凝った設定と深いテーマが魅せる。
「LOOPER/ルーパー」(2012米)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) 2074年の未来ではタイムマシンが開発され、犯罪組織がそれを利用した殺人を行っていた。それは邪魔者を過去に送り込んで殺害してもらうという方法。2044年、荒廃した都市に住むジョーはその処刑請負人、通称"ルーパー″だった。彼は次々と送り込まれてくる人間を処刑し犯罪組織の仲介人から多額の報酬を受け取っていた。そんな彼の前に何と30年後の自分が処刑される姿で現れる。しかし、ジョーは未来の自分を撃てず逃がしてしまった。こうして彼は組織から命を狙われる。
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(レビュー) いわゆるタイムトラベル物にはお約束がある。それは未来を変えてはならないという決まり事である。本作も現在のジョーが未来の自分をあそこで射殺していれば何も問題はなかったはずである。30年というのは彼に決められていた残りの寿命だからである。しかし、彼は躊躇して撃てなかった。そのため未来が大きく変わってしまう恐れが生じてしまった。つまり、この映画も数多あるタイムトラベル物と同様、未来を変えられるのか?変えられないのか?という話に集約される。
「ターミネーター」(1984米)を見ていると、何だまたか‥と思う人もいるだろう。確かに斬新な設定と言うわけではない。未来のジョーがある目的を持って現在に現れて、それを現在のジョーが追いかける‥という構図は、正に「ターミネーター」で言う所のT-800とカイルのそれである。古くはアメリカのTVシリーズ「アウターリミッツ」の1編「ガラスの手を持つ男」にも出てきた設定だ。ただ、この映画が今までと違うのは、現在の自分と未来の自分が戦う‥というところにあるように思う。つまりどちらも自分なのである。そこがユニークだ。
現在のジョーは未来のジョーを殺せるが、逆は出来ない。何故なら現在のジョーが死ねば未来のジョーは存在できなくなるからだ。だから、未来のジョーは現在のジョーに、邪魔をしないでどこかに隠れていろと言う。敵対する者同士でありながらとことん憎むまではいたらない。そんな微妙な愛憎関係が見ていて面白い。言わば、自己存在の証明をかけた哲学的な戦いのようにも見れる。
現在のジョーをJ・ゴードン=レヴィット、未来のジョーをB・ウィリスが演じている。まるで外観の異なる二人を同一人物と言い張るあたり‥。かなりシュールな映画だが、実際、他にも色々と突っ込み所はある。決してシナリオの出来自体は良いと言うわけではない。
例えば、クライマックスの未来ジョーの無双っぷりには唖然とさせられた。ほとんど「ダイハード」のマクレーンである。これだけ強ければ未来で簡単に捕まるなんていうのは信じがたい。
また、タイムマシンの外観もアナクロチックで突っ込みを入れたくなるものだった。世界的組織が大事なマシンをこうも無造作に放置するだろうか?
このように映画としての作りはかなり粗いと思った。もっとも、ビジュアル面に関しては仕方がない面もある。近未来の荒廃した世界観にも言えることだが、明らかに予算の少なさが仇となっている。ハリウッド大作のような潤沢な資金があればこうした粗は防げただろうが、いかんせん今作はそこが苦しい。
ただ、こうした粗は幾つか見つかるものの、物語自体は軽快に進んでいくので全体的には飽きなく見れた。第一に、設定を序盤で早々に説明してスピーディーに本題に入った所が良い。現在のジョーが窮地に追い込まれていく理由、つまり未来のジョーを逃がしてしまった場合の"制裁″も、同僚が辿る悲劇によって具体的に提示しているし、このあたりの説明の仕方も上手い。未来のジョーのバックストーリー、敵組織の陰謀などもスケール感たっぷりに描かれている。
唯一、現在のジョーが未来のジョーのターゲットと交友を育んでいく中盤は、若干水っぽく感じてしまった。現在のジョーがとうもろこし畑に一晩隠れるとは、いくらなんでものんびりし過ぎる。ましてやヤクが切れそうになっているのだから、ここはさっさと姿を表してターゲットに接触した方が良いだろう。軽快な流れがここで寸断されてしまったのは残念だった。
結末は良い意味で期待を裏切るものだった。正にここにこの映画のテーマが集約されているような気がする。それは、未来を切り開け‥ということだ。ルーパーが未来の自分を殺すことを"ループを閉じる″と言うが、まさにジョーは未来を閉じ、未来を変えたのだと思う。むろん、彼の行動が未来を良い方向に切り開いたかどうかは映画を見る限り定かではない。しかし、個人的にはそうあって欲しい‥と願わずにはいられなかった。答えを敢えて伏せたのは、観客一人一人に考えてもらいたいという監督からのメッセージだろう。スッキリしないと言う人もいるかもしれないが、個人的には中々味があって良かったと思う。
そして、この映画にはもう一つのサブ・テーマがあるように思った。それは親子の隔絶した関係だ。実は、現在のジョー、未来のジョー、そして未来のジョーが追いかけるターゲット、彼らは夫々に親子関係にトラウマを抱えている。これがメインのテーマにトッピングされている所に注目したい。これがあることで、この映画は更に味わい深いものとなっている。
例えば、未来のジョーがターゲット探しの最中で苦悶の表情を見せる場面がある。自分の未来を変えるためにターゲット、つまりその子供の未来まで奪っていいのか‥?という葛藤が、この時の苦悶の表情に表現されてる。未来のジョーは妻を母親にすることがで出来なかった男なわけで、その悲しみもこの場面からは透けて見える。実に深いシーンだと思う。
監督・脚本はR・ジョンソン。チープなアクション演出もあるにはあるが、まずまずの物を見せてくれている。未来の人間を処刑する瞬間のスリリングさは、かなりのショック度とキレが感じられた。また、現在の肉体への影響が即刻、未来の肉体にまで及ぶというアイディアも秀逸だった。目で見て分かる分、かなり恐ろしい。
一方で、クライマックスの新旧ジョーの対決にキッド・ブルーを絡ませたのはいただけなかった。そもそもキッド・ブルーの存在をここまでクローズアップする必要があったかどうか‥。せっかく盛り上がってきた所に水を差された感じになり少し白けてしまった。