C・イーストウッド(父親)譲りの端正な演出が好印象な人間ドラマ。
「レールズ&タイズ」(2007米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 鉄道技師のトムは列車を運行中に線路に侵入した母子が乗った自動車を引いてしまう。母親が精神を病んで無理心中をはかったのだ。11歳の息子デビットは間一髪で助かったが母親は亡くなった。トムは責任を取って会社から謹慎処分を受ける。彼の家には末期がんを患った妻メーガンがいた。この事件を機に彼女は自分のための余生を送りたいと言い、トムと別れようとする。一方、孤児になったデビッドは里子に出された。しかし、里親と上手くいかず、彼は家を飛び出して母を殺したトムを探す旅に出る。
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(レビュー) 事故の加害者と被害者の関係をシリアスに綴った感動のヒューマンドラマ。
監督はクリント・イーストウッドの娘で女優でもあるアリソン・イーストウッド。本作は彼女の初監督作品である。
重厚な人間ドラマに軸足を置いた作りは、決して派手ではないものの、しみじみとさせられた。じっくりと腰を据えた演出に父親譲りの資質が伺える。サスペンスで引っ張る序盤の掴みも良いし、抒情的に描かれるトム達とデビッドの交友も良かった。全編通してそつなく作られていて好感の持てる作品である。
また、作品の出来を支えたキャスト陣の好演も見逃せない。特に、末期がんに侵された妻メーガンを演じたM・ゲイ・ハーデンの疲弊しきった演技には胸打たれた。2度のがんの再発という絶望感。子供を持てないことの喪失感。夫トムとの擦れ違い。M・ゲイ・ハーデンはそれを終始シリアスに演じている。また、列車事故で孤児となったデビッドに接する時の母性溢れる演技も素晴らしかった。
正直、前半は隠滅とした展開が続くため、人によっては苦痛を強いられるかもしれない。ただ、後半からはデビッドとの疑似親子愛が築かれていくので温もりに満ちたテイストに移行していく。おそらくこのあたりは誰もが入り込みやすいドラマになっていると思う。福祉局の女性職員や、メーガンの同僚といったサブキャラの立ち回りもしっかりと機能しており、基本的に悪人が一切登場してこないところも親しみやすい。
尚、一番感動的だったのはオープンカフェでのダンスのシーンだった。おそらくトムたちにとって、この時が最も幸福な瞬間だったのではないだろうか。もしメーガンに息子がいればきっとこうしてダンスをしたかったに違いない。そんなことを想像すると、自然と涙腺が緩んでしまった。
演出で一つ苦言を呈するなら、終盤にかけての演出だろうか‥。少々出来すぎな感じを受けてしまった。特に捻りがないストレートなオチなので、ウェルメイドに味付けされてしまうと少々鼻についてしまう。抑制を効かせることで深みを持たせてほしかった。
また、キャラクターの造形に関しても一つ気になった点がある。それは後半のデビッドの優等生ぶりである。映画を見進めていくうちに彼の家庭環境は徐々に明らかにされていく。それは筆舌に尽くしがたいほど酷いものだった。しかし、そんな荒んだ環境で育ったデビッドが、果たしてこれほど知恵が働く"できた子"になるだろうか?これはリアリティに欠ける気がした。また、デビッドの模型好きという設定にしもてそうである。この部分のバックストーリーが十分にプレマイズされていないため、御都合主義に思えてしまった。