全身赤いコスチュームに身を包んだ男“デッドプール”は、自分を破滅の道へ追い込んだフランシスを追いかけ、あと一歩のところで逃げられてしまう。-----デッドプールことウェイドは悪人をこらしめて賞金を稼ぐ元傭兵だった。ある日、娼婦のヴァネッサと出会い恋に落ちる。しかし、幸せも束の間、彼は末期ガンで余命わずかと診断されてしまう。そこに癌を治療できると、ある男がやって来る。ウェイドは藁にもすがる思いでその話に乗るのだが‥。
(レビュー) MARVEL原作のアメコミヒーロー映画。下品なジョークやゴアなバイオレンス描写がふんだんに登場してくる一風変わったアメコミ映画である。R15指定作品。
どうやら「X-MEN」シリーズの一派らしく、以前製作された「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(2009米)にも登場していたらしい。残念ながら自分は未見であるが、とりあえず見ていなくても単品として楽しめた。
まず、何と言ってもデッドプールのユニークなキャラクターが印象に残る。これまでのアメコミヒーローというと、人類の平和のために仲間と共に巨悪に立ち向かう‥といったパターンが多かった。しかし、このデッドプールは自分を陥れた敵を倒すためだけに戦う利己的なヒーローである。更に、彼は恋人の心を取り戻そうとする下心満々な助平野郎である。ヒーローなのに助平‥。このギャップが笑わせてくれる。
尚、劇中にはX-MENの仲間と思しき2人のミュータントが登場してくるが、彼らとも決して共闘しようとはしない。完全に一匹狼なヒーローである。
しかも、彼はジョークが好きで下ネタも連発する。というか、年がら年中冗談を言っている。
もはや、ここまで来ると、正確にはヒーローと言えるかどうかも怪しい。しかし、このデッドプールというキャラは今まで見たアメリカン・ヒーローにはない新鮮さがあり、お下劣な俗っぽさも含めて自分には大変面白く観れた。
そして、そんな”超”が付くほど能天気なデッドプールだが、ドラマの方は意外にもシリアスである。本作はこのギャップも面白い。
デッドプールことウェイドは、末期癌を治すためにフランシスの実験台となり、その結果醜い身体になることと引き換えに超人的なパワーを身につける。離れ離れになった恋人ヴァネッサと寄りを戻すために、彼はフランシスを見つけ出して元の身体に戻してもらおうとする。しかし、その結果、ヴァネッサの身にも危険が迫るようになり‥。これだけ書くと大変シリアスなドラマである。
しかし、その暗さをデッドプールのキャラクターが全て払拭してしまっているのが本作の特異な所であり、これまでの暗く鬱屈したアメコミ映画とは一線を画すところでもある。ある意味では、これまでのダークなヒーロー映画に対するカウンターとしてこの映画が生まれた‥と言っても過言ではない。
また、ドラマ自体はこのように非常にシンプルであるが、シナリオは観客が飽きないように上手く工夫が凝らされていると思った。この手のビギニング編はどうしても序盤が退屈になってしまうが、そこを構成の妙で凌いでいる。時制を前後させることによってデッドプール誕生の経緯をアクションシーンの合間に上手く挿入している。
加えて、メタネタやショウビズ界のネタの小ネタがあちこち散りばめられておりコメディとしても十分楽しめた。いきなり
「127時間」(2010米英)のオチをバラすのには笑ってしまったが、一応「X-MEN」シリーズの仲間ということもあり「X-MEN」ネタはかなり多かった。
逆に、今回のシナリオで足りないと思う所も幾つかあった。まず、デッドプールの仲間になるコロッサスとネガソニックの説明が一切なかったのは残念である。これでは初見の人には彼らが一体何者なのかよく分からないだろう。また、途中から登場する盲目の老婆が大変良いキャラをしてたので、その後どうなったのか。エンドロールの後でもいいから補足して欲しかった。
アクションシーンでは冒頭のハイウェイのアクションが大きな見所である。バカバカしいオープニングも相まって、かなりハイテンションに演出されているので一気に画面に引き込まれた。ただ、この映画は、いわゆるハリウッドのアメコミ大作映画と比べると、それほど予算がかかっているわけではなく、派手なアクション・シーンはそれほど多くない。目立った所では、冒頭のアクションとクライマックスの戦いくらいである。それ以外はドラマで見せる場面が多い。
また、本作は時々デッドプールが”第4の壁”を越えて観客に語り掛けてくる場面がある。この”第4の壁”とは映画(フィクション)の世界と現実の世界を分け隔てる境界を指す言葉である。そして、本作では”第4の壁”にとどまらず、回想の中でもデッドプールは観客に語りかけている。つまり、4×4で”第16の壁”となるわけである。こんな映画そうそうないだろう。仮に続編があれば、更に壁を突き破って欲しいと思う(笑)
尚、実際に”第4の壁”越にデッドプールは再三、この映画の予算の少なさを愚痴っているが、これも実にメタ的なギャグである。
しかし、予算の少なさに反して、本作は北米で予想外の大ヒットを記録した。仮に続編が作られるとすれば今度は大幅な予算UPは間違いないだろう。これで再三愚痴ってたデッドプールも救われよう(笑)
しかし、大作になっても、このB級感は忘れないでほしい。アベンジャーズやキャプテン・アメリカのようなゴージャス感は本作には似合わない。気楽に笑えるB級コメディ感。それがこのデッドプールには、しっくりくるように思う。
第一、予算が増えたらどうなるか?当然今回のようなきわどいギャグは使えなくなるであろう。本作の生命線はそこにあるのだから、それを潰すような真似はしない方が良い。
ともかくも、これまで観てきたアメコミヒーロー映画とは一線を画した斬新なキャラクターとストーリー構成。アブないネタや描写が満載の本作。自分にとっては久々に能天気に楽しめる快作だった。