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赤い影

鮮烈な映像演出に見応えを感じる異色のオカルト作品。
赤い影 [DVD]赤い影 [DVD]
(2012/09/26)
ドナルド・サザーランド、ジュリー・クリスティ 他

商品詳細を見る

「赤い影」(1973英伊)star4.gif
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 古い教会の修復をしている建築士ジョンと妻のローラは、二人の子供たちとイギリスの田舎で幸せな暮らしを送っていた。ある日、娘が湖に溺れて死んでしまう。以来、ローラは精神を病んでしまう。ジョンは少しでも気晴らしになればと、ベニス行きの仕事に彼女を連れて行った。そこで二人は奇妙な老姉妹に出会う。盲目の妹は霊能力者で、ローラは彼女の言葉に促されて亡き娘の魂と交流していくようになる。
映画生活

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(レビュー)
 子供を失った夫婦が、盲目の老女に振り回されながらめくるめく迷宮世界に迷い込んでいく戦慄のサスペンス作。

 監督N・ローグの幻想的なタッチも相まって、何とも不思議な鑑賞感が残る映画である。
 N・ローグと言えば、元々は撮影監督出身の稀代のビジュアリストである。その独特の世界観はシュルレアリスティックでありながら、奔放に反復されるカットバック演出や強烈な色彩設計で陶酔的で耽美的な"美"も突き付けてくる。真似しようとしても中々真似できない独特の映像美学は唯一無二と言っていいだろう。

 例えば、今回で言えば、冒頭の娘が溺れるシーンが印象的である。美しい湖畔で戯れる赤いレインコートを着た娘と息子。邸宅で穏やかな一時を過ごすジョンとローラ。二つの温もりに満ちたシチュエーションをカットバックさせながら、次第に不穏な空気をまき散らし、ついには凄惨な光景に着地させる。この一連の映像コンテンポラリーには彼の映像感性がいかんなく発揮されている。赤色を大胆にピックアップした所も含め、彼の美学がとことん突き詰められているシーンとなっている。
 他に、ジョンたちがベニスの街で時々目撃する赤いコートを着た謎の影が、漆黒の暗闇にポカリと浮かび上がる映像も実に印象的だった。
 更には、驚愕のラストシーン。ここにもラジカルな映像作家N・ローグの才気が存分に感じられた。

 このように、映像に関しては、随所に印象的なカットがあり実に見応えが感じられた。
 ただし、幻想的な雰囲気を作り出そうとして注力しているシーンは別として、それ以外の日常のシーンについては全てにおいて完璧と言うわけではない。見ていて気になる箇所が幾つかあった。
 例えば、重箱の隅をつつくようになってしまうが、ローラと老姉妹がベンチに座って会話するシーンがある。ここはイマジナリーラインが不自然に感じられてしまった。
 また、序盤のジョンとローラのベッドシーンがやたら長く描写されているのも気になった。特段、美しくもエロチックでもないのに、これほど延々と描く必要があったかどうか‥?正直、冗漫に思えた。

 一方、ストーリーについては判然としない部分が多く、見ていて少し戸惑いを覚える個所があった。赤い影の正体や霊媒師の目的が釈然としないまま閉幕するので、ストーリーを重視する人にとっては何が何だかわからない‥ということになるだろう。ただ、これも敢えて理路整然としたドラマ構成をとらないことで、ジョンたちの体験を観客にも味あわせよう‥という狙いの元でやっているのだと思う。論理を無視したカオス的な世界観には、かえってホラー映画然とした魅力も感じられた。

 キャストは夫々に好演している。ローラ役のJ・クリスティの病んだ演技も見応えがあったし、彼女を支えながら自身も奇妙な世界に取り込まれていくジョン役D・サザーランドも良かった。そして、何と言ってもオカルトチックな雰囲気を漂わせた老姉妹の佇まい。これがこの映画に不穏な空気をまき散らしていて抜群の存在感だった。

 尚、原作はA・ヒッチコックの「鳥」(1963米)や「レベッカ」(1940米)などで知られるダフネ・デュ・モーリアの短編小説である。本作はどちらかという「レベッカ」に近いテイストの心理サスペンス劇だが、こと演出に関して言えば、ローグがスリラー映画の天才ヒッチコックに挑戦を挑んでいるような節が各所に見て取れる。トリッキーな演出が満載なので、これを機に両監督のタッチを比較してみたくなった。
[ 2013/06/13 01:19 ] ジャンルホラー | TB(0) | CM(1)

大寅 結人です。

初めまして。大寅 結人です。
ブログ読ませて頂きましたのでコメントを残させていただきます。
[ 2013/06/13 20:03 ] [ 編集 ]

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