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ゼロ・ダーク・サーティ

ビンラディンを追いかけた女性捜査官の執念に目が釘付け。
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「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012米)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 9.11以降、ビンラディンの行方を掴めずにいたCIAは、新人女性捜査官マヤをパキスタン捜査支部に送り込む。彼女はそこで、9.11事件に関与したテロリストに対する拷問を目の当たりにして不安と恐怖を覚えた。やがて、テロリストの口からビンラディンの連絡係の名前を聞きだすことに成功する。早速、彼の居所を突き止めようとする捜査チーム。しかし、彼の足取りは中々掴めず、その間もテロは各地で続発しマヤの身辺でも起こった。次第に捜査への執念を燃やしていくマヤ。そんな中、捜査支部に1本の密告映像が送られてくる。それを手がかりに同僚のジェシカが動くのだが‥。
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(レビュー)
 ビンラディンを追いかけるCIA女性捜査官の10年に渡る戦いを、ドキュメンタリー・タッチで描いたサスペンス作品。

 監督は「ハート・ロッカー」(2008米)で女性初となるアカデミー賞監督賞を受賞したK・ビグロー。元々、骨太なアクションを撮らせれば随一の女流監督である。本作のクライマックスシーンにその資質が伺える。息詰まるようなスリリングな演出に見入ってしまった。2時間40分を超える長尺を、一寸の気も休まらない圧倒的な筆力で描き切った所は見事である。

 マヤの捜査は様々な"事件″によって困難を極めていく。中々口を割らないテロリストに対する取り調べ、テロとの遭遇、同僚の非情な運命、上司との軋轢、情報のミス、政治事情による方針転換等、様々な"事件″が彼女を精神的に追い詰めていく。その姿を見ているとこちらまでヘトヘトになってしまうが、この執念こそが本作の最大の見せ所である。その過程でマヤは「変化」していく。冒頭の頼りない姿から、徐々に逞しく冷徹な捜査官に「変化」していくのだ。

 俺はこの「変化」に「狂気」を見てしまった。と同時に、この「狂気」には当時のアメリカも想像できる。
 思い起こせば、前作「ハート・ロッカー」の主人公も「狂気」に呑み込まれていった人物だった。爆弾処理という危険な仕事を淡々と機械的にこなす彼の思考は、正に戦争によって作り出された「狂気」と言えよう。そして、それはイラク戦争を起こしたアメリカそのものの「狂気」にも思えた。
 今作のマヤも「ハート・ロッカー」の主人公によく似ている。彼女は10年もの間、ビンラディンを執拗に追いかける。その姿には職務の域を超えた怨念、私怨と言ってもいい、偏執的な憎しみが感じられる。彼女はこの作戦によって次第に戦争の「狂気」に取り込まれていったのだと思う。
 ラストのマヤの表情が印象に残る。彼女のこの「狂気」は一体、彼女自身に何をもたらしたのだろう‥?そして、アメリカはこの戦争によって何を得て、何を失ったのだろう‥?深く考えさせられた。

 1本の娯楽映画として見た場合、本作は前作に比べるとエンタメ性は後退している。クライマックスと中盤にアクション的な見せ場があるが、それ以外は割と淡々としている。ただ、今回のストーリーは実際の取材に基づいて構成したそうなので、製作サイドは極力、作為を取り払う前提で作っているのだろう。確かに地味ではあるが、必要最低限のアクションに徹したこの姿勢は評価したいと思う。

 それに、よくよく見ると細かな演出もかなり考えられていると思った。たとえば、後半でビンラディンの居場所を突き止めたにも関わらず、上層部の許可が下りず中々作戦を決行できないというシーンが出てくる。普通なら何も起こらない退屈なシーンなのでダイジェスト風に描いてしまいたくなるところを、ビグローはマヤが上司のオフィスのガラス窓に日数を描く‥という行為で表現している。その方がドキュメンタルであるし、マヤの苛立ち、焦燥も前面に出てくる。これはほんの一例だが、こうした丹念な演出の積み重ねによって、本作のリアリティは保たれている。

 また、今年のアメリカ賞レースを大いに賑わした「アルゴ」(2012米)との比較で考えると興味深い。両作品とも事実を元にした作品であるが、「アルゴ」はサスペンス、アクションというサービス演出ををふんだんに盛り込んで作られた作品だった。一方で今作は事実を重視した結果、アクションの少ない地味な作品になっている。
 これはどちらが良い、悪いという問題ではなく、見る人がどこまでの作為を許せるか‥という所にかかってくるような気がする。特に、この2作品は実話を元にしていることもあり、どこまで脚色しているのか?という問題が付きまとう。実話の映画化はそのさじ加減が難しい。

 キャストでは、マヤを演じたJ・チャステインの好演を高く評価したい。監督の演出ありきだが、ここまでシリアスに徹した所に見応えが感じられた。

 ところで、これは完全に穿った見方になってしまうが、ビグローは彼女が演じるマヤのパワフルで男勝りな所に少なからず自己投影したのではないだろうか?監督業という仕事は未だに男性優位な世界である。その中で骨太な作風を貫き通す彼女であるから、本作のマヤに特別な「思い」が入り込んだ‥。そう想像してしまいたくなる。
[ 2013/03/06 01:18 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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