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ホーリー・モーターズ

カラックスの才気がほとばしった怪作。
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「ホーリー・モーターズ」(2012仏)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルファンタジー
(あらすじ)
 パリの早朝、実業家オスカーは愛する家族に見送られながらリムジンに乗って出勤した。ところが、行った先で彼はホームレスの恰好をして物乞いをする。その後、映画のモーションキャプチャーの全身タイツに着替えて立ち回りを演じた。その次は下水道に住む怪人に扮してファッション雑誌の撮影に乱入し、女性モデルを拉致する。オスカーは誰かの指示に従って次々と変身しながらパリの街を巡っていく。
映画生活

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(レビュー)
 一人の男が様々なキャラクターに扮装しながらパリを彷徨う一日の物語。

 監督・脚本は鬼才L・カラックス。盟友D・ラヴァンを主演に迎えて、自由奔放且つシュールに演じさせた実験精神溢れる寓話である。
 ドラマ自体を真面目に追いかけてしまうと、はぐらかされっぱなしで今一つ何が言いたいのか分からないが、カラックスの映画に対する”愛”は様々な形でラヴァンの身体を使って表現されており、ある種映画に対する彼の”思考”の集大成を見た思いがした。

 現に、この映画の中には、コメディ、サスペンス、ロマンス、パニック、SF、ヒューマン、アクション、ミュージカルといった様々なジャンルが詰め込まれている。オスカーは夫々のジャンルに合わせたキャラに扮しながら、パリのあちこちで事件を起こしていく。老婆からモーションキャプチャーのモデル、怪人、殺し屋、父親等、何でも演じてしまう所にラヴァンの器用さを見てしまうが、単に企画物という枠には収まらない奇妙な面白さも感じられた。それは全体を包みこむミステリである。この映画を1本のドラマとして見せているのは、彼は何者で何のためにこんな事をしているのか?という謎解きの面白さだと思う。

 何故オスカーはこんなことをとしているのか?それは中盤に登場する顔に痣がある男、終盤に登場する謎めいた女ジーンの存在から少しだけ分かってくる。しかし、これという答えは明確に導き出されない。ある程度仮説を立てながら、俺は次のように解釈した。

 この映画はパリを舞台にしたSFであり、映画という概念が無くなってしまった並行世界の出来事なのではないだろうか?映画は大衆の娯楽としてはすでに衰退し、日常の中に起こる事件が映画に取って代わる新たな娯楽になってしまった。つまり、現実と虚構の境界が取り払われてしまった世界なのではないか‥という風に考えた。かなり飛躍した世界観かもしれないが、現にオスカーが起こす様々な”事件”はまるで映画の1シーンのようである。彼は映画改め”現実”を演じるカメレオン俳優なのだと思う。

 また、本作はカラックス映画の集大成という感じもした。現に、自身の過去作のオマージュが所々に登場してくる。主演のラヴァンと言えば、当然カラックスの分身を演じたアレックス三部作が思い出される。今作にはそれを彷彿とさせる場面が幾つか見つかる。長編監督デビュー作「ボーイ・ミーツ・ガール」(1983仏)はジーンとの出会いに、「汚れた血」(1986仏)は冒頭の飛行機、暗視カメラのようなSFタッチなビジュアル等に見られる。「ポンヌフの恋人」(1991仏)はポンヌフ橋そのものが何度か登場してくるし、大道芸人たちも音楽を奏でながら登場してくる。また、東京を舞台にしたオムニバス作品「TOKYO!」(2008仏日韓国)に登場した怪人メルドが今作にも再登場する。こうした自身の過去作を再び取り上げることで、カラックスはこの作品を自分のフィルモグラフィー上の一つの区切りにしたいと考えたのかもしれない。

 但し、正直な所、オスカーが一番最初に扮した物乞いの老婆、所々で挿入される古い連続写真、ラストのリムジンのクダリは今一つピンと来なかった。もしかしたら、そこにも何かのオマージュが隠されているのかもしれないが、自分には理解できなかった。

 こうしたシネフィル的な要素が多分に入った作品なので、一見さんには少々厳しい映画であることは間違いない。ただ、挑発的で野心的なカラックスの“仕掛け”には改めて彼の才気を感じるし、そこが一番の売りの作品とも言える。カラックスのファンであれば、この挑戦を受けない手はないだろう。間違いなく楽しめる1本である。
[ 2013/05/09 01:31 ] ジャンルファンタジー | TB(0) | CM(0)

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