FC2ブログ










嘆きのピエタ

ギドク節が完全復活!
pict194.jpg
「嘆きのピエタ」(2012韓国)星5
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 生まれてすぐに親に捨てられた青年ガンドは、借金の取り立て屋をしながら孤独な暮らしを送っていた。彼のやり方は実に非情だった。支払いが出来ない者には身体障害者になってもらい、その保険金で借金を取り立てていたのである。ある日、彼の前に母親を名乗るミソンという女が現れる。彼女はガンドに赦しを請うた。しかし、彼は気味悪がり彼女を邪険に扱った。それでもミソンは無償の愛を注ぎ続ける。やがて、ガンドは彼女を本当の母親として受け入れていくようになり‥。
映画生活

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ


(レビュー)
 ヤクザな青年と彼の母親を名乗る女の激しい愛憎ドラマ。

 監督・脚本は鬼才キム・ギドク。その映画人生は実に数奇と言わざるを得ない。彼は、日本人俳優オダギリジョーが主演したことでも知られる「悲夢(ヒム)」(2008韓国日)の撮影中に事故を起こし、それによって一時期完全に映画を撮ることが出来なくなっていた。その後、彼は山に籠ってしまう。そして、その様子を撮影したセルフ・ドキュメンタリー「アリラン」(2011韓国)を発表した。このドキュメタリー映画は未見なので、数年に及ぶ空白期間に彼の中で一体どういう心境変化があったのか?それは分からないが、こうして作られた最新作を見ると何となく想像ができる。
 要するに、彼は作家としてのアイデンティティーをこの間に再確認することが出来たのだろう。作品を作ることでしか自分の存在を証明できない‥ということを改めて悟ったのだと思う。現に今回の作品はそれを証明するかのような初期ギドク節が炸裂した傑作となっている。

 最近のギドク作品では「絶対の愛」(2006韓国日)を以前に紹介した。彼の演出の特徴、ブラック&シュール&シニカルが絶妙にブレンドされた快作で、終盤に炸裂する刺激的な演出などは、いかにもギドク節の真骨頂という感じがした。ただ、近年そのスタイルはどんどんラジカルな方向に主張されていく傾向にあり、例えば「弓」(2003韓国)や「うつせみ」(2004韓国)などは、俺のような凡人にはついて行くことが出来ず、若干引いた目線でしか見ることができなかった。いわゆる独りよがりなマスターべーション映画で、こちらとしても理解するのに苦心してしまうような所があった。

 この頃の迷走していた時代に比べれば、今作はかなり現実主義的で明快な作りに戻っている気がする。暗喩も程々に、地に足がしっかりと着いたサスペンス・ロマンスになっている。

 まずは、粗野で孤独なガンド、母を名乗りながら大らかな母性で彼を包み込むミソン、二人のサイコパスすれすれな言動に引き込まれた。二人の出会いは、普通に考えたらありえないようなやり取りから始まる。こうしたエキセントリックなキャラクターはギドク映画の特徴の一つと言えるが、今回は生き別れた母子、しかも禁忌的で背徳的な性愛にまで転じていく大変スリリングな関係となっている。これには目が離せなった。ミソンが本当に自分の母親なのか?というガンドの葛藤も見事に表現されている。

 ただし、このミステリの答え自体は中盤あたりで早々に想像がついてしまう。しかし、だからと言って今作が面白くないと言うわけではない。答えが出されるまでのストーリーテリングがよく出来ていて、一寸も飽きさせない内容になっているのだ。サブキャラの使い方、伏線と回収も見事にハマっていて見事である。

 そして、全てが明かされるクライマックス。これには複雑な感動が味わえた。ミソンの慈しみ深い母としての愛、一人の女としての悲痛なる愛。それらがガンドを現実に引き戻し、彼の生き方そのものを180度ひっくり返してしまう非情さ、カタルシスに痺れてしまった。
 加えて、このクライマックスにはちょっとしたサプライズも用意されている。ガンドがこれまでしてきた事の報いをこういう形で示したところに、ギドクやりよるな‥と思わずニヤリとさせられた。

 ミソンにしろ、クライマックスのサプライズゲストにしろ、母性を敢えて美しいものとして描かなかった所は、同じ韓国映画「母なる証明」(2009韓国)に通じるものが感じられた。もしかしたら、この偏執的なまでの異常な母性愛は、韓国の家族社会の陰を示すものなのだろうか‥?色々と検証してみると面白いかもしれない。

 また、その後に続くラストも衝撃的だった。映画を観終わっても暫く余韻が引く。実に印象的なラストである。

 このように、今回のギドク作品は、ここ最近見られた悪い意味での抽象的な演出は皆無で、まるで初期時代を思わせるような醜悪さ、リアリズムを前面に出した作りになっている。本気で見入ってしまうと、映画が終わることにはかなり神経がすり減ること間違いなしだが、逆に言えばギドクの刺激的な語り口には目を逸らすことを許さない力強さが感じられた。このエグいドラマをどう受け止めるかは、観た人それぞれだが、自分はかなり面白い作品だと思った。少なくとも復讐の虚しさを通り一辺倒に糾弾する安易なヒューマニズム映画とは完全に一線を画した意欲作だと言える。

 尚、取っつき難い作品であることは確かだが、所々にユーモアが加味されているのでそこは映画の見やすさに繋がっていると思う。前半は幾つかクスリとさせる場面があった。また、ウサギのくだりなど、ホッと安堵させるような演出もある。このあたりにはギドクの熟練した演出さばきが伺える。

 一方、所々で手持ちカメラのズームアップ演出が登場してくるが、これには違和感を覚えてしまった。おそらくシーンの生々しさを強調するためのドキュメンタリータッチなのだろうが、全体の演出からすると少々浮いた印象を持ってしまう。
 その他にも若干、不自然に写った箇所が幾つかあった。
 例えば、ガンドとミソンが町に出かけるシーンがあるが、ここでのガンドの変容ぶりはそれまでの彼を見ているとかなり唐突に感じてしまう。抑制を利かせた方が自然ではなかったろうか?
 それと、細かな部分になってしまうが、クライマックス場面ではサプライズゲストが去って行くカットが欲しかったかもしれない。おそらく、あの場面でガンドは魂の抜け殻になっているので犯人を捜しに行くというのは難しいだろう。であるならば、やはりサプライズゲストが去って行くカットは必要である。そうでないと、このシーン自体が中途半端な感じで終わってしまい、締まらない。

 キャストは、ガンド役、ミソン役共に好演していると思った。なんと言っても、ガンド役の青年の荒んだ目が良い。これは演技云々と言うよりも、もはや造形の魅力と言っていいだろう。また、ミソン役の熱演も素晴らしかった。特に、ガンドに犯されそうになりながら嗚咽をもらすシーンの痛々しさと言ったら言葉も出ない。

 今回は製作期間が短く、たった3日間でキャスティング、10日間で撮影したということである。普通の映画に比べればかなり小規模な作品である。しかし、映画とは面白い物で、時間とお金をじっくりかけたから傑作が出来ると言うわけではない。中には小規模の作品でも傑作は出来上がってしまう。今作がその良い例だろう。改めてこれだけの意欲作を作ったギドクには拍手を送りたい。
[ 2013/07/03 00:01 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1139-183fa3bc