fc2ブログ










世界にひとつのプレイブック

ちょっぴり毒があるが後味爽快なラブロマンス。
pict187.jpg
「世界にひとつのプレイブック」(2012米)star4.gif
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ 
(あらすじ)
 妻の浮気現場を見て傷害事件を起こしたパットは、躁うつ病と判断されて精神病院で刑期をつとめていた。ようやく退院した彼は、友人の退院祝いのディナーに招かれる。彼はそこで友人の義妹のティファニーを紹介される。ティファニーも夫の死のショックを引きずっていた。二人は一目で惹かれあうが、パットはどうしても元妻ニッキのことが忘れられなかった。ティファニーの誘いを拒みながら彼は徐々に病気を再発させていく。
映画生活

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ



(レビュー)
 結婚に躓いた男女の恋をシニカルなタッチで描いたラブ・ストーリー。

 監督・脚本は異才デヴィッド・O・ラッセル。彼の作品は以前に「スリー・キングス」(1999米)「ザ・ファイター」(2010米)を紹介した。彼の作品の特徴は、少々毒が効いていることである。ただ、前作「ザ・ファイター」は紆余曲折あっての監督抜擢だったので、どちらかと言うと請負い仕事だったような面があり、それゆえ彼らしさが余り感じられない作品だった。彼の本来の作家としての資質はデビュー作「アメリカの災難」(1996米)や豪華キャストを揃えながらアメリカで大コケし、以後映画界から遠ざかる羽目になってしまった「ハッカビーズ」(2004米)に見ることが出来る。言ってしまえば、“精神的な疾患を抱えた人間”が“ドツボにはまっていく様”を描くのがこれまでのパターンなのである。今回は彼自身がシナリオを担当している。そして、主人公カップルが共に精神的な病を抱えている。そこから考えれば、本作は初期ラッセルのテイストに戻ったと言う事ができよう。

 もっとも、今作は彼のオリジナル作品というわけではない。実は原作付きの物語である。原作は未読なのでよく分からないが、見終わった後には随分とストレートでクラシカルなラブロマンスという印象を持った。パットの暴走にいかにもラッセルらしい独特の毒気は見られるものの、これまでの作品に比べると随分とアク抜きされている。
 尚、今作は本国で大ヒットを記録し各賞レースでも注目された。ちなみに、アカデミー賞では作品賞他、8部門でノミネートされた。おそらくだが、アク抜きされたことが、良い意味で万人向けの“見やすさ”に繋がったのだろう。これはあくまで想像だが、オスカーで注目された前作あたりからラッセルの中で映画作りの方向性が変わってきたのかもしれない。

 そして、今回ラッセル監督が一番変わった思えるのは、クライマックスの描き方である。ここは観客の要望に応えるかのごとく、実に爽快にまとめられている。悪く言えば予定調和ということになるが、このポピュラリズムは決して嫌いではない。俺はラッセルのことだから最後まで何かどんでん返しがあるんじゃないかと読んでいたのだが、意外に素直な作りになっていたので逆に驚かされたくらいである。これまでの毒が薄まってしまったのは少々残念だが、こういう爽快な後味も中々良いと思った。

 ただ、クライマックスの父親のセリフだけは過剰な感じがして受け付けがたかった。あそこはアイコンタクト程度で良かったのではないだろうか‥。少しクドく感じられた。
 また、欲を言えば序盤のドラマにもう少し工夫が欲しかったかもしれない。反復シーンが目につくのでどうしても淡泊に写ってしまう。例えば、ジョギングと病院仲間ダニーの登場は複数回登場するが、これはいくらなんでも無頓着な反復である。もう少し変化が欲しい。

 逆に、同じ反復演出でも、カメラ小僧や警官のクダリはコメディとして上手く機能していると思った。
 また、パットの精神疾患を回想で簡潔に説明した構成も中々手練れている。このあたりの演出は手際が良いと思った。

 劇中では手紙が重要な役回りを果たす。この使い方も実に上手かった。確かに想定内なのであるが、そこに込められたティファニーの一途な思いにはホロリとさせられてしまった。

 考えてみれば、ティファニーは常にパットの傍に寄り添う"セラピスト”だったように思う。ジョギング、レストランのデート、ダンスのレッスン、常に彼女はパットの先に立ちイニシアティブを執っていた。優柔不断で情けないパットにとって、ティファニーは頼りになる存在だったに違いない。この交流を通して彼はティファニーに救われたのである。

 ただ、映画は見方を変えれば180度印象が変わるもので、これをティファニーの目線で見た場合、また違ったドラマも見えてくる。
 例えば、初めて出会った夜にティファニーはパットに迫っている。今までの男は大抵それに乗ってきた、この男もきっとそうだろう‥と彼女は高をくくる。しかし、パットはそれに乗らなかった。妻を裏切れないと思ったのである。ティファニーからしてみれば、今までの男と違うわ‥となる。前科者で精神疾患者でどうしようもないダメ男だけど、この男には他の男には無い純真な愛(それがたとえ別れた妻に対する愛だとしても)があるわ‥と感じ入ったに違いない。そして、彼女はパットの壊れた愛を治療する中で、自らの母性を目覚めさせ、彼女自身の過去のトラウマをも払拭していくのだ。

 こういう風に見方を変えると、これはティファニーの再生ドラマとも言える。本作はパットの視座を中心にした映画なので彼の再生ドラマのように映るが、実はティファニー自身も彼に出会うことで救われていったのである。

 キャストではティファニー役を演じたJ・ローレンスの好演を評価したい。「ウィンターズ・ボーン」(2010米)の印象がいまだに脳裏の残っているが、その時の幼い風貌から一転、今回は若い未亡人、しかも誰とでも寝るビッチという役柄に挑戦している。少しふっくらした印象だが、劇中のセリフで精神薬の副作用について語っているので敢えて体重を増やして役作りしたのかもしれない。彼女は駆け出しがシリアスな作品だったのでそれで押し通すのかと思いきや、本作のようなコメディも中々上手く演じている。今後も要注目の女優である。

[ 2013/04/06 02:26 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1098-0106c84f