大不況に突入した日本では失業者が全国に溢れ少年犯罪が多発していた。政府は大人の復権を目的とした新世紀教育改革法、通称BR法を公布する。それは全国の中学3年生の中から無作為に選ばれた1クラスを、最後の1人になるまで殺し合わせるというものだった。今回それに選ばれたのは岩城学園中学3年B組の生徒達である。元担任・キタノの指導の下、彼らはわずかな食料と武器を手に決死のサバイバルを開始する。
(レビュー) 過激なバイオレンス描写で物議を醸した同名原作の映画化。
公開当時、その内容からかなりセンセーショナルな話題を呼び、社会現象のような騒ぎになったと記憶している。確か国会でこの映画についての質疑応答があったという報道もされた。
ただ、個人的には余りにもナンセンスなドラマなのでブラック・コメディのように見れてしまい、これのどこが問題作なのかさっぱり理解できなかった。むしろ、エンタテインメントにかなり振り切った作りになっていて、これを真正面から受け取って、子供たちの暴力描写を「けしからん!」と怒る神経の方がどうかしているとしか思えない。あくまで映画なのだから、そのあたりは割り切って観るべきであろう。
また、ストーリーそのものは荒唐無稽でも、その背景に存在する不況に喘ぐ社会、教育の限界、政治の迷走等には鋭い風刺が感じられる。
例えば、ここでは担任キタノと彼の娘の冷え切った関係が電話のやり取りの中から見えてくる。これなどは明らかに昨今の父権の失墜といった問題を投影していると言える。
キタノの家庭環境は具体的に描かれていないので想像するほかないが、あの仏頂面、ぶっきらぼうな喋り方、常に人を見下す態度を鑑みるに、おそらく家庭の中でも孤立しているのだろう。そして、妻からも娘からもバカにされているに違いない。もしかしたら、すでに離婚していてシングル・ファーザーなのかもしれない。
<大人>対<子供>という図式がこのストーリーの背景には存在するが、それを最も端的に象徴しているのが、このキタノ親子のように思った。
本作のテーマは、このキタノ親子の関係に集約されているとも言える。何故なら、家族は社会を成す最も小さなコミュニティだからである。その家族がキタノ親子のように血の通わない関係になってしまったら、社会全体はどうなるだろう?おそらく殺伐としたものになってしまうに違いない。
本作は、この社会崩壊の危機を、やや劇画的な世界観の中ではあるが、大変意欲的に描き出した”ディストピア”映画だと思う。実に痛烈な風刺が効いた、ガツンとくるエンタテインメント作品である。
物語は岩城学園の男子生徒・七原の視点で展開されるアクション性の高いドラマとなっている。
彼は同じ孤児院で育った国信を目の前で殺されて、この殺し合いは冗談でも何でもなく本気の”ゲーム”なのだということを自覚する。そして、国信が恋焦がれた中川を守りながら決死のサバイバルを開始していく。
その中で、生徒達は夫々にクラスメイト達と一戦交えていくのだが、正直ストーリーだけを取ってみた場合、延々と殺し合いが続くだけなので単調極まりない。しかし、シンプルなストーリーでも、見せ方次第では面白く観れるもので、本作はそこの部分がよく出来ている。
過度なブラック・ギャグもあるので、画面に突っ込みを入れながら観る分には、十分楽しめる映画になっている。
また、生徒たちを演じたキャストも大変魅力的である。今から考えると、かなり豪華な若手俳優が登場してくるので見所が尽きない。
中でも、七原役を演じた藤原竜也の熱演が印象に残った。少々くどい芝居だが、本作を観る限り元々高いポテンシャルを持った俳優であることがよく分かる。
他に、鋭いナイフのような演技を披露した柴崎コウ、同様な意味で安藤政信も印象に残った。
そして、七原たちにとって敵か味方か分からない山本太郎も、単調なドラマにカンフル剤的な刺激を投与しており、かなり美味しい役所となっている。
更には、かのQ・タランティーノが本作を見て「キル・ビルvol.1」(2003米)への起用を考えたという栗山千明も独特の存在感が光っていた。
生徒たちの中には、戦いを拒む者、自殺する者、キタノに戦いを挑む者たちがいて、このあたりの人物造形も夫々に手際よく整理されていて感心させられた。
逆に、チープな演出も幾つか見られ、全体的には作りの甘さを覚える作品でもあった。
例えば、BR法を解説するビデオ映像は、まるで子供だましのような陳腐さでゲンナリとさせられた。おそらく敢えて狙ってやっているのだろうが、どうせやるのであればもっと”真面目”に”バカバカしく”作って欲しい。
また、このサバイバルの最初の犠牲者の死に方も緊張感を失する演出で、いただけない。観てて思わず吹き出してしまった。ここはゲームの始まりなのであるから、ブッラク・ギャグのようにしてはいけないだろう。
細かい所で言えば、キタノが生徒たちを監視するモニターは、当時の時代性を考えても、見てくれがかなり悪い。もう少し気を使って欲しかった。
監督は深作欣二。共同製作・脚本はその子息・深作健太が務めている。
深作監督は、勢いで撮る監督なので、その資質は十分に堪能できる快作に仕上がっている。しかし、その一方できめの細かさに欠く部分もあり、そこが洗練されていれば本作はもっと素晴らしい作品になったと思う。
尚、、本作は問題作として大きくマスコミに取り上げられたこともあり大ヒットを記録し、後に同監督作の元で続編が製作された。しかし、その製作途中で深作欣二は体調を崩し帰らぬ人となった。代わりに健太がその意識を受け継いで監督を代行して作品を完成させた。
ところで、すでに気付いている人も多いと思うが、本作に登場する「3年B組」は、テレビドラマとして大ヒットを記録した「3年B組金八先生」が元ネタである。プロデューサーの深作健太は、本作のキタノ役に金八先生役を演じた武田鉄矢を推薦したが、監督の父・欣二の意向でビートたけしに決まったという。もし武田鉄矢が演じていたら、それこそパロディ色が強まってしまい、かなりテイストの違う作品になっていただろう。このキャスティングに関してはビートたけしで正解だったように思う。