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しとやかな獣

異色のブラック・ホーム・コメディ。全てが斬新!
しとやかな獣 [DVD]しとやかな獣 [DVD]
(2012/11/16)
若尾文子、伊藤雄之助 他

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「しとやかな獣」(1962日)星5
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 高層団地住まいの前田家は、表向きはごく普通の中流家庭である。元海軍中佐の父、良くできた母、芸能プロダクションに勤める長男・実、作家の愛人をしている長女・友子。彼らは夫々に自分の好きなように生きていた。そして、他人には知られていないが、裏では相当羽振りの良い暮らしを送っている。実は、彼らは詐欺一家だったのである。ある昼下がり、くつろいでいた前田家に実が勤めている芸能プロダクションの社長が乗り込んでくる。何事かと思って聞いてみたところ、実が会社の金を着服したと言う。返済を要求された両親は、そんなはずはないと言ってしらを切って追い返した。そこに当の実が帰宅する。両親が訳を訪ねてみると、とんでもない事実が分かる。
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(レビュー)
 団地の一室を舞台にした異色のサスペンス・ホームドラマ。詐欺一家と周囲の人々のやり取りをブラック且つ軽妙に綴った怪作である。

 たった二日間の物語だが、多彩な人物が織りなす駆け引き、裏切り、騙し合いは実に濃厚な鑑賞感をもたらす。息をもつかせぬ展開の連続に魅了された。ほぼ悪人しか登場してこないドラマなので決して共感を得られるタイプの作品ではないが、そこをコメディに料理したことで、どこか屈託のないドラマとして見ることが出来る。原作・脚本は新藤兼人。このあたりは氏の手練だろう。洒脱な会話、人物の出し入れの上手さも光っていた。

 また、高度成長時代の象徴とも言える高層団地を物語の舞台に設定したことも注目に値する。大家族の崩壊と共に訪れた核家族化は、近隣住民との付き合い方を大きく変えてしまった。かつては近所全体が家族の集合体ような付き合いをしていたのだが、この頃からその関係は徐々に空疎化していく。当時のその風潮を表すものとして、この高層団地が存在しているような気がした。ちなみに、近隣住民との関係の空疎化、もっと言えば個人主義の台頭は、同年に製作された羽仁進監督作「彼女と彼」(1962日)にも如実に表れている。奇遇にも「彼女と彼」も高層団地を舞台にしたドラマである。新藤兼人も今作にそうした風刺的な意味合いを持たせようとした節が伺える。この特異な舞台設定に氏の鋭いアイロニーが感じられた。

 監督は川島雄三。彼の代表作と言えば、なんといっても異色の時代劇「幕末太陽傳」(1957日)が思い出されるが、本作もかなり風変わりなスタイルを持った作品である。

 まず、何と言っても目を引くのは様々に変幻する画面構図だ。上下左右、室内室外、時には物越しに覗き見するようなカメラアングルまで登場する。もはや確信犯的に流儀を破壊した画面パースは、一見して凡庸なホームドラマを実に奇怪なものとして見る側に提示してくる。この奇抜なセンスに彼の才気が伺える。
 色彩・照明効果も印象的に場面を盛り上げている。かなり狙いすぎな感じも受けるが、元々がワン・シチュエーションの寓話なのだからむしろ愉快に見れてしまう。
 音楽の使い方もユニークだった。歌舞伎とジャズを融合させたシーンは完全に人を食っているとしか言いようがない。唯一無二の感性と言っていいだろう。

 キャストもそれぞれに好演している。中でも芸能プロダクションの会計職員・幸江を演じた若尾文子のしたたかな演技には舌を巻いてしまった。本作はほぼ全員が悪人だが、彼女が最も腹黒く冷淡な人間として描かれている。女の武器を使って次々と男たちを虜にし、ケツの毛までむしり取るこの根性‥いやはや、見てて何と恐ろしく憎らしいことか‥。マスコミの悪評さえも自分に有利に働くと言う所は、さすがにどうだろう?という気がしたが、ともかくも彼女のしたたかな振る舞いは後半の大きな見所である。前田家の人びとも相当悪辣であるが、彼らはせいぜい団地の一室でブルジョワ気分に浸る程度だ。彼女に比べればまだまだ甘ちゃんである。

 映画は最後に夫々にとっての"皮肉的な結末″を迎える。誰も幸せにならないこのラストは相当衝撃的であるが、しかし翻って考えてみれば人間の悪心が導いた当然の結末という言い方も出来る。とりわけ、幸江にとっては実に気の毒な結末となっている。騙し騙される人間の愚かさが見事に表出したラストと言えよう。
[ 2013/03/20 01:20 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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