実話の学園ドラマ。
「フリーダム・ライターズ」(2007米)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 1994年、ロサンゼルスの荒廃した高校に、新人女性教師エリン・グリーウェルがやって来る。様々な人種が入り乱れる構内では争いが絶えなかった。それを見て唖然とさせられるエリン。それでも父や夫に支えられながら彼女は生徒たちに真摯に向き合っていく。そんなある日、町で銃撃事件が起こる。この事件にはエリンの生徒も関与していた。早速クラスでは彼に対する虐めが行われる。それを見たエリンはホロコーストの話を聞かせてやる。しかし、生徒たちはその歴史すら知らなかった。エリンは彼らをホロコースト記念博物館に連れて行くことで、争いの醜さを教えようとするのだが‥。
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(レビュー) 新任女性教師と荒んだ青春を送る生徒たちの交流を綴った感動作。同名の全米ベストセラーの映画化である。
手垢のついた題材な上に、ラストの大団円も実話が原作という割に軽く映り、何だか印象が薄いドラマである。学外見学によって生徒たちと信頼関係が築かれていくのも、S・ポワチエ主演の「いつも心に太陽を」(1967米英)の焼き直しにしか見えず既視感が拭えない。要するに、何もかもが上手くいきすぎて、実話のドラマなのに楽観的に見えてしまうのである。
ただ、そうした甘ったるい鑑賞感が残るにしても、映画自体は決して悪い出来ではないと思う。
特に、中盤のスピーチのシーンは感動的だった。今まで一番目立たなかった生徒がクラス全員を家族と呼ぶのだが、その姿に涙が溢れそうになった。
また、実話が元になっているというだけあり、作り手たちの教育問題に対する切り込み方もユニークである。教師が生徒たちの心をどうやって開いていくのか?その実例がここでは描かれている。
たとえば、一番面白いと思ったのは、エリンが生徒たちを二つのグループに分けて行う"ラインゲーム″というものである。彼女は生徒たちに様々な質問をぶつけて、答えが”イエス”なら教室の中央に引かれたラインを踏むように言う。質問は彼らの身辺に関する物ばかりだ。ギャングの襲撃を受けたことがあるか?人種間の争い"戦争″で友人を亡くした者はいるか?その友人の名前を呼んでみて‥等々。質問がどんどんヘビーになっていく。そして、最後のラインに残った生徒たちは、その"戦争″の当事者達となる。今までいがみ合っていた者同士が同じラインを踏み、亡くした友人たちの名前を呼び合い、争いの虚しさを知っていく。この”ラインゲーム”は、生徒達一人一人に自分は被害者であると同時に加害者でもある‥ということを気付かせていく。これは中々考えられた授業だと思った。
この他にも、エリンの授業アイディアは斬新な物が多い。例えば、教材にギャング少年の半生を描いた小説を使うことで、生徒たちに"考えること″と"問題を見つめなおすこと″を身近な所で用意してやっている。
更には、生徒たちが夫々に抱える悩みを自己認識させるために、日記帳を配ってありのままの自分を書かせる。しかも、ここでエリンが上手いと思うのは彼らにそれを強要しないところだ。書きたい者だけが書いて、読んでもらいたい者だけがロッカーに入れておいて‥と、あくまで自主性を尊重するのである。実際にこれが成功し、エリンは生徒たちが抱えている問題を個々に把握することができ、以後の授業でそれを活かすことが出来るようになる。
かようにこのエリンという女性教師のやり方は、新人教師とは思えぬほど手練れていて、見れば見るほど感心させられる。
一方、そんな彼女もプライベートでは様々な問題を抱えていく。一日の大半を教育現場に費やすので夫とは疎遠になり、斬新な教育方法から職場では上司と対立していくようになる。このあたりの葛藤も丁寧に描写されていて面白く見ることが出来た。
ただ、先述したように、ラストを含め全体的に少し楽観的な作りになってしまっている。後で調べて分かったが、この監督はどうやら脚本家上がりの人物のようである。もちろん今作のシナリオも書いているのだが、実話の映画化という事をどう考えているのだろうか?実話には実話なりのリアル志向な語り口というものがあるように思う。描き方次第では逆に大変嘘臭いドラマになってしまいかねない。そのあたりのバランス感覚がもう少し上手くいっていれば‥と残念に思った。
例えば、日記を書かせるシーンで、十分な教育を受けてこなかった彼らに果たして字が書けるのだろうか‥という疑問が湧いた。
「プレシャス」(2009米)では非識字で苦悩する黒人少女が登場してくる。彼女のように読み書きのできない子供はいなかったのだろうか?
また、裁判の遺恨を抱えたエバ、終身刑になった兄を抱える黒人少年のその後など、サブエピソードの放出が目立つ。そのせいで映画を見終わっても釈然としない思いが残った。収集できないのであれば、これらのエピソードを無理に詰め込む必要はなかったと思う。