結構きついネタもあるが中々楽しめるロマンス映画。パリのイメージが変わるかも?
「パリ、恋人たちの2日間」(2007仏)
ジャンルロマンス
(あらすじ) ニューヨーク在住の女性写真家マリオンは、恋人でインテリアデザイナーのアメリカ人・ジャックとヨーロッパを巡る旅に出ていた。アメリカに戻る前に二人はマリオンの故郷パリに寄ることにした。久しぶりの帰郷に喜ぶ家族。恋人ジャックのことも歓迎した。しかし、ジャックは文化の違いもあり何だか居心地が悪くなってしまう。更に、マリオンの部屋から他の男のヌード写真が出てきて‥。こうして二人の関係は次第にギクシャクしていく。
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(レビュー) 交際2年目の男女が破局を迎えていく様子を、シニカルなジョークと軽快な演出で綴ったロマンス作品。
製作・監督・脚本・編集・音楽・主演はJ・デルピーが一人で担当している。今作はそれまで女優一本でやってきた彼女の初監督作品である。見せるべき所はきちんと見せ、流すところは適度に流し、中々の演出手腕を見せている。
まず、今作の魅力は何と言っても脚本ではないだろうか。まるでW・アレン作品のような機知に富んだ会話劇が楽しい。
元々、デルピーはR・リンクレイター監督の「ビフォア・サンセット」(2004米)で主演兼脚本を務めている。「ビフォア~」はリンクレイターや共演したI・ホークとディスカッションしながらの即興的にシナリオを作り上げていったそうである。3人の共同なので負担は分散される。しかし、今回は彼女が一人で製作から編集まで全てをこなしている。過去の経験があるにせよ、オールマイティに挑む彼女の姿勢は"ホンモノ″と言う事が出来るのではないだろか。以後も、デルピーは監督・脚本・主演の映画を立て続けに撮っている。
会話の中にはブラックな下ネタも多数登場してくる。このあたりは見る人を選ぶかもしれないが、個人的にはそこも含めて楽しめた。
中にはフランスに対する辛辣な揶揄もあるが、これはデルピーの本音なのかどうか‥。フランス人である彼女が自国をこんな風に見ていたとしたら、これは興味深い。それまで外国で活躍することが多かった彼女だからこそ、客観的に自分の国を見つめることが出来るのだろう。
例えば、パリと言うと小粋なレストランや高級ブランド店が建ち並ぶお洒落な街‥というイメージがあるが、今作にはそういった風景は余り登場してこない。むしろ、猥雑な下町風景が登場してくる。
マリオンの父親の画廊などはその最たるものだろう。裏道にひっそりと佇む小さな店で、中に展示されているものは男女の性交をもじったようなシュールな絵ばかりである。それを"しまむらルック″な人達がアートを分かったような気で鑑賞している。
また、マリオンがジャックに案内する市場も、衛生的に問題があるのでは‥と心配になるほど雑然としている。売られている物も少々グロテスクだ。
マリオンの実家も同様、壁にはアオカビがこびりつき、水道管がすぐに破裂して床が水浸しになるようなボロ屋である。
もちろん、中には優雅な暮らしを送っている人もいるだろう。しかし、本作は敢えてそうした人々よりも庶民の暮らしぶりを見せることで、皆が知らない"裏のパリ″を積極的に描こうとしている。こうした視点でパリを切り取ろうとしたデルピーの狙いは、作品に"新鮮さ″をもたらしている。
物語はジャックの視座で進行する。マリオンの過去には様々な恋があった。それを知った彼はマリオンに見切りをつけようとする。そして、彼女に対する憎悪は、彼女の周囲、ひいてはパリという街、フランスという国までにも膨らんでいく。二人の運命やいかに‥という所が見所である。
ただ、会話の妙は申し分ないが、ストーリーその物は決して動きがあるわけではない。至ってシンプルなドラマなので、あくまで"小品"というスタンスで見てあげるべきだろう。
また、冒頭とラストはマリオンのモノローグによって表現されている。全体がジャックの視座で進行するのに、ここに視座の不整合を感じてしまう。ジャックに同情を与えるように作られているのか?それともマリオンの心情に寄って作られているのか?曖昧な感じがした。マリオンの心情で締め括るのであれば、そこに見る側が自然にフィットできるようなドラマを組み立てる必要があっただろう。しかし、今作はそうは作られていない。彼女がどうして最後にああいう心理に至ったのか?その理由が納得できるような筋道が劇中に欲しかった。
尚、最も笑えたのは体温計のネタだった。そんなバカな‥と思ってしまうが、マリオンが言うと何だか本当のことのように思えてしまう。それと、風船のネタも笑えた。
一方で、人種差別や少女買春等、笑うに笑えないネタも登場してくる。フランスは歴史的に見ても基本的人権の先陣を切った国というイメージがあったが、そのイメージが見事に覆された(苦笑)。