エンタメ・ムービーとしてはよく出来ているが、真偽は個々の判断で‥。
「ザ・コーヴ」(2009米)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル社会派
(あらすじ) 和歌山県太地町で行われているイルカ漁を追ったドキュメンタリー映画。
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(レビュー) かつての人気テレビ番組「わんぱくフリッパー」でイルカ調教師をしていたリック・オバリー氏が、撮影クルーと共にイルカ漁の実態を暴いていくドキュメンタリー。
アメリカのアカデミー賞でドキュメンタリー賞を受賞をした作品である。しかしながら、日本公開時には、太地町の漁師を悪意的に描いている、内容に偏向にあるといった声が上がり様々な物議をかもした。果たして本当にそのような内容になっているのか?ぜひこの目で確かめたいと思い鑑賞してみた。
まず、実際に見て驚いたのが、オープニングにLIONSGATEという名前が出たことである。この配給会社はジャンル映画でのし上がってきたカナダの映画会社である。主にホラー映画などを配給している。何となくこの時点で嫌な予感がしたのだが、実際に本編が始まると想像していた通りの作りになっていた。つまり、サスペンス、ホラータッチが入り混じったエンタメ優先な作りになっているのだ。これは純粋にドキュメンタリーと言っていいのだろうか‥そんな疑問を拭えなかった。
例えば、リック氏が撮影隊と一緒に変装して太地町に潜入する冒頭のシーン。リック氏は「私はこの町で殺されるかもしれない‥」などと呟きながら登場する。これが必要以上に不穏な空気感と危機感をまきちらす"演出″のように感じてしまった。実際に彼がそのような危険に晒される場面はこの映画には登場してこない。
その後も撮影クルーは地元漁師や警察と対立しながら危険区域への侵入を試みたり、隠しカメラ、暗視カメラを使って撮影を敢行していく。この様子がこれまた過度な"演出″によって描写されている。これではさしずめ、秘境の地にまだ見ぬ怪物を求めて足を踏み入れる川口探検隊そのものである。エンタメに特化した“見世物”のように写ってしまった。
そもそも、本作には客観的なデータが余りにも不足している。研究者や行政、公式的な統計といった資料が全くと言っていいほど提示されない。そればかりか、中にはとんでもない論法を持ち出してイルカ漁の危険性を提唱している。
例えば、イルカの肉に含まれる水銀の人体への影響を水俣病の記録映像に重ねて語っているが、これは同列に扱うべき問題ではない。この二つは量や質においてまったく異なるケースである。これでもってイルカ肉摂取の危険性を主張するのは、観客を混乱させるだけである。
ドキュメンタリーとは客観的な視点が伴って初めて成立するものだと思う。伝統的に続くイルカ漁にどんな意味があるのか?良いか悪いかは別として、まずはそこをきっちりと描いていくのが筋道ではないだろうか?
昨今、M・ムーア監督の登場によって、ドキュメタリー映画にもエンタメ性が必要とされる時代になってきていることは分かる。ドキュメタリーにだって作り手側のメッセージがある。ある程度恣意的になってしまうのは仕方尚ないことだ。しかしながら、そのメッセージに一理ある‥と思わせる努力は疎かにしてはならない。それを怠ってしまうとドキュメンタリーではなくバラエティ番組のようになってしまう。
ただ、この映画がすべからくお粗末な出来だと言うつもりはない。エンタメとして割り切ってしまえば、ラストなどは戦慄的である。それこそLIONSGATEお得意のホラー的興奮は存分に味わえる。
また、自分はイルカを食べること自体、今まで知らなかった。その事実を教えてくれたというだけでも今作を観た意味はあったように思う。知らないことを知れるというのもドキュメンタリー映画の意義だろう。だから、内容の偏向はあるものの一見の価値はある作品だと思った。どう受け止めるかは個々の問題である。
それよりも、この作品がアカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞してしまったという方が問題である。果たして、協会員はこの映画をどこまで真実と受け止めたのだろうか‥。そこが気になってしまう。
尚、IWC(国際捕鯨委員会)の会合風景が出てくるが、これも普段では中々見れない映像だと思う。日本と反捕鯨国の鍔迫り合いが生々しく切り取られており興味深く見ることが出来た。