美しい映像は必見!
「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012米)
ジャンルファンタジー・ジャンルアクション
(あらすじ) ある小説家がパイ・パデルというインド人の家を訪問する。彼の半生を本に書こうとしてやってきたのだ。パイは動物園を運営する家族の中に生まれた。人一倍好奇心の強いパイは神の信仰を学び賢く成長した。そして、16歳になったある日、一家は動物園を引き払ってカナダに移住することになる。しかし、その航海中に船は沈没。パイと数頭の動物だけが救命ボートで助かる。その中には凶暴なサーベルタイガー"パーカー″もいた。こうしてパイとパーカーの決死のサバイバルが始まる。
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(レビュー) 少年と虎のサバイバルを描いたアドベンチャー作品。世界的ベストセラーを名匠A・リーが映画化を熱望して作り上げた作品である。
ストーリーの大筋はタイトルが示す通りで特に捻りはない。ただ、ほとんどが海上シーンで繰り広げられる物語を、過酷なサバイバル、パイとパーカーの衝突、融和のドラマで上手く抑揚をつけた所は評価に値する。これぞストーリーテリングの上手さだろう。見ていてまったく飽きることがなかった。そして、そこから見えてくる人間の孤独性、自然との戦いといったテーマも実に普遍的だ。さすがは長らく愛読されているベストセラーの映画化である。
また、この壮絶な漂流体験に込められた様々な比喩を考えてみると、見終わった後には深い余韻も生まれてくる。
例えば、パーカーという虎はパイにとっては何だったのか?後半に登場する"あの島″は何だったのか?その意味を汲み取ることができれば、シンプルなドラマにも深みは出てこよう。パイの話は後半から過度に寓話化されていくが、ここにも比喩は隠されている。この不審も終盤で見事に解消された。
ただ、序盤から教示を狙いすぎなのはいささか辟易した。パイは幼いころから宗教に関心を持ち、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教という3つの宗教を勉強して大きくなる。いかにも多宗教国家インドという気がする。しかし、嵐に見舞われ、灼熱の太陽に晒され、飢えに苦しむパイが事あるごと口にする"神"とは、一体どの宗派の神のことを言っているのだろうか?それがよく分からなかった。生きるか死ぬかの瀬戸際で神にもすがりたくなる心理は分かる。しかし、パイにとって神とはいかなる存在だったのか?そこをはっきりさせないままサバイバルに突入してしまったのはシナリオ上の手抜かりというほかない。見ている最中、そのことが頭を巡り悶々しっぱなしだった。
また、ラストで、この話を信じるかどうかはあなた次第です‥と布教活動家よろしく締めくくられるのも、少しばかり鼻についた。それこそ大切な説法でも聞かされたような、そんな気になった。
むろん、人は過酷な現実よりもパイが言う"面白い″神話を選ぶものだ。ここまで洗いざらい打ち明けられたら、誰だってここに登場する小説家のように答えるしかなかろう。しかし、それでは映画のオチとしては弱いと思う。どちらを信じるか分からない‥くらいの落としどころの方が映画に深みが出たような気がする。自分には余りにも綺麗すぎるオチで好みではなかった。
映像はとにかく美しい。透明感あふれる水の表現、月夜の明かりに照らされる荘厳な大海原、そして物語の寓話化が強められていくに連れて主張し始める幻想的な景観と神秘的な色彩トーン。息をのむような自然の数々に心奪われた。
また、今回は3Dでの鑑賞だったのでその迫力も味わえた。例えば、海中に落ちたパイが沈没した船を見上げる奥行きのある映像は素晴らしかった。
今回の映像体感は大きなスクリーンでこそ味わるものである。出来ることなら劇場で鑑賞した方がベストだろう。