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満員電車

市川&夏十コンビの初期作品。癖のある風刺コメディ。
満員電車 [DVD]満員電車 [DVD]
(2007/01/26)
川口浩、笠智衆 他

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「満員電車」(1957日)星3
ジャンルコメディ
(あらすじ)
 一流大学を卒業してビール会社に就職した民雄は引越しの準備に大忙しだった。荷造りを終えると3人のガールフレンドに別れを告げて社員寮に入る。そして、いよいよ初出勤となる。ところが、初日から彼の頑張りは空回りする。同じ部署の先輩社員・更利からは「適当にやればいいんだよ‥」とアドバイスされ拍子抜けしてしまった。そんなある日、故郷の父から1通の手紙が届く。そこには母の気がふれたという内容が書かれていた。心配になった民雄は大学の後輩に相談するのだが‥。
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(レビュー)
 大学を卒業したばかりの新社会人が、出世意欲を尽く打ち砕かれていくシニカル・コメディ。

 映画が製作された時代は丁度、高度経済成長時代である。今作の主人公・民雄のように「すでに我々が希望を持って座れる席は空いてない!訳もなくはりきらなくては!」と意気込んで社会に飛び込んでいった若者達は結構多かったのだろう。しかし、彼の頑張りは出勤初日から出鼻をくじかれる。上司からは諌められ、先輩社員・更利からは「怠けず、休まず、働かず。それがサラリーマンの原則だよ。」などと言われる。

 おそらくこの"事なかれ主義″こそが、当時の多くのサラリーマンにとっての最も現実的な思考だったのかもしれない。今の時代はともかく、景気の良かった当時はとりあえず会社に行ってれば一定の給料は貰える。下手なことさえしなければ定年まで会社が面倒を見てくれる。そんな安定思考が蔓延していたのだろう。民雄が入社した会社の名前は「ラクダビール」という。これは案外「楽だビール」にひっかけたネーミングなのかもしれない。

 監督は名匠・市川崑、脚本は彼と和田夏十の共同執筆である。息の合った二人だからこそ出せる味わい、鋭い風刺が随所に見られて中々骨のある作品になっている。

 例えば、冒頭の土砂降りの雨の卒業式、患者でごった返す歯科医院、社員が列を作る出勤風景等には、C・チャップリンの「モダン・タイムス」(1936米)のような痛烈な風刺が感じられた。似たような服装、黒い傘を持った群衆が同じ表情で同じ行動をとるというナンセンスな笑い。そこに没個性化が進む高度経済成長社会の病理が垣間見える。
 痛烈なラストの幕引きにしてもそうだが、市川&夏十は徹底して現代社会の狂気を笑いに転嫁させながら、人間にとっての幸せとは?という普遍的命題を提示している。単なるコメディで終わらず、チクリと刺さるメッセージをしたたかに織り込んだところに彼らの気骨が伺える。

 その一方で、今作には各所に洒落た演出も見つかる。民雄とガールフレンドの別れを描くバス停のシーン。サバサバと挨拶を交わして夫々に反対方向のバスに乗リ込むのだが、その別れ際に軽くキスをする。これには当時のハリウッド映画を見ているかのようなモダンさが感じられた。市川&夏十の息の合ったコンビネーションが作り出す軽妙な会話、粋な所作が随所で楽しめる。

 また、満員電車のつり革広告にちらりと映る本作の劇場公開の告知や、精神病にかかった民雄の両親の顛末など、人を食ったギャグ、ブラックなギャグなども登場してくる。いずれも少し癖を持った笑いだが、こうした所にも市川監督のこだわりが感じられた。

 こうした様々なタイプの笑い、鋭い風刺が全編に散りばめられており、実に濃密に構成された作品となっている。最後まで飽きることなく見れた。

 ただ、余りにも内容を詰め込み過ぎた感はしなくもない。様々なエピソード、多彩なキャラクターが登場するが、もう少し簡素にまとめることで見やすくする方法はあったように思う。民雄の父親、恋人達、先輩社員、いずれのエピソードも食い足りない。枝葉を整理しつつメインのドラマに集中すれば、もっと作品としてのパンチは出たかもしれない。
[ 2012/09/28 01:47 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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