ノスタルジックで切なくなる青春ロマンス作品。
「コクリコ坂から」(2011日)
ジャンルアニメ・ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 東京オリンピック直前の横浜。高校生・海は、両親が残した下宿屋を切り盛りしていた。父は戦争で亡くし、母は仕事でいなかった。しかし、彼女はいつも明るく気丈に振る舞い、周囲の人々から愛されていた。ある日、学校で新聞部の部長・俊と運命的な出会いをする。俊は校舎の離れに立つ文化部の建物カルチェラタンの建物取り壊しの反対運動の主導部の一人だった。海は彼と交友を育むうちにその運動に参加していくようになる。
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(レビュー) 同名コミックをスタジオジブリが製作した作品。監督はこれが2作目の作品となる宮崎吾朗。脚本は父・宮崎駿が担当している。
宮崎吾朗の前作「ゲド戦記」(2006日)は余り芳しい評判を聞かなかったため自分は未見なのだが、今回の作品を見る限り彼の演出は言うほど酷いとは思わなかった。前作が一体どういう経緯で製作されどんな代物になっているのか分からないので何とも言えないが、宮崎吾朗の2作目は素直に面白く見ることが出来た。
特に、坂本九の「上を向いて歩こう」をバックに海と俊が自転車で二人乗りをしながら坂を下っていくシーンなどは、いかにも青春ドラマらしい清々しさ、開放感に満ちていて心温まった。また、様々な文化部学生たちが集うカルチェラタンの佇まいも悪くない。モブの動きが活気に溢れているのは、さすがにジブリと思わせてくれた。何となく宮崎駿作「ルパン三世 カリオストロの城」(1979日)のクライマックスのモブを連想した。実にユーモラスである。この温かみとユーモアこそジブリ作品の真骨頂だろう。
物語は古い青春ロマンスという体で、今見るとかなりノスタルジックに写る。敢えて現代にこのドラマを描いた製作サイドの狙いは果たして何だったのか?そこは少し疑問に思った。このドラマでは今の若い人に受けるとは到底思えない。これまで子供から大人まで幅広い層に支持されてきたジブリである。敢えて「三丁目の夕日」テイストの映画を作ったことで観客層を狭めてしまう理由が分からない。
これは想像だが、脚本を担当した宮崎駿、プロデューサーの鈴木敏夫のエゴが反映された結果なのではないだろうか。宮崎駿はともかく鈴木敏夫は団塊の世代、つまり学生運動真っ盛りの世代である。この映画に登場する学生集会や反権力的な闘争は、明らかに学生運動のそれに通じるものであり、そこに個人的な思いが反映されているのではないか‥と穿ってしまう。
もし、このノスタルジックな作品から普遍的なテーマを読み取るとすれば、それは元気がないと言われている今の若者たちに、熱き闘争に燃えていた当時の学生たちの姿を見せて、今自分たちが何をやるべきかということについて考えて欲しい‥という老婆心的なメッセージだと思う。恋に生きよ、大人たちの古い価値観を打破しろ‥というメッセージである。ただ、これも出過ぎるとかえって押しつけがましくなってしまう危険性がある。そもそもオッサンの独善的な説教ほど迷惑な話はないわけで、果たしてどこまで若者たちに受け入れられるのか‥。
しかし、ここまでネガティブな分析をしておいて何だが、今作は実際には劇場で公開された時にはヒットした。これまでのジブリ作品の興収に比べれば目劣りするが、それでもこの年の邦画第1位である。これは、純粋に若い男女のロマンスに感動したのと、ジブリブランドがまだ生きているという証なのかもしれない。