映画の後の方が気になってしまった。
「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007米)
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1881年、ミズーリー州で悪名をとどろかせていた強盗団ジェームズ一家が、列車襲撃を最後に解散した。リーダー・ジェシーに憧れる一味の青年ボブは、解散後も彼に付いて行った。しかし、ジェシーは自分の首に賞金がかけられていたので、ボブが裏切って自分を殺すかもしれないと思い、彼を他の部下たちと一緒に親戚の家に追い払った。その後、元部下の一人エドがジェシーを売ろうとして逆に殺された。一方、元部下のディックとジェシーの親戚ウッドが、些細な諍いから撃ち合いになる。その場に居合わせたボブは気が動転してとっさにウッドを撃ち殺してしまう。
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(レビュー) 伝説的な大強盗ジェシー・ジェームズの暗殺の謎に迫った人間ドラマ。
アメリカでは馴染みのある人物らしいが、おそらく日本では余り知られてない人物だと思う。自分も彼のことを一切知らないでこの映画を見た。正直、今一つ引き付けられる題材ではなかったが、おそらくジェシーを知っている人には興味深く見れる映画なのだろう。
映画はジェシーと彼に憧れて一味に加わった純真な青年ボブの対立を軸に展開されていく。
ボブは小さいころからジェシーの伝記を読んで育ち、まるで彼のことを義賊のヒーローのように崇めている。ところが、現実の彼は自分が思い描いていた物とは全く違っていた。彼は単なる人殺しの悪党に過ぎなかったのである。やがて、ボブはジェシーの親戚であるウッドを撃ち殺してしまい、身の危険を感じ警察に彼を売り渡そうとする。
いわゆるこれも師弟の愛憎ドラマであるが、その顛末はスリリングで興味深く見ることが出来た。
ただし、この映画には主要二人以外に様々な周辺人物のエピソードが登場してくる。やたらと枝葉の多いドラマになっているのだ。
例えば、ディックとウッドの軋轢が前半から中盤にかけて描かれている。女を巡って撃ち合いをすることになるのだが、映画はここにかなりの時間を割いている。この事件が持つ意味は、ボブが誤ってウッドを打ち殺してしまいジェシーに恨まれる‥ということが分かればいいだけのことである。それなのにディックとウッドの軋轢が増していく様をクドクドと描いているのだ。その後のディック逮捕に至るエピソードもさほど意味があるように思えなかった。
本作は上映時間が160分と長めであるが、こうした枝葉を刈り込んでジェシー対ボブのドラマに絞って描けば、もっと簡潔で力のある作品にすることが出来たのではないだろうか。内容を詰め込み過ぎてしまった感がある。
また、本作は一つ一つのシーンが割とゆったりと作られている。それによって当然尺も伸びる。ただ、こちらについては俳優の表情や所作に重みと生々しさが増し見応えが感じられた。ジェシーとエドの対峙、殺されたウッドの居場所を問い詰める食卓のシーン、ジェシー暗殺のシーン。これらには肌を突き刺すような緊張感があり演出自体はとても丁寧である。
映像も美しくて見応えがあった。果てしなく続く大平原の美観が印象に残る。また、寒色、暖色を自在に操る色彩も素晴らしく、全体的に映像については申し分ない。
ただし、1点だけ気になることがあった。所々でフレームの周囲にぼかしを入れた映像演出が見られる。映画の構成がナレーションによって進行する回想ドラマになっているので、おそらくそれを意識した演出だろう。しかし、これはやや過剰な感じがした。
キャストではジェシーを演じたB・ピットの好演が光る。冷酷非情な面構えを前面に出しつつ、一方で孤独の淵でもがき苦しむ姿、家族を愛する父親としての顔、様々な表情を見せており、彼のキャリアの中でも一、二の演技ではないだろうか。元々ジェシーという人物は、劇中のナレーションでも語られているが、躁鬱傾向を持っていた人物だったそうである。それだけにB・ピットのパラノイチックな演技にも凄味が感じられた。
それにしても、映画を見て思ったのだが、実はジェシー暗殺に至るドラマよりも暗殺後のドラマの方が色々と面白いのではないだろうか?最後のテロップによればボブのその後の人生も実に数奇に満ちている。結局、彼はジェシーという死神に永遠に取りつかれてしまった悲劇の男だったのだろう。そこを1本の映画にしても面白そうな気がした。