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幸福

サスペンス自体は今一つだが、奥深いドラマで色々と考えさせられる。
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(2009/11/04)
水谷豊、永島敏行 他

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「幸福」(1981日)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 都内の大通りに面した古書店で銃乱射事件が起こる。現場に駆け付けた北刑事は被害者の中に自分の恋人・庭子を見つけて半狂乱になる。その後、先輩刑事・村上に頼み込んで捜査に執念を燃やしていく。一方、村上は妻に出て行かれたシングルファザーである。狭い団地に二人の小学生の子供たちと暮らしていたが、仕事ばかりでろくに子供たちの面倒を見てやれない。父親としての務めを果たせない心苦しさはあったが、今はそれどころではなかった。北や上司の野呂警部と共に事件の捜査に執心していく。早速、遺族を訪問して犯人の手掛かりを探ろうとするのだが‥。
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(レビュー)
 銃乱射事件を捜査していく刑事たちの活躍を描いたヒューマン・サスペンス作品。
 原作はエド・マクベイン87分署シリーズの一遍「クレアが死んでいる」。それを市川崑監督が翻案して映像化している。

 サスペンスとして見た場合、どうしてもTVの2時間ドラマ的な内容で食い足りない。同じ87分署シリーズを翻案した黒澤明監督の「天国と地獄」(1963日)と比較すれば一目瞭然である。スケール感が余り感じられず小品という域を抜き出せていない。
 しかし、今作はサスペンスの傍らで登場人物たちの人間ドラマも繰り広げられている。どちらかと言うと、映画はそちらの方に重点が置かれていて、そこに注視すれば中々見応えのある作品である。

 メインとなるのは村上刑事の子育て奮闘記である。仕事で中々相手をしてやれない分、躾には人一倍気を使っていて、その気苦労が各所で描かれている。しっかり者の長女は積極的に家事をするのでまだいいが、問題は長男の方である。まだ母親が恋しい小学校低学年である。父親に度々反抗的な態度を取って怒られたりする。そんな3人の暮らしぶりは今作にユーモアとペーソスをもたらしている。

 たとえば、長女がジャガイモを洗濯機で洗ったり、壊れたトースターでパンがまる焦げになったりするエピソードは微笑ましく見れた。また、夜中に父が出かけていくのが寂しくてドアに鈴をつける長男の姿にはしみじみとさせられた。実にいじらしい。

 一方、村上と一緒に犯人を追いかけていくもう一人の刑事・北に関しては、ひたすらシリアスなトーンで描かれている。事件を解明していく中で、彼は事件の犠牲者である恋人の知られざる過去も知っていくようになる。ネタバレになるので詳しくは書かないが、これには切なくさせられた。

 市川崑の演出は特に奇をてらうようなことがなく、全体的には手練れたものを見せてくれている。本作は銃乱射事件の捜査を描く現在と、北刑事が携わった過去の事件の回想で展開されていく。その接合も自然に行われていた。

 ところで、何となく意味深な「幸福」というタイトルだが、映画を見終わって改めてこのタイトルに込められた意味について考えみた。
 本作に登場する人物は皆、不幸を背負って生きている。これのどこが「幸福」なのか‥と最初は思った。しかし、考えてみれば「幸福」とは絶対的な指標があるわけではなく、1人1人に固有の価値観である。グラスの中のワインのたとえ話が有名だが、「まだ半分残っている」と考えるか、「もう半分しかない」と考えるか、それは人それぞれである。市川監督はそれをこの映画で問いたかったのではないだろうか?

 冒頭の庭子のアップは幸せそうな表情をしていた。電話の相手・北も幸福の絶頂に浸っていた。事件によってその「幸福」は奪われてしまったが、しかしこの瞬間こそが彼らにとって"ワインが満ちた″瞬間だったのだろう。「幸福」とは一過的なものでしかない。永遠い続く「幸福」なんてものはないのである。だから、我々はその一瞬、一瞬を大切に生きていかなければならないのだ。

 そして、煮え切らないまま終わってしまった村上家の関係をあれこれ想像してみた。人生とはその瞬間、その瞬間を大切に生きていかなければならない‥とするのなら、どうかこの家族には再び「幸福」が訪れて欲しいと思う。なぜなら「幸福」とは、ふたたびやって来るものでもあるからだ。ワインが無くなればまたつげばいい。そうやって人生は続いていくものである。

 ちなみに、映像技術的なことを言うと、今作は同監督作の「おとうと」(1960日)で実用化された「銀残し」が再び採用されている。少し色あせた色調になっていて、独特の雰囲気の画作りになっている。何故、市川監督はこの色調にこだわたのか?その意味を考えてみるのも面白いかもしれない。
[ 2013/01/18 02:24 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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