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亀も空を飛ぶ

寓話とリアリズムの見事な融合。そこに面白さを感じる。
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(2008/05/31)
ソラン・エブラヒム、ヒラシュ・ファシル・ラーマン 他

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「亀も空を飛ぶ」(2004イラク)星5
ジャンル戦争・ジャンルロマンス・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 アメリカ軍が侵攻する直前のイラク。少年サテライトは、あちこちの家庭にアンテナを売って生計を立てていた。ある日、フセイン軍から逃れてきた避難民が村にやってくる。その中に、両腕を失った兄ヘンゴウと幼子と一緒に暮らす少女アグリンがいた。サテライトは彼女に一目惚れした。しかし、ヘンゴウに予知能力があるという噂があり、それにケチをつけたサテライトは彼と喧嘩してしまい…。
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(レビュー)
 アメリカが大量破壊兵器を保有しているという理由でイラクに侵攻したのが2003年。この映画はその直後に完成した社会派青春ドラマである。

 荒廃した大地で暮らす少年少女の姿を描きながら、戦争の残酷さが悲痛に訴えられている。製作・監督・脚本はバフマン・ゴバティ。彼の監督デビュー作「酔っ払った馬の時間」(2000イラン仏)も今作と同じ小さなクルド人の村を舞台にしたドラマだった。そして、彼の訴えるテーマは常に一貫している。戦争の”残酷さ”、”無為さ”である。今回も真摯に受け止められた。
 ただ、演出的にはドキュメンタリータッチに傾倒したデビュー作と違って、今回は映像、物語ともに寓話的なテイストが混入されている。そこは前作と大きく異なるところである。

 たとえば、冒頭のシーン。アグリンが谷底を眺めるシーンは、雄大なロケーションも相まって非常に神秘的で美しい。まるでこれから始まるのが、神話か何かのようにさえ思えてくる。
 また、タイトルの「亀」が示す意味も寓意的である。あるいは、ヘンゴウの予知能力という設定も、どこかオカルトチックである。
 こうした超自然的な演出、設定は、見る人によって好き嫌いが分かれるかもしれない。しかし、自分はこの奇妙なテイストに心酔してしまった。寓話色が混入されたため、デビュー作よりもユーモアがあり親しみも持てる。特に、終盤の金魚の演出にはクスリとさせられてしまった。

 ただ、いくら寓意性が混ざっているとは言っても、基本的に今作は戦争の悲惨さを訴えた現実的な作品である。幼い子供たちが戦火に晒される場面には胸を締め付けられる思いにさせられる。出演者の多くは実際の戦災孤児ということなので、そのリアリティもあろう。戦災の現実が強烈に提示されている。

 また、この村では地雷を撤去するのは子供たちの仕事である。彼らの中には腕や足を失った者たちが大勢いる。地面に這いつくばって地雷を慎重に探し当てる姿は正視するのをためらうほど残酷だった。そうして掘り出された地雷はまとめて国連の出先機関に買い取ってもらうのだが、劇中のセリフにもある通り、その値段は国連軍の地雷探知犬の餌代の1/50ということである。犬の餌よりはるかに安い賃金のために手足を失う危険な仕事をさせられる彼らの姿を見ると、更にやるせない思いにさせられた。

 ヘンゴウもこの地雷撤去で両腕を失った少年である。妹アグリンと幼子のために彼は今でもこの危険な仕事をしている。小さなテントで寝起きしながら、同じ服を着て、ろくに風呂にも入れない生活を送っている。フセインから逃げてきた難民の多くは、彼らのように貧しい暮らしを強いられていたということがよく分かる。

 ただ、こんな過酷な状況に置かれても、子供たちは逞しく生きている。何があっても下を向かず顔を上げて前を見つめている。そうしてなければ生きていけない‥という実情もあるのだろうが、少なくとも過酷な戦場に咲く子供たちの生き生きとした表情には少しだけ救われた。

 物語は青春ロマンスとして実にオーソドックスに作られている。サテライトはアメリカかぶれの少年で村の子供たちを統率するリーダーである。地雷撤去の仕事も村のパラボラアンテナの取り付けも、全て彼が取り仕切っている。そんな彼がアグリンに猛アタックをかける所からこのロマンスは始まる。ところが、当のアグリンは過去に深い傷を持っており、その愛に応えられない。その心中に迫る中盤の回想シーンは印象的だった。おそらく、サテライトは最後まで彼女の過去は知らないままだったのではないだろうか‥。だとすると、このロマンスは余りにも切なすぎる。

 ゴバデイの演出は基本的にはオールド・スタイルなものであるが、先述のとおり今回は一部で神秘的なタッチも見られる。また、村人が裏山へ逃げるスケール感のある演出も中々の迫力であるし、そこにヘリからばら撒かれたビラが散乱する光景も少しシュールで面白かった。
 そして、クライマックスの地雷原のシーン。この緊迫したサスペンス・タッチには目が逸らせなかった。一寸先は地獄とは正にこの事である。下手なホラー映画よりも心臓に悪い。

 キャストではアグリンを演じた少女が素晴らしかった。初めは年相応の無垢な表情を見せる。しかし、中盤で過去が判明し、徐々に大人びた表情を見せていく。これは計算された物なのか?あるいは自然にそう思わせてしまう作劇の巧みさなのか?いずれにせよヒロインとして抜群の存在感を見せつけていて印象に残った。
[ 2013/01/29 01:29 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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