ハートウォーミングに描いているが実は恐ろしい物語。
「ハーヴェイ」(1950米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 大富豪の子息エルウッドは、普通の人には見えない"ある物″が見えた。それは体長1.9メートルの巨大なウサギ、ハーヴェイである。彼は人目をはばからずハーヴェイと会話をするので、町ではちょっとした有名人になっていた。そんなエルウッドを姉は快く思っていなかった。娘の結婚が遅れているのは彼の悪評のせいだと思っていたのである。ある日、姉は娘の婿探しのために町の若者たちを招待してパーティーを開くことにした。ところが、運悪くそこにエルウッドがやって来てパーティーは台無しになってしまう。姉はついにエルウッドを精神病院に入れようとするのだが‥。
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(レビュー) 妄想癖を持った男が周囲に様々な騒動を巻き起こすハートウォーム・コメディ。
低予算ながら奇抜なプロットで話題を呼んだ青春サスペンス映画「ドニー・ダーコ」(2001米)は、おそらく本作からアイディアを得ているのではないだろうか。普通に考えれば明らかに気味の悪い妄想男で、「ドニー・ダーコ」はそこを上手くサスペンスに転嫁していたのだが、本作は逆にコメディとして料理している。
何と言ってもこの映画は、エルウッドの妄想に感化されていく周囲の人々の姿が可笑しい。その理由付けは若干弱く感じたが、一種のナンセンス・コメディと割り切ってみれば中々楽しめる。世の中には思い込みが激しい人と、そうでない人がいる。正常or異常という線引きは、実は相対的な問題でしかないのかもしれない。以前、
「精神」(2008日)というドキュメタリー映画を観たが、そこでも印象的に語られていた。主観的な立場に立って考えれば、誰が異常で誰が正常かなんていう問題は、それほど意味がないことなのかもしれない。
エルウッドが何故ハーヴェイを見るようになったのか?その理由は生い立ちにあるように思った。彼は母の死がショックで、その寂しさがハーヴェイという虚像を生み出したのだろう。
幼年性妄想癖という病気がある。これは、小さな子供が寂しさを紛らそうとして目には見えない"イマジナリー・フレンド″を頭の中で勝手にこさえて一緒に遊ぶ‥という精神的な病である。エルウッドは大人であるが、正にこの症状に当てはまるような気がした。現に、彼はまるで子供がそのまま大人になったような純粋な人物で、人を疑うことをせず、自分に正直に生きている。まるで純真無垢な子供そのものである。元来、子供というものは欲望に忠実に生きる暴君だったりもするわけで、そう考えるとエルウッドが巻き起こすこの騒動はどこか屈託のない"子供の悪戯"のようにも見えてくる。
エルウッドを演じるのはJ・スチュアート。見えないハーヴェイを相手に演技をするのは骨が折れたろうが、飄々と演じて見せたあたりは上手い。バーの裏で過去を告白するシーンは今作一番の名演と言えるだろう。しみじみとさせられた。
本作には他にも様々な個性的なキャラが登場してエルウッドの巨大ウサギ騒動に翻弄されていく。中でも、主治医と看護婦のロマンスは中々味があって良かった。
オチについては色々と考えさせられた。先述の通り正常と異常の違いは紙一重である。だとすると、エルウッドのことを異常者扱いしていた人々が果たして正常な思考の持ち主と断言出来るだろうか?もしかしたら、狭量な視野しか持たない彼らの方こそ異常者なのではないか‥?そんな風に思えた。正常と異常の線引き。その曖昧さを観客に考えさせるような作りになっている。