を始める姿が描かれていく。
それにしても、劇中に登場する音楽は実に情熱的なものが多い。以前見た
「アマンドラ!希望の歌」(2002南アフリカ米)でも感じたことだが、この独特のリズム、エネルギッシュな舞踏は実に活気にあふれている。貧困や内戦といった悲しい現実を吹き飛ばすようなパワーに溢れていて圧倒されてしまう。
本作はドキュメンタリー映画であるが、劇映画のようなドラマチックな構成になっていて、子供たちが夢を追い求めていく姿は実に感動的に綴られている。クライマックスあたりになると少し出来すぎな感じも受けたが、一生懸命頑張る姿を見ていると素直に拍手を送りたくなった。ドキュメンタリーでもそこには必ず人間ドラマがあるものだ。人間賛歌かくあるべし‥である。
尚、本作は映像・編集がかなり凝っている。M・ムーアの作品に代表されるように、昨今こうした映像・編集に凝ったドキュメンタリーは多くなっている。こうしたテクニカルな表現はドキュメンタリー映画として見た場合賛否あろうが、少なくとも本作はテーマを歪めるような狙いで使われているわけではない。あくまで映像のテリングという所に留められている。
オリジナルの脱構築を我流でやり遂げたR・マーシャルの手腕は見事。
「NINE」(2009米)
ジャンル音楽・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1968年ローマ。世界的映画監督コンティーヌは脚本を書けず悩んでいた。新作発表の席上から逃げ出した彼は、そのままリゾート地の高級ホテルに引きこもってしまう。そして、愛人カルラを呼び寄せて慰めてもらった。そこに映画会社のプロデューサーや妻ルイザが乗り込んできて‥。
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(レビュー) F・フェリーニ監督の傑作「81/2」(1963伊)を元にした大ヒット・ブロードウェイ・ミュージカルを、「シカゴ」(2002米)のロブ・マーシャル監督が映画化した作品。
タイトルが「9」となっているところに注目したい。今作はフェリーニの「81/2」の物語を基本的には踏襲しているが、虚実入り混じったオリジナル版に比べると随分と内容が分かりやすく書き換えられている。スランプに陥った映画監督と周囲の女たちとの愛憎を、華やかな歌とダンスシーンで紡いだストレートなバックステージ・ドラマになっている。リメイクと言うのとは少し違う。根本的にミュージカルありきな娯楽性の強い作りになっている。
本作の見どころはなんと言っても、名だたる女優陣が熱演を見せるミュージカル・シーンだろう。
カルラ役のP・クルスのセクシーなダンスに始まり、女性記者役のK・ハドソンのスタイリッシュなダンス、ルイザ役のM・コティヤールの熱唱等、色々と見どころが尽きない。特に、砂漠のセットを舞台にしたダイナミックな群舞には痺れた。「シカゴ」を撮ったロブ・マーシャルだけあって、ミュージカル部分はどれも満足いく出来栄えに仕上がっている。また、ドラマ・パートとミュージカル・パートは現実と幻想にはっきりと分かれていて違和感も感じなかった。
他にもJ・デンチ、N・キッドマン、S・ローレンといった名だたるベテラン女優陣が登場してくる。ミュージカル・シーンでの見せ場はそれほどないが、彼女たちがそこに存在するだけで画面は華やかになる。ちなみに、N・キッドマンがコンティーヌの帽子をさりげなく被りながら歩く夜のパリのシーンは洒落ていて良かった。
一方、男優陣で唯一気を吐くのがコンティーヌ役のD・デイ=ルイスである。オリジナル版のM・マストロヤンニを相当意識しているのだろう。肩をすくめながらコソコソと歩く姿に、何もそこまでコピーしなくても‥と思うのだが、男の情けなさはよく表れていた。
レゲエのリズムに乗って疾走する音楽青春映画。
「ロッカーズ」(1978ジャマイカ)
ジャンル音楽・ジャンル青春映画
(あらすじ) ジャマイカで一番のドラマー、ホースマウスは、借金して買ったバイクでレコードを売る商売を始める。ところが、仕事に熱が入りいよいよこれからという時に、何者かにバイクを盗まれてしまう。ホースマウスは仲間をかき集めて犯人探しを始めるが‥。
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(レビュー) ミュージシャン崩れの男が、買ったばかりのバイクを取り戻すために周囲の仲間たちと大騒動を繰り広げる青春ドラマ。多数のレゲエ・アーティストが登場してくるということで音楽ファンからは一部でカルト視されている作品である。
本作の魅力はは何といっても独特の風土が感じられる映像と音楽、この二つになろう。
メイン・キャストの多くはジャマイカのレゲエ・ミュージシャンで、はっきり言って演技は素人レベルである。また、撮影もプロの仕事とはとても思えないような粗さで、お世辞にも上手いとは言えない。
ただ、逆にキャストの陽気な演技には変な魅力も感じた。作品に生き生きとした息吹を吹き込んでいる。また、カメラの技術的な拙さは、飾り気のない現地の風景にはほどよくマッチしていて良くも悪くもナチュラル志向である。そこが魅力的だ‥と言う事も出来る。
物語は、アクションあり、笑いあり、ロマンスあり、娯楽色を前面に出しながら展開されていく。小難しいことを一切考えないで楽しめるように作られており、ジャマイカならではの楽天的な風土が感じられた。
尚、最も印象に残ったのは山奥の洗礼式のシーンだった。おそらくこの土地に代々伝わる儀式なのだろう。基本的にはキリスト教の洗礼と同じように全身を水に浸して行われるのだが、バックでジャマイカの音楽が奏でられるのが面白い。
底辺社会に生きる人々の飽くなき生への渇望が、原発問題を絡めながら活写されている。
「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言」(1985日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 各地を転々とするストリッパー・バーバラが、久しぶりに故郷に帰ってきた。そろそろ今の仕事を辞めて恋人ススムと普通の家庭を持ちたいと望んでいた。ところが、当のススムは根っからの自由人気質で、バーバラの意を介さず方々を遊び歩く。そんなある日、バーバラは中学校教師・野呂と出会う。彼は生徒の虐めで教職を辞め、再び旅に出ることにしたバーバラの鞄持ちをすることになった。その後、二人はバーバラのストリッパー仲間・アイコの故郷を訪ねる。再会したアイコは何故か悲しみに暮れていた。それというのも、原発作業員だった恋人・安次が、廃液漏れの事故で亡くなったからである。アイコを慰めるバーバラ。そこにバーバラを追いかけてススムがやって来る。
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(レビュー) 社会の片隅に生きる人々の群像ドラマ。
旅回りのストリッパー・バーバラ、地方の原発を転々とする原発ジプシー・ススム等、今作には様々なワケあり人間たちが登場してくる。彼らは安住の地を求めてさ迷い歩く流浪の人々である。場末のバーや危険な原発に身を落としながら、人並みの幸せを掴もうともがき苦しむ姿は、やがて社会に対する反発、怒りへと繋がり、人生賛歌的なメッセージへと昇華されていく。全てはラストのバーバラの気丈な姿に集約されている。決してハッピーエンドとは言いがたいが、その姿には感銘を受けた。
今作には他にもユニークなサブキャラが登場してくる。落ちこぼれのヤンキー、気弱で情けない元学校教師、売春で出稼ぎにやってきたフィリピン人女性。彼らもバーバラやススムと同じように、地面に這いつくばりながら生きている旅人たちである。その姿からは飽くなき生への渇望に見えてくる。まるで生きることそれ自体に意味があるのだ‥ということを我々に訴えかけているかのようだ。
このように本作は様々な人物が織りなす群像劇になっているが、作品のテイストも一定の型にはまらず奔放に切り替わっていく。例えば、冒頭は学園を舞台にした青春映画のようなテイストで幕開けする。その後、ススムが登場することでヤクザ映画のようになり、アイコと安次が登場することで悲恋ドラマのようになっていく。後半に入ると原発問題がフィーチャーされ、社会派サスペンスのようなテイストに変わっていく。普通ここまで様々なキャラと作品のテイストが入り混ざると、全体の印象が散漫になってしまうものだが、各エピソードが〝人間の生きる意味″というテーマにしっかり吸着されているので余りそういった印象は受けない。どのエピソードも一つの方向性でまとまっているので、最後まで飽きなく見れた。
ただし、一部で作りの雑さが見られるは惜しまれた。例えば、野呂が原発で働くようになった経緯、ススムがバーバラを追いかけて来た経緯は完全に省略されており、どうしても唐突に映ってしまう。他にも突然展開を端折るような所があり、決して見やすい作品とは言い難い。
演出は概ね安定していると言えるが、所々に少し意表を突いたような演出が見られる。例えば、墓前の結婚式は珍奇さを狙いすぎて余り馴染めなかった。全体のトーンを考えた場合こうした小手先のテクニックはいささか邪魔に映る。
一方、透明感溢れる狐の嫁入りのシーンは素晴らしかった。バーバラたちの過酷な現実を少しだけ忘れさせ、温かみと平穏に満ちた奇跡の瞬間のように感じられた。
キャストでは、ススムを演じた原田芳雄がいい味を出していた。安っぽいチンピラ演技がダメ男の生き様を熱っぽく見せている。バーバラを演じた倍賞美津子の体当たりの演技も見応えがあった。身体を切り売りすることでしか"生”を獲得できない人生を時にあっけらかんと、時にやさぐれた佇まいで見せている。