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美しい夏 キリシマ

美しい自然映像と戦争の残酷さを対比しながら描いてみせた反戦映画。
美しい夏 キリシマ [DVD]美しい夏 キリシマ [DVD]
(2004/08/27)
柄本佑、原田芳雄 他

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「美しい夏キリシマ」(2002日)星3
ジャンル戦争・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 1945年、宮崎県の霧島。中学生の少年・康雄は祖父母の家で療養生活を送っていた。彼には戦争による深い心の傷があったのだ。しかし、祖父の重徳は戦争という現実から目を逸らす康雄を非国民と詰った。家には二人の奉公人が働いていた。康雄と同じ年のなつと年上のはるである。重徳ははるに縁談の話を持ってくる。相手は戦争で片足を失った帰還兵だった。はるは意を決してその縁談を受け入れる。一方、なつは複雑な家庭の事情を抱えていた。父が戦死し、母が地元の兵隊と度々関係を持っていたのである。なつは父の位牌を持って家を出てしまう。
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(レビュー)
 戦争の直接描写無しに反戦を説く黒木和雄監督のライフワーク、いわゆる戦争レクイエム三部作の2作目に当たる作品。尚、1作目は長崎の原爆を題材にした「TOMORROW 明日」(1988日)、3作目は広島の原爆を題材にした「父と暮せば」(2004日)である。

 実は、黒木監督自身、中学時代に勤労動員の経験があり、空爆で級友を亡くした過去を持っているそうである。それを知ると、その経験が今作の主人公・康雄に投影されているのだな‥ということがよく分かる。康雄も目の前で友人を亡くし心に深い傷を負っている。戦争という大きな波に巻き込まれながら自分自身を見失っていく姿は黒木監督自身の姿なのかもしれない。

 実に不憫な康雄であるが、彼は奉公人のなつと交流することで次第に閉ざしていた心を開いていくようになる。そして、このなつという少女も複雑な問題を抱えている。それは康雄と同様、家庭環境の問題である。
 この映画はそんな二人の繋がりを中心に、周囲の人間模様を交えながら一種群像劇のようなスタイルで進行していく。

 厳格な元軍人で村の実力者、康雄の祖父・重徳のドラマ。なつと一緒に奉公する、はるの結婚生活を描くドラマ。死んだ夫を忘れようと彼の親友と度々関係を持つなつの母のドラマ。重徳の家の食料倉庫を荒らす不良兵士のドラマ。重徳の三女と特攻隊員のロマンス。実に多彩なドラマが登場してくる。どれも戦争に翻弄される人々の運命が克明に描かれており、そこから黒木監督が描きたかった反戦というメッセージが強く感じられた。

 ただ、メッセージは十分こちら側に突き刺さってくるのだが、さすがにこれだけたくさんおエピソードが詰め込まれると映画全体は散漫な作りになってしまう。エピソードの取捨選択をもう少し整理して欲しかった。そうすれば作品自体のパワーはもっと増したろう。

 ラストは色々と考えさせられた。康雄の慟哭の意味する所。そこを探ってみると面白い。
 康雄は戦死した友人から借りたキリストの絵と聖書を大切に保管していた。それを見て彼は神について自問したに違いない。この場合の神とは、キリストであり天皇陛下である。この二つを対置させたところが本作の肝だろう。

 キリストは磔にされた3日後に復活して神となった。一方の天皇陛下は、戦時下において日本国民から「神」のように言われていた。
 ここで康雄は疑問に思った。神とは一体何なのか‥と。そして「天皇=神」という価値観を否定する。彼の思想は、当時の風潮からすれば極めて禁忌的なものだった。現に康雄は祖父から非国民と罵倒された。しかし、思想というのは、その人にそれぞれ固有の物である。西洋の宗教に神を求め、天皇を神として認めなかった彼の主張は誰からも否定されるべきものではないだろう。そして、康雄は最後まで戦争に疑問を呈し、この信念を貫き通した。その姿は社会に抗したアウトロー然としており実に天晴に思えた。

 そして、この映画が実に冷静だと思うのは、彼のこの反戦思考を安易に肯定していない点である。彼がいくら反戦を訴えても戦争は止まらないし、キリストの絵と聖書を貸してくれた友人は生き帰ってこない。非情な現実を突きつけて終わるのだ。この虚無感、絶望感がラストの康雄の慟哭には込められているのだろう。見ていて実に切なくさせられた。

 今作は映像美も見所である。蝶が度々康雄の周囲を飛び回る光景は、まるで楽園を思わせる美しさだった。花や緑色の平原、川のせせらぎといった自然風景も美しく撮られている。こうした美観は戦争の残酷さをかえって際立たせたりもしている。
 特に、康雄が母の姿を幻視するシーンは白眉だった。幽玄的な雰囲気を漂わせた神秘的な光景に思わず引きこまれてしまった。

 演者陣はベテラン陣の起用が奏功し、全体的に安定したアンサンブルを見せている。
 ただ、康雄役の柄本佑は映画初出演・初主演である。そのプレッシャーが演技を固くしてしまっているように見えた。父・柄本明の息子ということで役者としての血筋は受け継いでいるのだろうが、さすがにいきなりの主役では荷が重すぎるという気がした。
[ 2013/05/29 00:54 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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