人情味溢れる医師の佇まいが◎
「本日休診」(1952日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 戦後の焼け野原にひっそりと佇む個人病院・三雲医院。戦争で息子を亡くした老医師・三雲は、婆と若い院長、数名の看護婦でこの病院を経営している。今日は休診の日である。ゆっくりくつろげるかと思っていたら、交番の巡査が悠子という娘を連れてやって来た。大阪から上京した彼女は、その日のうちに暴漢に襲われたと言う。不憫に思った三雲は診察することにした。その後、18年前に帝王切開でお産をし母親とその子供がやって来た。未払のままだった診療をわざわざ持ってきたと言う。更に、そこにヤクザの加吉と恋人・お町がやって来た。加吉は指を詰めるので麻酔を打ってほしいと言った。呆れ果てた三雲は戦死した息子の話を聞かせて、真っ当に生きろと言い諭す。
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(レビュー) 戦後間もない頃の下町を舞台に、老医師と患者達の悲喜こもごもを軽妙に綴った人情ドラマ。
日常に根を下ろした群像劇は安心して見ることが出来るが、反面地味という言い方も出来る。もう少しクライマックスにかけて盛り上がりを見せて欲しかった。何となくなぁなぁで終わってしまったと言う感じである。
ただ、小品として見れば中々味わいのある作品になっていると思う。何より個々の人物が生き生きと描けている所が良い。彼らのやり取りを見ているだけで飽きなく楽しむことが出来た。
まずは何と言っても三雲医師のキャラクター。これが抜群である。斜に見てしまえば偽善者と称することも可能だが、強きを挫き弱きを助く
「赤ひげ」(1965日)よろしく、彼の医師としてのスタンスにはブレが無い。実に頼もしい"町のお医者さん″である。情にもろく頑固で不器用で‥このあたりの人情味が良かった。
他にも、今作には様々な個性的なサブキャラたちが登場してくる。
悲劇を乗り越えて一生懸命生きる初々しい少女・悠子。彼女を不憫に思って面倒を見ることにする母子。ヤクザ稼業から足を洗えずもがき苦しむ加吉。彼を一途に愛しながら病に倒れてしまうお町。戦争体験によって精神に異常をきたしてしまった青年等々。貧しく苦しい戦後の焼け野原で、彼らは自身に降りかかる不幸を跳ね除けながら希望を捨てずに生きていく。大上段に構えずサラリと描いているが、その姿には戦後ヒューマミニズムの足跡が垣間見られる。
ラストは先述の通りかなり強引に締めくくられている。反戦メッセージが前面に出すぎて本来のドラマからずれた印象を持ってしまった。全体的にシナリオは上手く出来ていると思うが、このラストだけはいただけなかった。どうにも説教臭い。
また、いくらコメディとはいえ引っかかる場面がなくもない。例えば、三雲が酔っ払ったまま患者を診療するのは倫理上どうだろう‥。さすがに引いて見てしまうしかない。
しかし、こうした難点を除けばコメディ場面も多く割と見やすい映画となっている。とりわけ、箕島親分の邸宅に加吉が単身乗り込んでいくシーンは可笑しかった。この時の箕島の女房のやり取りが愉快である。
キャストでは三雲を演じた柳永二郎の軽妙な演技が素晴らしかった。他に、鶴田浩二、三国連太郎、佐田啓二、淡島千景、岸恵子等、豪華な面々が出演している。中でもお町役を演じた淡島千景の奥ゆかしい佇まいには心を鷲掴みにされてしまった。こういう女性には幸せになって欲しい‥。見ていてそう思わずにいられなかった。