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サンダカン八番娼館 望郷

からゆきさんの壮絶な人生をドラマチックに綴った感動作。
サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]
(2004/11/26)
栗原小巻、高橋洋子 他

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「サンダカン八番娼館 望郷」(1974日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 女性史研究家の圭子は天草でかつて"からゆきさん″だった老女サキに出会う。サキにはたった一人の息子がいたが、彼は結婚を機に家を出てしまい疎遠となっていた。孤独なサキは圭子との交流に潤いを求める。その後、圭子は一旦東京に戻ったが、どうしても彼女のことが忘れられなかった。そして、からゆきさんだった頃の話を本に書こうと、素性を隠して再びサキの元を訪ねる。こうして二人の共同生活が始まるのだが‥。
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(レビュー)
 "からゆきさん"と呼ばれた女性の人生を感動的に描いた作品。同名のノンフィクション小説を名匠・熊井啓が監督した映画である。

 からゆきさんとは、19世紀後半に東アジア、東南アジアに渡って娼婦として働いた日本人女性のことである。
 映画は、からゆきさんだったサキの壮絶な人生を綴るパート、その話を取材する圭子とサキの交友を描くパート、そしてこの二つを現在の圭子が思い出とともに振り返るパート、3つで構成されている。時制を巧みに交錯させたシナリオは中々手練れている。圭子とサキの友情がノスタルジック、且つ感動的に盛り上げられている。

 映画前半は、サキの壮絶な人生を綴った過去パートを中心に展開されていく。時代は1907年、貧しい出自の少女サキは家族を養うためにやむなく女衒に売り飛ばされる。その後、ボルネオのサンダカンの娼館へ送られ客を取らされる。恋愛もしたことがない幼い彼女が、いきなり見ず知らずの現地の男に無理やり処女を奪われるシーンは衝撃的だった。想像を絶する屈辱と悲しみを、これでもかと言うくらい"ねちっこく"描写するので見ていかなり痛々しかったが、純真無垢な少女が一人前の娼婦になっていくことの説得力が感じられる。
 こうしてサキは娼館の一員になっていく。しかし、故郷に対する思いは強まる一方で、早く日本に帰りたい‥という一心で、彼女は積極的に客を取るようになっていく。しかし、なんという皮肉か、逆に娼館の暮らしにドップリと遣ってしまうことで、彼女の運命は悲劇的な方向へ向かっていく。日本に戻った彼女に対する仕打ちは余りにも無情で、見ていて心を痛めるしかなかった‥。

 ただ、正直な所、この娼婦時代編は今一つ感情移入するという所まではいかなかった。確かにドラマチックな半生だと思うが、女衒に売られた遊女のドラマとしてはよくある話だし、3つの時制を往来する構成上、どうしてもドラマが中断されてしまうため集中力が途切れてしまう。言ってしまえば、ダイジェスト風な作りなので入り込むほどの感動は得られなかった。

 逆に、映画後半を使ってじっくりと描かれる圭子とサキの交流パートには、かなり感情移入できた。
 孤独な老女サキは圭子の素性を一切聞かずに受け入れていく。隣近所に圭子のことを息子の嫁だと紹介していることからも分かる通り、彼女は息子夫婦から見捨てられた孤独を圭子との疑似母娘愛によって埋めようとしていたのだろう。サキにとっては娼婦時代など思い出したくもないし、語りたくもないはずだ。しかし、それでも圭子に傍にいて欲しかったのである。

 この物語は圭子の視点で展開されていくので、サキが圭子の正体をどこで知ったのかは分からない。ただ、一緒に過ごすうちに、彼女はそれに薄々勘付いているような節が所々で見受けられた。互いに素性を隠して共同生活を送るという所には、いわゆる"なりすまし”のサスペンスも感じられ、この交流は実に興味深く観ることができた。
 また、二人が"家族ごっこ”を演じていく所にはしみじみとした味わいも感じられた。特に、二人がサキのボロ家を改装するシーンは良かった。和気あいあいと障子や畳を替えていく姿が実に微笑ましく見れた。

 終盤では、そんな幸福なムードから一転、サキの"真実の吐露"が描かれる。ここには泣かされた。
 サキにとって圭子と過ごしたこの数日間はかけがえのない時間だったと思う。たとえ、それが自分の恥部を取材するために近づいてきた相手だったとしても、かりそめの家族を演じてくれたことにサキは感謝したかったのだろう。その気持ちが、この"真実の吐露"なのだと思う。あるいは、彼女自身の人生の清算、圭子に託した"遺産"という捉え方も出来るかもしれない。いずれにせよ、ここで描かれる二人の情愛には涙がこぼれてしまった。

 熊井啓の演出は実にエモーショナルである。そして、彼の演出に俳優たちも見事な熱演で応えている。
 特に、少女時代のサキを演じた高橋洋子の演技には驚かされた。童顔ながら実に堂々と濡れ場を演じて見せるので、かなりいけない物を見てしまったという感じに捉われるが、そこまで容赦なく追い詰めた熊井監督の演出には感服してしまう。氏の気概が感じられた。また、港に日本海軍が寄港して娼館がごった返すシーンも実にパワフル且つユーモラスで面白く見れた。

 一方、サンダカンの街のセットや一部のカキワリ背景には、若干の違和感を覚えた。これは美術の木村威夫の特徴だと思うのだが、リアルさを狙った背景というよりも寓話的詩情を忍ばせた美術となっている。熊井監督のリアリズムに寄った演出とは余り相性がいいと思えなかった。

 キャストでは先述の高橋洋子の力演、それに晩年のサキを演じた田中絹代の演技も忘れがたい。尚、本作が田中絹代の遺作となる。孤独な老女を、時に静々と、時に快活に演じ、本作でベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞した。個人的には、圭子との別れを描く終盤の演技が最も印象に残った。正に女優人生の集大成といった感じで心揺さぶられた。
[ 2013/03/27 01:25 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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