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拝啓天皇陛下様

純粋無垢な男の生き様を戦争の中に描いたコメディ。渥美清演じる山ショウが心に残る。
「拝啓天皇陛下様」(1963日)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルコメディ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 昭和6年、岡山県の歩兵隊に入隊した山田正助は、悪友・棟本とつるんでどうにか厳しい兵役生活をやり繰りしていた。時には、二年兵からきついシゴキを受けるが、山田はそれにも耐えた。前科者で仕事にありつけなかったシャバの暮らしに比べたら寝食付きの今の暮らしは天国のようだ‥そう考えたのである。そんなある日、山田はつい羽目を外して酔っ払って門限を破ってしまう。懲罰として営倉での反省を促され、彼は5日間の正座を命じられた。これを乗り切った山田は、堀江中隊長に一目置かれ色々と目にかけてもらうようになる。堀江は読み書きのできない山田のために、代用教員をしていた柿内初年兵を教師として付けた。初めは机にじっとしてられなかった山田だったが、ある日、演習の視察に来ていた天皇陛下の姿を見て心を入れ替える。読み書きの勉強をして天皇陛下に手紙を書きたい‥と思うのだった。
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(レビュー)
 戦中時代を逞しく生き抜いた純粋無垢な男の半生をコミカルに描いたヒューマン・コメディ。

 タイトルの「拝啓天皇陛下様」の意味はラストに分かるが、そこで迎える山田の最後の姿には哀愁が感じられる。波乱万丈に満ちた彼の生き様は、まさに激動の時代の象徴でもあったように思う。心に響いた。

 山田は馬鹿がつくほど純粋な男である。天皇陛下を敬愛し軍隊こそ自分の生きる場所と思い込む彼は、傍から見れば何の疑念も抱かずに戦争に呑み込まれていった愚かな男に写るが、逆に殺伐とした環境で他力本願になりがちな普通の人々とは一線を画すアウトローとも言える。

 例えば、いよいよ終戦の兆しが出始めた頃、皆が喜ぶ中で彼はただ一人気を吐いた。そして、天皇陛下に自分だけを軍隊に残してもらおうと手紙を書く。悪友・棟本は天皇に直訴するのは不敬罪に当たると、それを取り上げて破り捨てるのだが、ことほどさように山田は他人とは違った思考を巡らせ周囲を騒がせる人物なのである。現実に居たら色々と面倒くさいかもしれないが、映画の中だけで見るならこれは大変面白いキャラクターである。そして、不思議と自分はこのアウトローに親しみと愛着を抱いてしまった。

 山田を演じるのは渥美清。後の「男はつらいよ」シリーズにも通じるアウトロー体質がすでに今回の役に見られたことは興味深い。
 というのも、今作は翌年に同じスタッフ・キャストで続編が製作されている。そちらには「男はつらいよ」シリーズの山田洋次が脚本で参加しているのだ。もしかしたら寅さんの原型は、案外この山田正助にあるのかもしれない。

 監督・脚本は野村芳太郎。後に骨太な社会派作品を撮り上げる名匠になっていくが、今回のように硬軟織り交ぜたフットワークの軽さにこの人の器用さが伺える。物語は棟本を狂言回しにしながら軽快に展開されている。コメディ色を前面に出した作りで肩の力を抜きながら見れる娯楽作となっている。

 例えば、冒頭の訓練シーンなどはC・チャップリンの「担え銃」(1918米)を連想した。周囲と反対の動きをする山田のおっちょこちょいな行動が笑いを誘う。
 また、下世話な艶笑演出も冴えわたっている。例えば、鶴西と妻の逢瀬のシーンは傑作だった。茂みの中で愛し合うのだが、そこは彼らと同じように離れ離れだったカップルが熱烈に愛し合う名所となっている。やって来た鶴西に驚いてあちこちから顔を出すカップル達の素っ頓狂な表情が可笑しかった。

 そうかと思えば、シリアスとウェットを狙った演出も巧みにしたためられている。銃の整備を怠った鶴西が二年兵にこっぴどく絞られながら妻からの手紙を読み上げるシーン。ここは笑いからシリアスへ、そしてペーソスへと見る側の感情を誘う複雑な演出が施されている。

 また、それほどドギツクはないがブラックな笑いも要所に仕込まれている。後半、山田は好きになった後家のために新しい仕事を始める。市役所の職員になったと自慢して人生初の名刺を棟本たちに差し出すのだが、実はそれは自殺の名所「華厳の滝」に身投げした死体を引き上げるというものだった。誰もやりたがらない仕事を一身に引き受ける彼の馬鹿さ加減もさることながら、幼子を抱えながら貧困に喘ぐ後家に気に入られようとする彼の健気さはどこか狂気的で見てて痛々しい。客観的に見れば、山田はかなりのサイコと言える。

 こうした様々なトーンを集積させながら野村監督は山田の半生を濃密に紡いで見せている。多彩な笑いと、戦争を皮肉った風刺、ブラック・ジョーク等、一つの作品にこれだけの色合いを仕込んだその仕事ぶりには職人芸的な上手さを感じた。

 尚、この映画には時代を匂わす様々な物が登場してくる。山田が読み書きの教材とする「のらくろ」の漫画や、棟本宅で飲む自家製どぶろく等。これらは戦中から終戦直後にかけての品々だ。こうした所のリアリズムにも本作は力を入れている。
 ただ一つ、中盤で登場する古いモノクロ映画が一体何の映画だったのかが分からない。本作のためにわざわざ古臭く撮り下ろした映画だったのか、あるいは実際にあった映画なのか。調べてみても分からなかった。あのモノクロ映画は一体何だったのだろう?
[ 2012/12/06 01:44 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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