英雄ダントンの戦いを骨太に描いた人間ドラマ。
「ダントン」(1982仏ポーランド)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) フランス革命直後のパリに、地方に渡っていた革命の英雄ダントンが戻ってきた。貧困に喘ぐ民衆の不満は今や爆発寸前で、皆が彼の行動に期待を寄せた。一方、ダントンのかつての盟友で公安委員会のロベスピエールは危機感を募らせる。早速、彼は反革命派の拠点の一つだった印刷工場を摘発した。これに対して国民公会は公安委員会に非難を浴びせ、事態は更に深刻化していく。そして、ついにロベスピエールはダントンと1対1の会談に臨んだ。しかし、今となっては全てが手遅れだった。会談は決裂しロベスピエールはダントンの逮捕命令を出す。
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(レビュー) フランス革命後のパリを舞台に、かつての盟友が激しい対立を繰り広げていく歴史劇。
ダントンとロベスピエールの反目を冷徹なタッチで綴ったA・ワイダの演出もさることながら、夫々を演じたJ・ドパルデュー、W・プショニャックの熱演も素晴らしい。ドパルデューが裁判で猛々しい弁舌を披露すれば、プショニャックはクールな佇まいでそれに応戦する。更に、後半のプシャニックの卑小な演技には哀れさも漂い、今作は正に二人の名優による演技合戦が大きな見所となっている。
物語は、序盤から息苦しいほどのカオス感に包まれて始まる。革命とは一体何だったのか?ただの幻想に過ぎなかったのではないか?という怒りの空気がパリ中に充満しており、すでにこの雰囲気からしてクライマックスという感じがして一気に作品世界に引き込まれた。ただ、唐突に始まるので、ある程度ここに至る歴史的経緯を押さえておかないと入り込むのが難しいかもしれない。
以降は、革命を成し遂げたかつての盟友ダントンとロべスピエースの対立ドラマに入っていく。物語の芯はしっかりしているし、彼らの対立に絡む様々な群像劇も夫々にドラマチックで面白く見ることが出来た。
この映画で上手いと思う所は、単にダントンを主人公にした英雄談的な作りにしなかったことである。映画は彼と対立する悪役ロベスピエールの心中にも深く迫りながら、二人の戦いをじっくりと見せている。彼らは最後まで自分の主張、つまり共和制、独裁制を貫きながら対立しあっていく。そこに彼らの意地とプライドが見えてくる。
普通なら見る側が感情移入しやすいように革命の英雄ダントンを主役に据えながらヒロイックなドラマに仕立てるだろうが、敢えてA・ワイダ監督はロベスピエールの心中に迫ることで作品としての深みと重厚さを引き出そうとしている。
そうやって見ると、自分はダントンよりもロベスピエールの方が人間臭くて魅力的な男のように思えてきてしまう。
彼は若くして政治家として成功した才人である。プライドも高くライバルに負けたくないという気持ちも人一倍強い。しかし、大衆は自分ではなくダントンを指示した。当然ロベスピエールの中では彼に対する深い嫉妬と憎しみが湧き起こってくる。
それがよく分かるのが映画の冒頭とラストシーンである。ここでロベスピエールはベッドにうずくまって恐怖に怯えている。外では多くの民衆が見守る中、ダントンが死刑台へと向かっていく。彼はダントンを死の縁へ追いやることで勝利したわけであるが、一方で「果たしてこれが本当の勝利と言えるのか?」という疑心、「民衆はまだダントンを指示したままではないか‥」という不安に捉われている。この恐怖に怯える姿は、取りも直さず彼がダントンを生涯のライバルとして認めていたことの表れに相違ない。彼は一人の政治家としてでなく、一人の男としてダントンに勝とうと固執し過ぎたのである。
それにしても、元は仲間同士だった者がこれほど憎しみ合うとは‥。政治の恐ろしさというものを実によく物語っている。いつの世も政治は結局、思想ではなく権力闘争なのだ。ロべスピエールのように一度権力の座に就いてしまえば国のことよりも保身が第一になる。そういう意味では、本作はリアリティのある政治ドラマにもなっている。
ちなみに、この冒頭とラストにはフランス人権宣言が登場してくる。ロベスピエールの息子によって朗読されるのだが、これは政治家ロベスピエールの転落を皮肉的に言い表していると思った。彼はフランス人権宣言をどんな思いで聞いたのだろうか‥?
ワイダの演出は深み、剛直さに溢れていて流石の貫録を見せている。不穏な空気をまき散らす音楽も作品の世界観を大いに盛り上げていると思った。
ただ、中盤の国民公会のシーンで、大衆が一気に分裂してしまうのはいささか安易という気がしなくもない。ロベスピエールの熱弁は大いに見応えがあり感動的であったが、果たして1回きりの熱弁でそれまで反対と言っていた人々がすぐに賛成と主張を変えるだろうか?当然、中には異を唱えて会場を後にするような者が出てきてもおかしくないはずである。しかし、ここではただ一人、ダントン派の幹部カミーユの妻だけが反抗して見せるのみである。