特異なキャラが魅せる戦慄のサスペンス・スリラー。フィンチャー版との相違が面白い。
「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」(2009スウェーデン独デンマーク)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 社会派雑誌「ミレニアム」の記者ミカエルは、大物実業家の不正を告発した記事で名誉毀損の有罪判決を受けてしまう。そんな彼のもとに、大財閥ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリックから調査の依頼がきた。それは40年前に謎の失踪を遂げた養女ハリエットの捜査だった。多額の報酬と引き換えにそれを受け負ったミカエルだったが、調査に行き詰まる。その頃、ヘンリックの依頼でミカエルの身辺調査をしていた天才女性ハッカー、リスベットは、ミカエルのパソコンにハッキングしてこの事件に興味を持った。彼女はそのデータから事件の解決につながるヒントを見つける。
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(レビュー) 名声を失った雑誌記者と天才女性ハッカーが40年前のおぞましい事件を解き明かしていくサスペンス作品。同名の原作は本国スウェーデンではベストセラーとなり一大センセーションを巻き起こしたそうである。その後、2冊の続編が発表され、そちらも映画化された。今回は原作の第1巻の映画化である。
尚、2011年にD・フィンチャーがリメイクした
「ドラゴン・タトゥーの女」(2011米)の方を先に見ていたので、今回はおおよそのストーリーを知った上での鑑賞である。
改めて2作品を比較してみると、フィンチャーは驚くほどオリジナル版に近い形でリメイクしていたことが分かる。個人的には「ドラゴン・タトゥーの女」はフィンチャーらしさが余り出てない作品だと思ったのだが、ここまでオリジナルに忠実に作っていればそう思うのも無理もない。一部を除いてシーンのカット割りまでほぼオリジナル版が踏襲されていた。
ただ、同じストーリーではあるものの、今作を見て決して退屈するようなことはなかった。やはり見る側を強く引き込む軽快な展開の賜物だろう。また、まったく同じと言うわけではなく少し違う部分もあって、その差を比較しながら見ていくとまた別の楽しみ方が出来る。
まず、全体的なテイストが若干異なると思った。フィンチャー版はリスベットとミカエルの間で育まれるロマンスを含め、幾分メロウな仕上がりになっている。それに比べると、オリジナル版はどちらかというとアッサリ系で、サスペンスにこだわった作りになっている。
たとえば、ここが両作品の一番の大きな違いだと思うのが、映画の終わり方である。どちらも二人の別れで終わっているが、今作の方が幾分スマートな締めくくり方になっている。フィンチャー版のリスベットはミカエルに対する恋慕を引きずっていたが、今作のリスベットは完全にその思いを断ち切って新しい世界へと旅立っていく‥という形になっている。
また、ベッドシーンもフィンチャー版はかなり濃密に描かれていたが、今作は割とあっさりとしか描かれていない。事件を追いかけるパートナーであり、孤独を分かち合う者同士。リスベットとミカエルの間で育まれる恋愛感情をフィンチャー版は深く突っ込んで描いている。これは見た人それぞれの好みの問題という感じがする。個人的には今回くらい、さりげない方が映画の歯切れの良さに繋がって良いと思うが、ロマンスの盛り上がりを楽しみたいという人にはフィンチャー版の方がしっくりと来るだろう。
もう一つの大きな違いは、リスベットの描き方である。基本的には寡黙でストイックでミステリアスな女性であることは共通している。ただ、フィンチャー版の方がヒロイックさがより強調されている。
例えば、フィンチャー版にはクライマックス以降にリスベットの華麗な変身場面が用意されていたが、それが今作にはない。
他に、後見人にレイプされるシーンと復讐するシーンも若干印象が異なる。フィンチャー版の方がエモーショナルに演出されていた。辱めに屈しない男勝りな気性が強調されている。
このリスベットの造形の違いは興味深い。フィンチャー版の方はある意味でエンタメに特化したと言えばいいだろうか、"強さ″と"情熱″を秘めたヒロインだったのに対し、今作のリスベットにはそこまでのスーパーウーマンではなく本当にいるかもしれない‥というリアリティが感じられた。エンタメ重視なハリウッドとリアリズム重視な欧州の違いが、この造形の差に見て取れる。
それと、演者の違いのせいでミカエルも若干、印象が異なるキャラクターになっている。フィンチャー版はD・グレイブが演じていたが、外見がマッチョであるし007シリーズのイメージがどうしてもついて回るので、危機に陥っても見ていて余り切迫感が感じられなかった。それに比べると本作の俳優は、こう言っては申し訳ないのだが見た目が地味で、リスベット同様やはりキャラクターとしてのリアリティが感じられた。
また、これは演出上の違いなのだが、クライマックス直前の犯人との対峙シーンも異なる。フィンチャー版では随分とじっくり描いていたが、今作はほぼ省力されてしまっている。あそこは一番フィンチャーらしさが感じられた場面だったが、やはり相当こだわって作られたシーンだったことが改めて分かる。
ざっと違いを比較してみたが、こうしてみるとストーリー自体は両方とも同じ流れで構成されているが、所々の演出、キャラクター造形に若干違いが認められる。一言で評してしまえば、フィンチャー版は抒情的でオリジナル版はクール‥という事になろうか。このあたりは好みの問題と言う気がするが、いずれにせよ両作品とも甲乙つけがたい中々の好編になっていると思う。
尚、これはフィンチャー版を見た時にも思ったことなのだが、今回も連続殺人事件と聖書の因果関係がよく分からなかった。もしかしたら原作には詳しく描かれてるのかもしれないが、今回改めて見てもやはり疑問が残ってしまった。