若者たちの空疎な愛を綴った青春ロマンス。
「蛇にピアス」(2008日)
ジャンルロマンス・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 渋谷の街に生きる少女ルイは、顔中にピアスをした青年アマと出会う。彼の舌は先端が二つに割けて蛇のようになっていた。ピアスの穴を徐々に大きくしてそうなったのだと言う。その話に惹かれたルイは、早速アマの行きつけの店で自分も舌にピアスを開けてもらった。店長のシバは腕の立つ彫師でもあり、体中に刺青が彫られていた。それを見たルイは次は自分も背中に刺青を入れて欲しいと言う。その後、ルイはアマと同棲を始めた。ある晩、夜の街で二人は傷害事件を起こしてしまう。
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(レビュー) センセーショナルな内容で話題を呼んだ同名小説を演出家・蜷川幸雄が映像化した作品。身体改造にのめり込んでいく少女のアンビバレントな心情を過激な性描写で綴ったダークな青春映画である。
移ろいやすい現代社会に生きる若者たちのリアルな姿はよく描けていると思うが、そこに興味を示すことが出来るかどうかは人それぞれだろう。そもそも、ルイを含めた主要3人のキャラクターのバックストーリーが皆無なため、彼らが一体何者なのかが見えにくい。したがって「何者でもない」彼らに感情移入することは難しい。今作は一歩引いた目線で見るタイプの青春映画だと思う。
さて、青春とは"陽″と"陰″の相克にあると思う。誰もが共感を覚えられるような前向きなメッセージと爽やかなテイストを貫くのが"陽″の青春。若さゆえの純粋さ、未熟さに焦点を当てて世界をネガティブに捉えるのが"陰″の青春。どちらであってもそれは青春映画だと言える。例えば、後者の例で言えば、以前紹介したL・マル監督の
「ルシアンの青春」(1973仏伊西独)という作品があった。あれなどは正に青春の"陰″を描いた佳作だと思う。
今作も青春の"陰″はよく描けていると思った。親からもらった大切な身体に穴をあけるなどもってのほか‥という、一歩引いた目線で見れば、青春の"陰″がそれなりに味わえる。「ルイ」=「ルイ・ヴィトン」という言葉遊びや死を軽んじる物言い、刺青もピアスもファッション感覚で入れる思考。どれもが今時の若者のラフな考え方で面白い。
ただ、問題はこれだけ刹那的な生き方を目指し、世間に毒づいてきたルイが、後半で何故情に溺れてしまったのか?そこが映画を見ていて理解できなかった。
後半、彼女は失踪したアマを心配し、半ば心身薄弱な状態に陥ってしまう。フリー・ラブな彼女のこと。アマのことも身体だけの付き合いと割り切ってさっさと別の男に乗り換えればいいものを、未練がましく一途に思い続けるのだ。何となく好きだから、何となく格好良いからという軽いノリで寝た男である。そして、彼女はアマとシバを天秤にかけていた。前半の彼女のキャラクターからすれば、後半のこの狼狽ぶりはヘンに感傷的でつまらない。
もし、この狼狽に説得力を与えようとするのなら、あらかじめルイとアマの絆に深く突っ込んで描く必要があっただろう。前半で起こる傷害事件が二人の絆を強める一つの"きっかけ″になっているが、これだけではその絆を確固たるものにするにはまだ甘い。その後の同棲生活の中で、二人が離れられない宿命にある‥ということを様々な形で述べていかなければ、ルイのアマに対する愛に説得力は生まれてこない。
ルイを演じた吉高由里子の演技にも説得力が伴っていない。セリフのチョイスがクールな分、余計に"実″を伴わないセリフに聞こえてしまった。オールヌードで派手な濡れ場を演じた意気込みは買うが、それ以外はどこかで可愛い演技に固執してしまっているように見える。
例えば、アル中に溺れたのなら日本酒をラッパ飲みする時には口から溢れさせるほど豪快に飲まなくてはいけない。それを支持できなかった蜷川演出にも詰めの甘さを感じてしまう。