原田芳雄最後の主演作。
「大鹿村騒動記」(2011日)
ジャンルコメディ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 長野県下伊那郡の大鹿村。ここには300年以上に渡って続く村歌舞伎があった。鹿料理店を営む善はその歌舞伎の花形役者である。公演を5日後に控えて日々稽古に明け暮れていた。そこに18年ぶりに親友・治と善の妻・貴子が帰ってくる。18年前、二人は駆け落ちして村を出て行った。しかし、認知症を患った貴子とこれ以上一緒に暮らせないと、治が善に泣きついてきたのである。仕方なく善は貴子を引き取るのだが‥。
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(レビュー) 300年以上続く大鹿村の歌舞伎に携わる様々な人々の悲喜こもごもを軽妙に綴った人間ドラマ。
本作は、昨年惜しまれてこの世を去った原田芳雄の最後の主演作である。彼は今回の企画を阪本順治監督の元に持ち込み、病魔と闘いながら完成させた。死ぬ前にどうしても大鹿村に長年続く村歌舞伎を自分で演じてみたい‥という原田のたっての願いが今作を作り上げたわけである。そういう意味では、一にも二にも"原田芳雄の原田芳雄による原田芳雄のための作品”と言っていいだろう。
ただ、正直、原田芳雄の演技自体は大分弱く映った。年のせいと言うよりもやはり病気のせいだと思う。あの独特の声量も弱く感じられ、聞いていて苦しそうだった。
しかし、限られた状況でも最大の演技を引き出すのが一流の役者の仕事である。後年の原田芳雄らしさ。つまり、温もりと優しさに満ちた演技が垣間見れた所は流石であった。最後の力を振り絞って演じていたんだなぁ‥ということが分かり哀切極まる。
原田の周囲を固める脇役陣も素晴らしい。大楠道代、岸部一徳、三國連太郎、石橋蓮司等、渋い役者陣が揃っている。原田と大楠と言えば「ツィゴイネルワイゼン」(1980日)が思い出されるし、原田と石橋蓮司と言えば
「竜馬暗殺」(1974日)が思い出される。縁のある俳優たちが集まって原田の遺作を盛り上げているかのようだ。
そして、そんな中、一際印象に残ったのは治役の岸部一徳であった。
治は善の妻・貴子と駆け落ちした幼馴染である。貴子が認知症にかかり自分の手に負えなくなったために18年ぶりに村に戻ってくる。当然、治としては善に対して申し訳ないという気持ちがある。情けない顔をして赦しを請う姿が何とも惨めったらしい。卑屈の塊と化した岸部一徳の妙演が光る。
もっとも、この駆け落ち問題は、治に全ての非があるわけではない。第一、男前でもなければ財産を持っているわけでもない治に貴子が心底惚れて付いて行ったわけではあるまい。おそらく貴子は善との夫婦生活に不満を感じて、その当てつけとして親友である治と駆け落ちしたのだと思う。そう考えると、治だけが悪いのではなく、貴子も、そして貴子を駆け落ちまで追い詰めてしまったも善にも責任の一端はあるように思った。善は何だかんだ言って治を許してしまうが、そこにはこうした事情があったからなのだと思う。
映画は群像劇的でなスタイルで進行するが、その他にも多数の魅力的なサブキャラが登場してくる。
善の店に突然やって来た性同一性障害の雷音、失恋を引きずる役場勤めの美江、美江にほのかな恋心を抱くバス運転手にして歌舞伎の女形・一平、そして33年前の贖罪を抱えながら木彫り職人として余生を送る老人。こうした様々なバックボーンを持った人物たちがドラマは賑々しく展開している。
阪本順治の演出は基本的にコメディタッチでまとめられている。ただ、ドラマの中心となる善と貴子の夫婦関係には"老い”というシリアスな問題が付帯し、中盤の台風のシーンなどにはかなり熱度の高い演出が見られた。90分強という短さなので色々と詰め込んだ割にはアッサリとした印象を持ってしまうが、クライマックスの歌舞伎のシーン共々、こうした幾つかのシーンに阪本監督らしい迫力が感じられた。
ただ、そうは言っても、やはり全体的にはコンパクトに収まった小品という体は抜け出せていない。これは穿った見方になってしまうが、撮影時の原田芳雄の体力が相当に弱っていたのではないだろうか。長期の撮影は無理と踏んで、阪本監督は敢えてコンパクトな映画にしようとしたのだとしたら、これはこれで仕方がないことかもしれない。