ちょっと変わったロリータ版サロメ。ケン・ラッセルの美的感性が溢れている。
「サロメ」(1987米)
ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) 19世紀末、ロンドンの娼館でオスカー・ワイルドは自作の「サロメ」の上演に立ち会う。-----ヘロディアの娘サロメは井戸に監禁された預言者ヨハネの肉体に魅せられ誘惑する。しかし、彼はサロメを忌まわしい近親相姦の娘となじるばかりであった。それを見ていた義父ヘロデ王はサロメに惹かれていく。
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(レビュー) オスカー・ワイルドの戯曲をモチーフにした鬼才ケン・ラッセルによる怪作。
物語は、劇中劇という形で上演される「サロメ」と、それを見物するオスカー・ワイルドのドラマが並行して語られる。
劇中劇「サロメ」にはケン・ラッセル独自のアレンジが加えられており、そこが一つの見所となろう。
まず一番の違いはサロメを幼い少女に設定したことである。元々のサロメは周囲の男たちを誘惑する妖艶な女という設定であるが、それをロリータ風に造形したことで作品自体が持つ背徳性が更に強調されることになった。以前、C・サウラ監督、A・ゴメス主演の半ドキュメンタリー「サロメ」(2002スペイン)を見たが、本来ステージで上演される「サロメ」とはああいうものなのだろう。それと比較すると、今作の「サロメ」は〝妖艶″というより〝幼艶″だ。
サロメ役の女優は本作以後のキャリアが見つからない。その容姿から明らかに10代後半かそこらだろう。しかし、年齢の割に男達を手玉に取る演技は堂々としたもので、神の預言者ヨハネを誘惑しながらドSな性欲を開眼させていく様もアッパレである。後半、ヘロデ王の命令で舞を踊るのだが、そこでの激しいパフォーマンスも実にケレンに満ちていた。最後のフルヌードも大した度胸である。もしキャリアを積み重ねていれば‥と思うと残念でならない。
そして、翻って考えれば、このサロメの幼さには逆に怖さも感じてしまった。無垢なる残酷性とでも言おうか‥。思慮のある大人ならば何かしらの自省が働くものだが、純粋な少女にはそれがない。だからこそ、人間の本来の悪心もまざまざと見せつけられる。
映像面でも大いに見応えがあった。当時の「サロメ」も相当猥雑な内容で上映禁止になるくらいの代物だったそうだが、それを毒々しいトーンで敷き詰めた所に圧倒される。
過剰なメイクにボンデージ・ファッション、フリーキーなキャラクター、だらしのない脂肪の塊と化した裸体等。全てにケン・ラッセル独特のキッチュな美学が感じられる。
一方、現実のドラマ、オスカー・ワイルド自身のドラマはというと、こちらはラストのオチに向かって一直線に繰り広げられるシンプルなブラック・コメディとなっている。彼の男色癖が随所に登場し、その倒錯した欲望が劇中劇の「サロメ」とシンクロするあたりに上手さを感じた。とはいえ、こちらはそれほど重きを置いて描かれているわけではないので、彼の人となりを詳しく知りたいという人には物足りなく感じられるかもしれない。
尚、ラストのオチは中々イカしていると思った。最後のセリフの"トホホ感″がたまらない。