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さよなら渓谷

真木よう子の演技に星1つ増し。
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「さよなら渓谷」(2013日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 ある渓谷の町で児童殺害事件が発生する。犯人は児童の母親だった。その隣家には若いカップル、俊介とかなこが住んでいた。傍目には仲睦まじい新婚夫婦だったが、二人にはある秘密があった。ある日、俊介が警察に逮捕されてしまう。俊介と容疑者の母親が不倫関係にあったという情報が警察に入ったからである。事件を追う週刊誌記者・渡辺は俊介の過去を調べていくうちに恐るべき真実を知っていく。
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(レビュー)
 芥川賞作家・吉田修一の同名小説を映像化したサスペンス・ロマンス作品。

 今回はキャラクター名でレビューしてしまうと、ほとんどがネタバレになってしまうのでどこまで書いて良いのか大変難しい。色々と気を使いながら書いていくので分かりづらいかもしれないが、そこはご容赦を‥。

 自分はこの映画を観て小林政広監督・主演の「愛の予感」(2007日)を連想した。「愛の予感」は加害者と被害者の親同士の関係に迫った作品だったが、今回もそれに似たところがある。

 物語はまず児童殺害事件から始まる。週刊誌記者・渡辺は、この事件を取材していくうちにもう一つの事件、過去に起こったレイプ事件を知っていく。映画はそれを紐解いていくミステリー仕立てになっていて、そこに「愛の予感」に似た加害者と被害者の禁断の愛が見えてくる。ただ、「愛の予感」はラストをハッピーエンドのように描いていたが、今作はどこまでもシビアに捉えている。小林政広監督はある種ロマンティストなのだと思うのだが、確かに映画ならハッピーエンドもありだろう。ただ、現実の多くはもっとほろ苦い物である。被害者の憎しみはそう容易く洗い流せるものではない。そして、加害者は永遠に罪を背負いながら生きていくしかない。今作のラストの被害者の"選択”と、それを受けて茫然自失となる加害者の表情は、何とも苦々しい鑑賞感を残すが、それは現実を正直に描いているからである。そういう意味では、「愛の予感」よりも今作の方がリアリティが感じられた。

 ただ、ストーリーの構成については物申したい。この映画は色々な事件背景をぼかしており、全体的に舌っ足らずな作劇になってしまっている。無論それはミステリを容易に種明かしさせないためのテクニックなのだが、それにしても幾つか不自然に思う箇所があった。

 例えば、本編には児童殺害事件周辺の描写は一切出てこない。刑事が俊介を取り調べるシーンはあっても、彼と不倫相手だったと言われている容疑者の取り調べは全然出てこない。そこは映画のリアリティを考えた場合、描かなければダメだろう。容疑者の証言次第では俊介の嫌疑はすぐに晴れることだってある。何故その描写が無いのか?どうにも解せない。
 また、過去のレイプ事件についても不満は残った。この事件に関与したのは4人の男子生徒である。しかし、渡辺が調べたのは3人しかいない。もう一人はどこに行ったのか?自分が見落としてないのであれば、劇中では一切言及されていなかったように思う。特に触れなくても大筋には大して影響はないのだが、これも何だか不自然に思えた。
 また、渡辺夫妻の関係修復も何となく丸く収まってしまった感が拭えない。この冷めた夫婦関係は、かなこと俊介の関係に関連付けながら描けばそれなりに面白くなると思うのだが、中途半端に終わってしまっている。

 そして、これが最も分からなかったことなのだが、殺された子供と俊介とかなこの関係である。ここは回想がないので、俊介たちのセリフを辿りながら想像するほかない。二人は殺された子供と、どの程度仲が良かったのだろうか?おそらくそれなりに仲が良かったと思われるが、事件後の二人はそれほど悲しんでいるようには見えなかった。むしろ、まるで他人事のようにテレビに映る事件のニュースを眺めている。そればかりか、その最中にセックスを始めるのである。
 ここからは想像だが、二人にとって子供という存在は、ある種タブーだったのではないだろうか。というのも、かなこは過去に流産という苦い経験をしている。また、二人は子供を持てなかった‥というより持ってしまったらその関係は終わってしまうので敢えて作らなかった‥とも考えられる。かなこと俊介は表向きは夫婦の関係であるが、普通の夫婦ではない。ある事情で一緒になれない夫婦なのである。だから、子供を作らずに、その代わりに隣家の子供に愛情を注いでいた‥。そんな風に考えられる。

 原作は未読なので、映画でどこまで描いているのか分からないが、こうしたモヤモヤとした事件背景は見る側を混乱させる可能性がある。全てを描いてしまうのもどうかと思うが、もう少し丁寧且つ明快に描いた方が親切だったのではないだろうか。

 監督・共同脚本は大森立嗣。「まほろ駅前多田便利軒」(2011日)「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(2009日)同様、今回も堅実で安定感のある演出を見せている。完成度としてはこれまで以上のレベルではないだろうか。特に、後半のかなこの回想シーンはすべからく白眉である。所々のロングテイクもしっかりしている。

 キャストでは、かなこを演じた真木よう子の熱演が印象に残った。序盤から体を張ったセックスシーンを披露し、今作にかける彼女の並々ならぬ意気込みが感じられた。むろんセックス描写だけでなく、事件の渦中にいる人物の苦悩もしっかりと表現していた。
 特に、映画後半からは彼女の回想が中心になっていくのだが、ここはほとんど彼女の独壇場となっている。許したい‥けど、許せない‥という葛藤が切々と伝わってきて、橋の上での彼女と俊介のやり取りには思わずホロリとさせられてしまった。かなこの心の壁が崩れた瞬間だろう。良いシーンである。
[ 2013/07/05 01:39 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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