fc2ブログ










リンカーン

信念を貫くことの大切さを教えてくれる政治ドラマ。敢えて今製作された意味を噛みしめたい。
pict189.jpg
「リンカーン」(2012米)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 南北戦争末期、任期の2期目を迎えたエイブラハム・リンカーン大統領は、奴隷制度の撤廃を定めた合衆国憲法修正第13条の成立のための票集めに取り掛かっていた。しかし、野党の民主党の牙城は固く閉ざされ、共和党の中にもスティーブンス率いる急進派が台頭しており中々すんなりとは通らなかった。一方、悪化の一途をたどる戦況を憂う一派は早く停戦締結をと声を荒げた。そして、ついに南軍から和平交渉の使節団が送り込まれてくることになった。リンカーンは一刻も早く憲法改正を急がねばならくなる。
映画生活

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ



(レビュー)
 アメリカ史上最も愛された大統領、エイブラハム・リンカーンの業績を描いた伝記映画。黒人奴隷の撤廃を定めた憲法修正案の成立に執念を燃やしていく姿をスリリングに描いている。監督はS・スピルバーグ。

 歴史の一幕を見せられた思いである。正直、黒人奴隷の解放にこうした政治家たちの働きがあったことを詳しくは知らなかった。それを知ることが出来たというだけでも見た価値があったように思う。
 また、このドラマが投げかけてくるメッセージにも深い感銘を受けた。果たして、現実に彼ほどの信念を貫ける政治家はいるだろうか?忍耐強く戦える政治家はいるだろうか?そんなことを考えさせられた。

 スピルバーグらしいサービス精神に特化した作りも大変親しみやすい。
 まずは何と言っても、議会の票集めに奔走する政治家たちの裏工作、駆け引きといったサスペンスが楽しめる。
 憲法改正には2/3以上の議員の賛成票が必要である。しかし、上院は通過したものの、下院の賛成票が足りなくてリンカーンは頭を悩ます。買収を好まない彼は、ロビイストを使って反対派の民主党議員にポストをちらつかせて賛成票に投じるように説得していくのだが、これが中々思うようにいかない。
 また、共和党の中には、黒人奴隷の解放だけでは真の自由とは呼べない。黒人にも白人と同様に参政権を付与せよ‥という急進派もいる。彼らの賛成票も取り付けたいのだが、急進派のリーダー、スティーブンスは老齢な政治家で中々首を縦に振ってくれない。こうした多数派工作の過程は政治サスペンスとして中々スリリングに出来ていて、終始面白く見ることが出来た。

 もう一つは、これもスピルバーグの“お家芸”と言えば良いだろう。差別への憎しみ、人間の普遍的平等といったヒューマニズムの啓蒙である。激しい差別に耐えながら果敢に生き抜いた黒人女性の人生を堂々と謳い上げた「カラーパープル」(1985米)。ナチスのユダヤ人虐殺という歴史的悲劇の裏に咲いた軌跡を描いた「シンドラーのリスト」(1993米)。こうした過去作からも伺えるスピルバーグの博愛主義は、今回も黒人奴隷解放というドラマに集約されている。とりわけ、クライマックスの採決のシーンなどは、実にカタルシス満点に盛り上げられている。少し大仰な感じもしたが、これこそがスピルバーグがこれまで唱えてきたヒューマニズムであろう。

 本作は歴史の一幕の舞台裏を照射した価値ある1本だが、同時にただの頭でっかちな社会派作品ではなく、観客の琴線に触れるサスペンス、感動といったエンターテインメントを巧みに配しながら上質な娯楽作品として仕上げられている。このあたりの上手さは流石はスピルバーグで、その手腕は評価されてしかるべきであろう。

 尚、本作で一番ぐっと来たのは、リンカーンの後ろ姿を捉えた演出である。南軍の使節団の来訪に電報で支持を伝える中盤のシーン。愛用の手袋を捨てて公邸を去って行く終盤のシーン。いずれも立ち去るリンカーンの背中に戦う男の哀愁を見てしまう。
 また、スティーブンスの帰宅シーンにもぐっと来てしまった。いかにも一仕事終えたオヤジの安らぎの一時と言わんばかりで、味わい深い。ここにも戦う男の哀愁が感じられた。尚、このシーンで彼が何故黒人の人権に強くこだわったのか?その理由も判明する。その告白にもしみじみとさせられた。

 キャストでは、リンカーンを演じたダニエル・ディ=ルイスの演技が印象に残った。本作で彼は史上初の3度目のアカデミー賞主演男優賞を獲得している。果たしてリンカーン本人の話し方などは一切不明だが、少なくとも外見上は完全に成りきっての演技である。これは見事であった。
 彼の妻を演じたS・フィールドの好演も評価したい。特に、パーティー会場でのスティーブンスとの対話、愛する息子を戦場へ送り出さないでと夫に懇願するシーン。このあたりが目を引いた。ここしばらくスクリーンから遠ざかっていて余り見かけることが無かったが、相変わらず上手い女優さんである。
 また、スティーブンスを演じたトミー・リー・ジョーンズの役回りも非常に印象に残った。

 本作で惜しいと思ったのは、リンカーンが余りにも立派過ぎて、いわゆる人間的な欠点が目立たないということだろうか‥。彼は妻や息子にとっては良き家庭人ではなかったことは確かである。おそらくそこが唯一の欠点になろうが、この映画は家族ドラマの部分が少し弱い。特に、息子との確執は描き不足で、ここを広げていければ、人間=リンカーンの側面をもう少し強く押し出せたかもしれない。
[ 2013/05/02 02:41 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1111-b81b6c5d