セリフを排した後半は手に汗握る展開!
「アクエリアス」(1986伊)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 新人女優アリシアはホラー・ミュージカルのリハーサル中に足を負傷して病院に担ぎ込まれる。そこには精神異常の連続殺人犯が監禁されていた。脱走した殺人犯は彼女を搬送した劇団仲間を殺害して逃走する。その後、退院したアリシアは再びリハーサルに戻る。早速舞台に上がって稽古を始めると、そこで本物の殺人が起こってしまう。
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(レビュー) 舞台女優が脱走した連続殺人鬼と対決していくサスペンス・ホラー。
監督はD・アルジェントの下で長年アシスタントを務めていたミケーレ・ソアヴィ。ショック演出、美意識の高い色彩設計は流石に師匠譲りといった感じで、中々魅力的なホラー映画になっている。
今作は何と言っても、フクロウの面を被った殺人鬼の存在感。これに尽きるだろう。コミカルでありながら不気味でもあり‥、何とも例えようのない稀代のシリアルキラーになってる。見ようによっては、その造形に込められた意味についても色々と探究してみたくなる。フクロウは夜行性で単独で行動する動物である。また、古代ギリシャでは女神アテナの使いとして崇められていた。これらを考えると、この殺人鬼にはどこか神秘的で魔術的な雰囲気も感じられる。
さて、この殺人鬼は元々は精神病院からの脱走犯である。どうして殺人鬼になったのか?そのあたりの情報は一切出てこない。また、何か目的を持って殺人を犯しているようにも見えない。殺し方は残虐極まりなく、例えば電動ドリルやチェーンソーといった凶器で必要以上に残酷な殺し方をしている。もはや殺人を楽しんでいるかのようだ。更に、この殺人鬼が意味不明な所は、殺した死体をステージの上にオブジェのように飾って並べるのである。この異常な行動に何の意味があったのか?映画を観終わっても明確な答えは出されない。ただ推測するほかない。
俺は、この殺人鬼は単なる愉快犯だったのではないか‥と想像した。犯人の生い立ちは一切不明だが、おそらくここまで狂った凶行を何のためらいなく出来るというのは、相当孤独な人生を歩んできたからに違いない。また、フクロウの仮面を被って自己をアピールしたり、ステージに死体を並べて悦に入ったりしているのを見ると、相当自己顕示欲が強い人間のようにも思えた。この犯人は暗い闇の中で絶えず苦しんでいた孤独な人間だったのだろう。
いずれにせよ、フクロウ男が一体何者だったのか‥。謎めいたところがかえって恐ろしく感じられた。
ストーリーに関しては、B級然とした軽めなテイストが貫かれており、やや雑な印象を持った。例えば、連続殺人鬼が脱走したというのに、ただひたすら待機するパトカーの警官の愚鈍さと言ったらない。ここは大いなる突っ込み所だろう。また、ラストの死体のトリックも普通に調べれば警察は早急に気付くはずである。それがどうして分からなかったのか?こうした所に作りの甘さが感じられた。
一方、ソアヴィの演出は、先述のようにアルジェントのセンスを継承するようなところがあり、トリッキーさに溢れかなり見応えが感じられた。低予算という事を考えると、映画のシチュエーションを密閉された劇場にしたのも上手いアイディアだ。限定された空間が、逃げ場のない絶望感、切迫感、恐怖感を濃密にしている。特に、後半はほとんどセリフに頼らず、映像だけで描き切っており、そこに彼の類まれなるホラー作家としての才能が感じられた。迷宮めいた劇場内を、計算されたカメラワークで捉えたノンストップの追跡劇の見事さと言ったらない。また、シャワーシーンにおける覗き演出も見事だと思った。ヒッチコックの影響が感じられる。
難は安っぽいBGMだろうか‥。序盤のいかにも80年代風なノリのPV的映像もチープ極まりない。同じシンセ音ならゴブリンのような暗いトーンで責めて欲しかった。これではせっかくの緊迫感も台無しになってしまう。