D・アルジェントの演出が冴えわたるホラー作品。
「4匹の蝿」(1971伊)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 人気バンドのドラマー、ロベルトは、最近サングラスをかけた不審な男に付きまとわれていた。ある夜、とうとう彼はその男を追いかけて問い詰める。ところが、ちょっとしたイザコザから誤って男を殺してしまった。その場を仮面をかぶった謎の人物に目撃されてしまう。以来、ロベルトは謎の人物から脅迫を受けるようになる。
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(レビュー) 人気ミュージシャンが殺人事件の渦中に巻き込まれていくスリラー映画。
監督・脚本はイタリアン・ホラーの至宝D・アルジェント。後に「サスペリア」(1977伊)のヒットで一躍ホラー映画界の雄となっていくが、初期時代の今作にも緊張感を漂わせた非凡な演出センスの片りんが見られる。グロ描写はほとんど出てこないが、それでも緊張感を強いる空気作りは流石にアルジェント!と思わせてくれた。
特に、地下鉄を舞台にした犯人追跡劇はスリリングで見応えがあった。また、ダリアの刺殺シーンは、少し変わった撮り方をしていて、ヒッチコックの「サイコ」(1960米)の影響が感じられた(意識しているかどうかは分からないが‥)。そして、なんと言ってもラストの超スローモーション!ここにはある種アーティスティックな美しさに溢れていて一度見たら忘れられない名シーンとなっている。これぞアルジェント美学の真骨頂だろう。
音楽はE・モリコーネ。どこか哀愁漂うスコアはホラー的とは言い難いが、こと緊迫感を大切にするアルジェントの演出と組み合わさると意外なほどマッチしている。ショッキングな怖さではなく静かな怖さが感じられた。
そして、今作には所々にユーモアも配されていて、こちらが作品を親しみやすくしている。その最たるは個性的なサブキャラ達である。おかまの中年私立探偵、ドジな郵便配達人等。こうしたサブキャラが作品にとぼけた味わいをもたらしている。中盤に登場する棺桶展示会なるブラックな舞台も、並みの監督では思いつかない発想だろう。これもユニークだった。
一方、ストーリーは若干ダレるのが難である。また、肝心のクライマックスで少し興が削がれてしまったのも残念だった。原因は犯人を特定する科学的トリックの稚拙さにある。殺された人間の網膜に死ぬ直前に目撃した残像が写り込む‥というのは、何だか嘘臭くて思えてならなかった。大体によって都合が良すぎる。また。この犯人は常人の振りをした異常者ということで、一体彼の中でどれほど切実な動機があったのかも、よく分からない。そのため、見終わった後には今一つ釈然としない思いが残った。
このように本作は後半にかけて色々と腑に落ちない点が出てきてしまう。ただ、アルジェントのサスペンス演出が堪能できるという意味では十分楽しめるので、ファンなら間違いなく一見の価値はある作品だと思う。