クライマックスのレースシーンは見応えあるが‥。
「風が強く吹いている」(2009日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルスポーツ
(あらすじ) 走ることにかけては誰にも負けないカケルは、晴れて寛政大学に入学する。そこで陸上部の部長ハイジに声をかけられ、彼が寮長を務めるアパートに入居した。そこには様々な個性溢れる部員たちがいた。彼らとともに箱根駅伝を目指して練習に明け暮れるカケル。一方、高校時代に天才ランナーとして将来を有望視されながら怪我に泣いてしまった孤高のランナー・ハイジも、カケルの頑張りに触発されながら復帰を目指していく。
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(レビュー) 箱根駅伝を目指す若者たちの姿を爽やかに綴った青春映画。
もはや日本のお正月の風物詩となってしまった感がある箱根駅伝。今作はそれを舞台にした映画である。
演出が多少臭いものの、これだけリアルなレースシーンを再現できたことは素直に感嘆する。おそらくここまでのスケール感で描写された日本のスポーツ映画はないように思う。この臨場感溢れるレースだけでも見る価値はあろう。
ただ、シナリオ、演出は共に精彩に欠くと言わざるを得ない。
まず、個性的なサブキャラは狙いとしては面白いが、いずれもマンガチックに造形されているのでリアリティが乏しい。そもそも今まで箱根駅伝をテレビでしか見たことがなかった連中が、そんなに簡単にレースに出場できるものだろうか?ある程度ファンタジーと割り切った上でないと、この映画に入り込むのは難しい。別に夢や感動を与えてくれるファンタジックな作品を否定しているわけではない。”嘘”を”嘘”と思わせないようなシナリオ、演出が欲しいと言っているのである。
また、キャラ造形に関して言えば、王子のキャラクターがちぐはぐに思えた。彼はマンガオタクの引きこもりでチームのお荷物的存在である。そんな彼が頑張る姿はきっと見る者に感動を与えるはずである。しかし、時々オカマっぽい演技になるのは何故なものか?普段はそんなキャラを微塵も見せない。それなのに時々クネクネした演技をし出すのだ。仮にそういう個性があるのだとしたのなら、予め説明しておかなければいけない。唐突に出てくるので気になってしょうがなかった。
ヒロインの扱いも中途半端で勿体ない。ドラマへの絡め方が余り上手く行っていない。ここは双子との絡みを描くよりもハイジとの絡みを描くことでクライマックスを盛り上げるべきだろう。
また、カケルとハイジのバックストーリーには走ることに対する夫々のトラウマが隠されているのだが、そこも実に表層的にしか描けていない。
唯一良かったのは神童に関するエピソードである。これはバックストーリーも、ドラマの伏線と回収もきっちりと図られていた。
一方の演出も、クライマックスの前段、ハイジのアクシデントについて物申したい。ラストのカタルシスを作り出すためのアクシデントであることは重々承知している。ただ、何故それを道半ばで発生させてしまったのか?彼はこのアクシデントを切り抜けると再び元気に走り出してしまうのだ。まるで、何事もなかったかのように‥。見ているこちらとしては「あれ?どうやって立ち直ったの?」とよく分からなくなってしまう。そして何故かゴール直前になると再び彼の走りにブレーキがかかってしまう。しかも、これ見よがしでスローモーションで盛り上げるものだから、見ているこちらは白けるだけである。盛り上げたいのならきちんと段取りを考えて演出して欲しいものである。
他にも、ハイジがアパートで突然倒れる演技、ハイジの秘密を知ったカケルのリアクション(女医に詰め寄る方が断然自然である)等、色々と演出が気になった。
監督は今まで脚本家として活躍していた人物で、今回が初演出だそうである。それを知ると本作の雑な作りも何となく理解できる。しかしながら、本業が脚本家ならせめてそこだけでもしっかりと作って欲しかった。その後のフィルモグラフィーを見ると、この監督は脚本家1本で現在も活動しているようなのだが‥。