fc2ブログ










億万長者

市川崑の鋭い批判精神がさく裂したシニカル・コメディ。
億万長者 [DVD]億万長者 [DVD]
(2005/09/22)
木村功、西村晃 他

商品詳細を見る

「億万長者」(1954日)star4.gif
ジャンルコメディ・ジャンル社会派
(あらすじ)
 税務署員の舘は気弱で実直な青年。滞納している納税者の督促をしているが、成績がままならず上司にはっぱを賭けられていた。しかし、彼が担当する相手は夫を飛行機事故で亡くして葬儀の真最中だったり、事業が失敗してオンボロ小屋で幼い子供たちを抱えて腹を空かせていたり、とても督促できる状態には無かった。結局、何も言えずに戻って来た。そんなある日、彼は花熊という芸者と出会う。彼女は政治家と親交があり、ほとほと行政の腐敗に腹を立てていた。税務署員の賄賂を告発すべきだと言う彼女の言葉に舘は奮い立つのだが‥。
goo映画
映画生活

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ


(レビュー)
 真面目で小心者の税務署員が社会の腐敗に立ち上がる姿を軽妙に描いた市川崑監督・脚本のコメディ作品。

 この映画には、主人公・舘が担当する納税者として様々な庶民たちが登場してくる。いずれも18人、19人、23人といった大家族ばかりだ。しかも、会社が倒産したり、不幸な事故にあったり、様々な理由で困窮している。いくら戦後ベビーブームの真っ只中とはいえ、まさか当時これほどの大家族があっちにもこっちにもあったとは到底思えない。このことからも分かる通り、この映画は何から何まで大仰に作られている。

 舘は税金を滞納している彼らの元を訪ねるが、元来気弱な彼に強く言えるはずもなく毎回スゴスゴ帰ってきてしまう。そして、ある家族から脱税を見過ごす代わりに賄賂の話を持ちかけられる。周囲の署員たちは何の悪びれもせず賄賂を受け取っている中、正義感の強い舘は葛藤する。そして、彼は最後にある一つの決断を下す。

 いわゆる当時の賄賂問題に鋭くメスを入れた風刺劇なのだが、作りが基本的にライトに寄っているのでそれほど深刻に見るタイプの作品とはなっていない。サラリと描いて見せることでこの問題を笑いに転嫁し、肩を張らずに見れるエンタテインメント作品に仕上げられている。

 ただ、終盤で見る側にインパクトを与えるようなヘビーな事件が起こる。ここだけは笑うに笑えない残酷さがあり、唖然とさせられた。しかし、おそらくこの事件が無いとラストも締まらないものになっていたと思う。賛否あるかもしれないが、個人的には臆せず描いた市川崑監督を評価したい。敢えてこの事件を描写した所に、ただのコメディでは終わらせないぞ‥という彼の気概が感じられた。

 また、今作は市川流のスタイリッシュな映像演出、軽快な会話も随所に堪能できる。
 例えば、OPタイトルのデザインワークからして実に洒落たセンスをしている。その後も、交通渋滞でごった返す銀座の交差点の風景や、書類が山積みになった税務署の風景、国会議事堂の目と鼻の先で行われる自衛隊の演習、それをポカーンと眺める子供たちの姿、暗闇にそそり立つ「銭湯」のネオン灯等々。ちょっとシュールでユーモラスな画作りが各所に登場してくる。

 また、軽快な会話もいかにも市川崑流だ。きびきびとした芝居が映画に心地よいリズムを与えている。例えば、花熊と政治家の艶笑風なやり取りなどは白眉である。
 脚本は市川崑の他に作家の安部公房、漫画家の横山奏三、盟友・和田夏十などが参加している。終盤の舘の言動はほとんど狂人のようになっていくのだが、これも中々面白かった。過激な中にも洒脱な駆け引きがトッピングされているので、余りイヤな感じを受けない。

 キャストでは花熊を演じた山田五十鈴が印象に残った。彼女は18人の子供たちを養う逞しい母親役として登場してくる。女手一つで育てるしたたかな母性を力の抜いた演技で好演している。
[ 2012/09/30 18:48 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1010-6f61f092