グランドホテル・ドラマの語源にもなった古典的作品。
「グランド・ホテル」(1932米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルロマンス・ジャンル古典
(あらすじ) 様々な人間が宿泊するベルリンの高級ホテル。そこにガイゲルン男爵がある目的を持ってやって来た。余命僅かの中年男クリンゲラインは最後の豪遊を楽しもうとしてやって来た。他にも、スランプで落ち込む有名バレリーナ、グルシンスカヤ、合併話を成功させようと躍起になっている会社社長プライジングが宿泊していた。ガイゲルンはそこで1人の美女に出会う。彼女はプライジングに雇われてやって来た速記タイピストのフレムという女性だった。彼は翌日のダンスパーティーに彼女を誘うのだが‥。
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(レビュー) 一つの舞台に繰り広げられる群像劇、いわゆるグランドホテル形式ドラマの出発点となった作品。尚、これより3年ほど前に同じ邦題のドイツ無声映画が公開されている。残念ながらそちらはソフト化されていないので見る機会はないが、両作品は同じドイツを舞台にしているということで何か繋がりがあるのではないか‥と思った。しかし、ストーリー自体は異なるらしい。本作は元々は有名な原作があり、その舞台版を映画化にしたものである。ドイツ版の方はどういう映画なのか分からない。
次々と覚えにくい名前が出てくるので最初は戸惑うが、キャラクターの人数は意外に少なく比較的シンプルな群像劇となっている。
物語はガイゲルン男爵の視座を中心にして進行する。不治の病気を患い最後の贅沢をしようとする小市民クリンゲラインとの友情、人気が低迷し自殺まで考える世界的バレリーナ、グルシンスカヤとの数奇な関係、女優になる野望を持ってモデルやタイピストをしている少女フレムとの淡い恋心などが綴られている。
ここで注目したいのはガイゲルン男爵の正体を伏せた作劇とその顛末だ。彼は自分を男爵と語っているが、実はそれは仮の姿である。本当は1人の平凡な男で、ある企みを持ってこのホテルにやってきた人物なのだ。そのバックボーンが判明してから、このドラマは俄然面白く見れるようになった。そして、彼が周囲の人々の生き方に影響を及ぼしていく所に、このドラマのテーマが浮かび上がってくる。ラストにはしみじみとさせられた。
結局、ガイゲルンは平凡な一人の男だったかもしれないが、周囲にとっては夢や希望を与える天使だったのだと思う。クリンゲライン、フレム、グルシンスカヤ。彼らは夫々に苦悩や問題を抱えている。それがガイゲルンと出会うことで、最後には夢や希望に向って進んでいくようになる。
一方、そんなガイゲルンの顛末は‥というと、これが実に皮肉的なものである。確かに結果だけを見れば身から出た錆‥という言い方が出来るかもしれないが、それまでの他者との交流を思い返すと不憫としか言いようがない。
見終わって人生について色々と考えさせられた。夢や希望、幸福は金で買えるという考え方がある。今作のクリンゲラインはそういう考え方の持ち主だった。フレムのラストの選択にもこの考え方は当てはまるかもしれない。しかし、一方でガイゲルンは金で人生を狂わされてしまった人物だ。会社社長プレイジングも、ある意味ではそうである。これら双方の生き方、顛末を見ると、果たして人生にとって大切なのは金なのか?金では買えないもっと大切なものがあるのではないか?と考えさせられてしまう。
この映画のもう一つの見所はロマンスである。ガイゲルンとグルシンスカヤ、フレムの淡い三角関係は中々魅せる。ガイゲルンの顛末を二人の女性はどう受け止め、今後どういう人生を歩んでいくのか?そこを想像してみると今作は更に味わいが増してくるだろう。