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江分利満氏の優雅な生活

平凡なサラリーマンのボヤキが面白く見れる。
江分利満氏の優雅な生活 [DVD]江分利満氏の優雅な生活 [DVD]
(2006/02/24)
小林桂樹、新珠三千代 他

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「江分利万満氏の優雅な生活」(1963日)star4.gif
ジャンルコメディ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 飲料メーカーの宣伝部で働く江分利は、郊外の社宅に老いた父と気立ての良い妻、小学生の息子と平凡な暮らしを送っていた。ある夜、飲み屋街で婦人誌の編集者と知り合い、酒の勢いで意気投合。何と小説を書くことになってしまう。彼は一介のサラリーマンならではの眼差しで、自分の半生を振り返っていく。
映画生活

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(レビュー)
 平凡なサラリーマンが自伝小説を書いて直木賞まで受賞してしまうコメディ作品。同名の実録エッセイを岡本喜八監督、井出俊郎が脚本した何とも奇妙な可笑しみをもった作品である。

 江分利満は「えぶりまん」と読む。英語にすると「Everyman」、つまり「普通の人」ということだ。その名の通り彼は見た目やライフスタイル、辿ってきた人生、全てにおいて平均的な男である。現在38歳で会社の社宅に父と妻、息子と住みながらローンの支払いに追われている。そんな彼は夜な夜な飲み屋街に繰り出してこう呟く。「つまらない人生だ‥」と。そして、なんという運命か、その呟きをたまたま聞いていた雑誌編集者から声を掛けられて、彼は小説家デビューすることになる。人生どこでどうなるか分からない。映画は彼の執筆に呼応する形でその半生が振り返られていく。

 尚、製作された当時、日本は高度経済成長期真っ只中だった。劇中であくせく働くサラリーマンたちの姿は、かなりカリカチュアされているが鋭い社会性が感じられた。社内での立ち回り方や隣近所との付き合い方、はたまた一家の大黒柱としての心構えなどといったサラリーマンの悲哀が江分利の目線で綴られている。要するにオッサンのボヤキなのだが、不思議とそのボヤキが苦にならなかった。その口調がどこかユーモアめいてるからだろう。本作はある意味で、時代の写し鏡のような映画である。

 岡本喜八の演出は軽妙にまとめられている。アニメーションや合成特撮、スローモーションなどを駆使しながら、日常風景をシュールに切り取り、エンタテインメント的な面白さが追求されている。

 最も可笑しかったのは、江分利の出勤風景だった。給料の大半を家具の購入、妻や息子の習い事などに持って行かれて、彼は着る物もろくに新調できない。せめての身だしなみと、とりあえずスーツだけはそれ相当の物を着て出かけるが、下着や靴下、その他諸々の外目に出ない持ち物は安物、払下げ、お歳暮の残り物といったもので間に合わせている。それを紹介するクダリが笑える。何とパンツ一丁で出勤する江分利のナレーションで語られるのだ。これはむろん妄想である。現実にそんなことはしない。あくまでアイロニーなのである。また、戦争の演習シーン、オフィスでの一人芝居も非日常的な演出で面白かった。

 一方、母の葬式のシーンには何とも言えぬペーソスが感じられた。江分利の父親は戦争特需で成り上がった事業家だったが、落ちぶれてからは酒とギャンブルに狂ってしまった。それを影から支えてきたのが母親である。その苦労を見てきた江分利は、全ての法事を終えて、一人遅い食事をとる時にふと涙を流す。江分利自身が語っているように、この涙は喪失感から出た涙ではない。母に苦労をかけた父に対する怒り、出来そこないの兄の能天気さに対する悔しさから出た涙なのである。実にしんみりとさせる良いシーンである。
 そして、普通の映画粗ここで終わって次のシーンに切り替わるだろう。ところが、岡本喜八はそうはしない。彼は悲しい場面を悲しいまま締めくくるのではなく、最後の最後に喜劇的なタッチを入れて見る側の意表を突くのだ。最後の「おかわり」のセリフ。これが秀逸だった。この悲喜の落差にまんまとやられてしまった。人間は残酷で奇妙な生き物である‥。そのことを実感させる名演出と言っていいだろう。

 残念なのは終盤だろうか。江分利のボヤキが余り面白くない。しかも延々と続くので少し退屈してしまった。江分利の戦中派としての憤りのアジテーションが強すぎるため押し付けがましく聞こえてしまった。彼の話にうんざりする社員達同様、自分も何だか酔っ払いの愚痴に付き合わされてるような感じがして白けてしまった。むろん、このシーンがあるから、一人たたずむ江分利のラスト・ショットが引き立つわけだが、余りにも間延びした演出は岡本喜八らしからぬ演出に思えた。

 キャストでは江分利を飄々と演じた小林桂樹の上手さが印象に残った。また、妻・夏子を演じた新珠美千代の健気さと明朗さも魅力的だった。他にも様々な個性的な俳優が登場してくるが、皆コメディライクな演技で統一されていてよくまとまっている。
[ 2013/05/21 01:26 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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