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肉弾

シュールでユーモアに満ちた反戦映画の傑作。
肉弾 [DVD]肉弾 [DVD]
(2005/07/22)
寺田農、大谷直子 他

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「肉弾」(1968日)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 昭和20年、陸軍の幹部候補生、桜井は空腹に耐えかねて食料倉庫に忍び込んだ。そこを上官に見つかり、罰として衣服の着用を赦されないまま訓練を受けさせられた。理不尽な仕打ちに憤りを覚える桜井。彼は徐々に軍隊生活に虚無感を覚えていく。やがて広島に原爆が落とされソ連が参戦し戦況がひっ迫してくると、桜井を含めた候補生たちは特攻隊へ編入される。出発の前日、一日だけの外出許可を貰った桜井は、女郎屋で初々しいおさげの少女に出会い一目惚れする。そして「彼女のためなら死ねる!」と思った。翌日、彼は対戦車地雷を抱えて特攻する"肉弾″となった。敵の侵攻に備えて配備された海岸沿いで彼は一人の少年と出会う。
映画生活

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(レビュー)
 戦時中、日本ではバンザイ突撃という言葉があった。特攻兵が玉砕覚悟で敵に向って突っ込むのである。ここに登場する桜井も自らの”肉体”を”弾”に替えて敵の懐に飛び込む特攻兵、つまり“肉弾”となっていく。

 戦争末期の狂気を描いた反戦映画であるが、意外にも作りはユーモアに満ちていて楽しく見れる。これは監督・脚本の岡本喜八の作家性だろう。コミカルにあっけらかんと戦争の理不尽さ、無為を説いており、油断をしながら見ていると最後には強烈なメッセージに、のされてしまう。かなり大胆な作品である。

 主人公・桜井は、厳しい訓練に耐えながら軍隊生活を送っている普通の青年である。彼はこの戦争をどこか達観した眼差しで捉えている。生きるも死ぬもすべて運次第、今更じたばたしたって何も始まらない、戦争なんてバカバカしい‥と冷ややかに眺めているのだ。彼の決まり文句は「大したことはない、大したことはない」である。どんなに過酷な状況に陥っても彼はこの言葉で凌いでいく。
 しかし、後になって段々と分かって来るのだが、この「大したことはない、大したことはない」は彼の強がりの言葉だったのである。本当は厳しい訓練なんて逃げ出したい、戦場になんか行きたくない。そう思っていた。そして、自らの臆病さを隠そうとして、あるいは恐怖心を抑え込もうとして、無理してこの決まり文句で冷静さを装っていたのである。
 現に、映画は中盤から後半にかけて、彼の死にたくない、生きたいという本音が露わになってくる。

 まずは古本屋のシーン。桜井は、空襲で両腕を無くした店主から、小便をしたいので手伝ってくれと頼まれる。実に気持ち良さそうに小便をする店主を見て桜井は考える。小便するのってこんなに気持ちいものなのか?もし死んだらこんな風に気持ちいいことは二度とできなくなるよな‥と。ここは彼が初めて「死」を意識した瞬間のように思う。
 次に、女郎屋で出会った少女との初恋のシークエンスが描かれる。彼女との交際の中で、彼は更に「死にたくない」という気持ちが強まっていく。二人が雷鳴の中でびしょ濡れになりながら特攻ごっこをするシーンがある。桜井の中で確実に戦争の現実味が増した瞬間であろう。

 こうして徐々に桜井の中から「大したことはない、大したことはない」という言葉が消え、代わりに「怖い、死にたくない」という気持ちが強まっていくようになる。

 この古本屋のシーンにしろ、女郎屋のシーンにしろ、岡本喜八は実にあっけらかんと描いている。ここが彼の才覚であり今作の肝だと思う。これから死ににゆく者とは思えぬほどに桜井の笑顔は輝きに満ちており、だからこそ戦争の悲惨さ、恐怖が逆説的に汲み取れるのだ。
 尚、女郎屋の少女の正体には謎があって、この見顕しは人を食っていて面白かった。

 後半は、ひたすら桜井の生への渇望、死に対する恐怖という葛藤を軸に展開されていく。反戦メッセージも非常にストレートに発せられている。
 例えば、海辺で出会った少年と彼の兄とのエピソードには、桜井の戦争に対する怒りがストレートに出ていると思った。前半の彼ならおそらく少年たちを見て「大したことはない、大したことはない」と言って傍観していただろう。しかし、今や「怖い、死にたくない」と思う彼には放っておけなかった。

 そして、クライマックス以降は、桜井の飽くなき生への執念がそれこそサバイバル・ドラマのような過酷な状況の中で綴られていく。ここでは死の意味にまで言及され、軍の命令で死ぬのか?愛する人のために死ぬのか?という死生観。言い換えれば、無為な死or意義のある死という究極の選択にまで櫻井は追い詰められていくようになる。ここまでくると、もはや冷めた態度を取っていた序盤の面影は微塵も感じられない。

 本作は、1人の特攻兵が追い込まれていく中に、戦争の無為、怖さを説いた反戦映画である。ただし、作りは非常にユーモラスで、岡本喜八という作家性が前面に出た傑作だと思う。これまでに彼の作品を続けて取り上げてきたが、その中では最も印象深い作品となった。

 但し、一つだけ気になった点がある。それは、後半に登場する赤十字の女性達のエピソードである。この映画は後半に行くにつれて徐々に寓話的なトーンが混入されていくのだが、彼女たちの存在もどこか非現実的である。確かに奇抜で面白いが、しかし物語上の存在意義は余り感じられない。また、その意味する所も今一つよく分からなかった。ここは不要だったのではないだろうか。

 キャストでは主演の寺田農の演技。これに尽きると思う。減量した役作りは正に熱演と言っていいだろう。食糧難の状況にあった日本軍の実情をリアルに体現していると思った。
 尚、彼は本作で自分のことを人、牛、豚、神、鼠、モグラと称している。この形容も戦争の狂気をユーモラスに例えた言葉だと思った。つまり、人にあって人に非ず。人からどんどん遠ざかっていく我が身を称しての人、牛、豚~なのだろう。この例えは最終的に映画のタイトルである「肉弾」に繋がっていくのだと思った。実に皮肉的な例えである。
[ 2013/05/23 01:20 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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