馬鹿シリーズの第1弾。ハナ肇のキャラクターが良い。
「馬鹿まるだし」(1964日)
ジャンルコメディ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 戦争でシベリアへ行っていた風来坊・安五郎が、瀬戸内海の小さな港町にやって来る。浄念寺に一時身を置き、そこでシベリアへ行った夫の帰りを待つ美しい夏子に出会う。安五郎は彼女に一目惚れしてしまった。そんなある日、町でちょっとした騒動が起こる。名士の娘が大道芸人の怪力男と駆け落ちしてしまったのだ。名士は腕っぷしの強い安五郎に娘を取り返してほしいと頼む。安五郎は見事にこれを成し遂げ町中の人気者になった。夏子はそんな安五郎を少しだけ見直す。
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(レビュー) 山田洋次監督・ハナ肇主演の「馬鹿シリーズ」第1作。全部で3作作られたが、自分は第3作
「馬鹿が戦車でやって来る」(1964日)を先に見ている。今回もハナ肇演じる安五郎の行動がおもしろ可笑しく綴られていて楽しく見ることが出来た。
安五郎はフラリと立ち寄った町で人妻・夏子に一目惚れしてしまう。彼女に良い所を見せようと、困った人を助けるうちにいつの間にか町を牛耳る顔役のようになっていく。しかし、肝心の夏子に振り向いてはもらえず、そこに失恋男の切なさが体現されている。
元来、安五郎は単細胞で直情的な性格である。憧れの夏子に良い所を見せようとして、あれもこれも仕事を引き受けるのだが、夏子には人が良すぎると逆に諌められてしまうのだ。惚れた女に思いが届かぬというのは実に情けないものである。夏子に諌められた時の安五郎の悲しそうな顔と言ったら、まるで主人に仕える忠犬のごとき哀愁を誘う。
尚、物語の後半には重要なモティーフとして「無法松の一生」の芝居が登場してくる。それを見た安五郎は目に涙をためて感動するのだが、正に彼の方恋慕も無法松のそれと同じであろう。クライマックスでドンキホーテよろしく安五郎の危険を顧みない"ある行動″が描かれるのだが、これも実に切なくさせられた。安五郎の純粋さが伝説になっていく終盤には涙してしまった。
本作は基本的には喜劇である。ただ、こうしたペーソスは山田監督の得意とするところであり、大きな見所だ。
一方、笑い所としては、安五郎が煙突に上るクダリが最も可笑しかった。工場で働く労働者たちの争議を鎮めようと工場長に頼まれた安五郎が、煙突に上った組合のリーダーを説得しに行く。ところが、彼は高所恐怖症で上ったきり降りられない。説得どころではなく組合のリーダーに飲めない酒を飲まされて、挙句の果てに酩酊した状態で煙突から飛び降りようとするのだ。組合のリーダーも危険と感じて止む無く降りることになる。バカバカしいと言ったらそれまでだが、このバカバカしさも本作の肝である。
難は、ヒロイン夏子の心情が弱い所だろうか。安五郎を中心とした作劇になっているために、どうしても彼女の心中に迫ることが出来ない。彼女にしてみれば安五郎は恋愛の対象ではなかったのだろうが、それでも二人の仲は町中で噂になっているくらいなのだから、彼女が安五郎をどう思っていたのかは丁寧に描いた方が良かったかもしれない。このままでは少し冷淡な女性に見えかねない。
キャストは安五郎を演じたハナ肇の妙演を初め、夫々に敵役だと思った。夏子を演じた桑野みゆきの愛らしさも魅力的である。クレイジーキャッツの犬塚弘、植木等も出演しているし、渥美清もチョイ役で登場しているので役者陣は安定している。